100分de名著 アンネの日記 第2回「思春期の揺れる心」 2015.03.18


一人の少女によって書かれた日記。
それが戦争の悲劇を伝える本として世界的ベストセラーになりました。
しかしその魅力は思春期の少女のありのままの声が息づいている事です。
「私はもう赤んぼでもなければ何をしても笑って許される甘やかされた駄々っ子でもありません。
自分なりの意見も計画も理想も持っています」。
そこには親への反発や初めての恋など日ごとに成長してゆく作者アンネ・フランクの姿が生き生きと浮かび上がります。
第2回は思春期のただ中にあったアンネの心の内をのぞいてみましょう。

(テーマ音楽)「100分de名著」司会の…前回はアンネが日記を書き始めて隠れ家生活に入るというところまでだったんですがまあ13歳のアンネの文章力にちょっとびっくりしました。
そうですねとても暗い時代に花開いた才能って感じでしたね。
今回もまずは指南役の先生をご紹介いたします。
作家の小川洋子さんです。
どうぞよろしくお願いいたします。
前回小川さんにとって「アンネの日記」というのは作家になる源流といいますか…そしてまた私の人生の折に触れて何度も読み返した本なんですよね。
同世代の時に読むともちろんアンネに共感しながら読むんですけれどだんだん年を重ねてお母さんの年になりそれを更に追い越した今の年代で読むとねこのアンネの周りにいた大人たちの視点でまた読める。
「優れた文学は必ず待ってくれている」といいますがそういう本だと思います。
前回僕が「ああそうなんだ」と思ったのは隠れ家の中で書いたものだけが僕は漠然と「アンネの日記」だと思ってたんですけどもうお誕生日の記念にもらったものだからその前から日記はあるんですよね?ええそうなんです。
実はほんの短い時間なんですけれど隠れ家に入る前の自由な暮らしの事も書かれておりましてお誕生日のパーティーに友達を招いて映画のフィルムをみんなで見たとか…小川さんから見た13歳の少女13から15までの間ですけどアンネっていうのはどういう女の子なんですか?そうですね文章からはね…例えば日記に学校の友達の寸評を書いているんです。
…という具合です。
書きますねぇ。
面白いですよね。
内容からするとまして日記だし誰にも見られちゃいけない事を書いてるんだけれども第1夜に出てた「キティー」に教えてあげる感じという。
こっそり「あなただけには言うけどね」という口調ですよね。
面白いですね。
本人が読んだら腰を抜かすんじゃないでしょうかね。
確かアンネにはボーイフレンドもいたんですよね?日記ではね…。
…というような記述があって男子は大抵自分を崇拝者のように扱ってくれてアイスクリーム屋に行くとみんなが1週間かかっても食べきれないぐらいのアイスをおごってくれるという。
すごいモテてるじゃないですか。
しかしこれが真実であったかどうかはまた別問題でユダヤ人中学の同級生のジャクリーヌさんという方に聞いたんですけれど彼女は非常に空想家であったと。
頭の中の空想を…それは暗に「日記に書いているほどモテたわけではないんですよ」とおっしゃっていたのかなと私は思ったんですよね。
これ我々の世界で言う「盛る」という。
「モテたモテたまあモテたね」という。
「パンツをはく暇がなかった」というそういう感じの。
そうなっちゃうと笑えちゃうじゃないですか。
そこの表現がさ「1週間かかっても食べきれないほどのアイスクリーム」という事の中のユーモアにやっていい盛り方という感じがとてもする。
なるほどね。
もしかしたら1個ぐらいアイスをおごってもらった事があったのかも分からない。
その1つの喜びを最大限に喜ぶ才能があったと。
しかもそういう小さな喜びを大きな喜びとして実感できるという事がもうつまり…そうですね。
もう「盛る」という事は話を作ってると。
物語作家であると。
才能ですよ。
ほんとにこれは素質そのものですよね作家の。
そんなアンネの作家の素質なんですが隠れ家でも発揮されてゆきます。
隠れ家には合計8人が暮らす事になります。
フランク一家に加えてペーターという男の子のいるファン・ダーンさん夫妻。
そしてしばらくしてから歯医者のデュッセルさんが加わったのです。
その中で一番年下のアンネはいつも子供扱い。
それがアンネには我慢できません。
「親愛なるキティーへあんまり悔しくてはらわたが煮えくりかえっています」。
「笑いにまぎらして気にしないようにはしていますけど本当は傷ついているんです」。
アンネはなぜか中年のデュッセルさんと同室に割り当てられるはめになりうるさいお説教に悩まされます。
そんな中隠れ家での生活が長引くにつれ大人たちはささいな事でいがみ合うようになってゆきました。
アンネに対しても「年に似合わない事ばかり知っているのは問題だ親の教育がなっていない」と批判の矛先が向けられます。
何かねまさに小川さんが言ったとおりここに書く事で僕らで言うと…日常生活をネタにした途端にもうこれでOKだネタというパッケージになりましたという事で何かスッとする。
もう本当に怒ってるんですよ。
本当に嫌な事が起こってるのに「こんな事あってさ」と言うと何とかなるという感じが。
小さな体で小さな心でそうしてる事がひしひしと伝わってきますね。
ほんとにそうですよね。
この閉ざされた逃げ場がない中でお小言をもらった時にねどうやってそれを消化するか。
こうやって書いて笑い話にして「人間って結局こんなもんだよな」という事で収めてるというね。
このファン・ダーンのおばさんに対してはもうノート一冊を埋め尽くすほどひどい事がいくらでも書けると言いながらその後こういうふうに付け加えているんです。
これも面白いんだ。
何というのかな自分の中の作家性みたいなものもしくは作家ごっこみたいな事がすごく楽しくなってて。
こちらが隠れ家の平面図なんですけれども。
アンネは中年男歯医者さんのデュッセルさんと同じ部屋になるんですね。
これがちょっとどうかなと。
思春期の女の子と中年男性が同室というのはね。
つまり大人たちはアンネをまだ子供と見てたという事でしょうね。
まあその先の見えない生活で本当に大人たちもストレスはたまってたでしょうね。
それはもう取り繕えないですよね。
どうしても人間の醜い部分とか滑稽な部分とかね普通なら人に見せなくても済むものも出てきてしまう。
それを全部ねアンネは見逃さずに日記に書いてたという事なんでしょうね。
本当に敏感だし観察力がある上に表現力があるから全部ネタにしちゃうという事ですね。
ですから戦後お父さんはこの日記を初めて読んだ時に自分の娘がこんなふうに周りの大人たちの事を見てたのかという事を知って驚いたとおっしゃってますね。
そんなアンネなんですけどもどんな大人に対しても反発していたわけではないんですね。
彼らの暮らしを外から支えていた支援者たちとの関係を次は見てみたいと思います。
隠れ家の生活は主にオットーの会社の従業員たちによってぎりぎり保たれていました。
特にミープ・ヒースは夫と共に献身的に支援を行います。
毎日の買い物から話の聞き役まで2年間フランク家を支えたのです。
「私たちの存在はきっとたいへんな重荷になっているのに違いないのにこの人たちの口からそういう愚痴は一言たりとも聞かれませんし私たちのかけているさまざまな迷惑についても不平をこぼすのを聞いた事がありません」。
こちらの青い部分表の部分会社で働いているこの人たちがアンネたちを支えていた支援者たちなんですね。
ミープさんという女性の従業員の方が旦那さんと一緒に偽造の配給切符を手に入れて食料を手に入れるしかないわけですよね。
隠れ家の人たちはこの世にいない存在になっているわけですから切符で買える食料も乏しくなってくれば闇市の長い列にも並ぶ。
あるいは図書館で本を借りてきたりとか通信教育の名義人になってアンネやマルゴーたちに勉強をさせたりとか外のニュースを伝えたり。
あるいは誕生日なんかにちょっとしたプレゼントを用意したりというような形で支援していたようです。
この人たちはユダヤ人ではないんですか?そうなんです。
立派な事ですね。
だってかなり危険な事ですよね。
そうなんです。
もう命に関わる行動ですよね。
ですから見つかれば逮捕されて収容所に送られるという中で最も長生きしたミープさんが後に書かれておりますけれどオットーに支援を頼まれて「もちろんです」と彼女は即答するんですね。
オットーが「いやこれは大変な事だからもっとよく考えて返事をしてくれれば」と言いかけるのを遮って「もちろんです」ともう一回答えたと。
ですから会社の社長と従業員という関係を超えた強い信頼関係で結ばれてたという事だと思うんです。
小川さんはこのミープさんにお会いになってるんですよね。
ええ。
とても背筋がぴんと伸びた美しい方でした。
しかし言ってみればごく普通の市民ですよね。
…とどうしても聞いてしまうんですよね。
「どうしてですか?」と。
そうするとね「理由は自分でもうまく言えない。
理由はない」と言うんですよね。
何度聞いてもやっぱり答えはそれなんですね。
2度目の秋が来ても一向に先が見えない状況で隠れ家には重苦しい雰囲気が漂っていきました。
そんな中思春期のアンネは親とぶつかるようになります。
「パパもママもマルゴーの事はけっして叱らずもっぱら私にだけ雷を落とすというのははたして偶然でしょうか」。
「私はいつもママの悪い点には目を向けないように心がけています。
なるべくママの良い点だけを見ママの中に見出せないものは自分自身のなかに求めようと努力しています」。
この母親と娘の葛藤というのはいつの時代も同じだというか思い当たるところ…。
どうしてもお母さんが生活の面倒を見る部分が多くなるから衝突も多くなりますよね。
お小言言われるし。
「どうしてここまでママの事が嫌いになったかさっぱり分かりません」と書いてあってこのアンネが言葉にできないぐらいなんですから理屈じゃないという事なんでしょうかね。
母親に対するこういう厳しさというのは自分に振り返ってみてもあるなと。
愛する人だからこそ完全な人でいてもらいたい。
完璧を求めてしまうのが思春期ですよね。
母として読む少女として読むとやっぱり違うものですか?女性の先輩ですからね自分が将来こうなりたいと思うお母さんでいてほしいけれど現実はそうじゃない。
だからそのお母さんの持ってる欠点をどうしても許せない。
欠点を含めて相手を受け入れるというほどのまだ余裕がないんですよね。
そうなんですよね。
大人になってみると「大人も泣くしずっこけますよ」と思うけど子供の頃に「それは無しでしょ。
いつも大人だからお父さんたち威張ってるし大人だから夜遅くまで起きててもいいのに」って思うわけだから。
将来アンネが社会に出たり家庭を築いたりした時にエーディトが本当にいい相談相手になったと思うんですよね。
この嵐の時期を通り過ぎてその先にある…ですからその日記を書いてる間にその初期の段階ではお母さんに対してガチガチの自分の価値観を押しつけるだけだったのがだんだん少しずつ…一方お父さんとの関係というのはどうなんですか?父オットーに対してはね……という大変な尊敬と信頼を寄せていて。
このお父さんはアンネがデュッセルさんともめて「机をデュッセルさんが使わせてくれない」という事でアンネが傷ついてる時にちゃんとデュッセルさんに話をつけて時間を決めて娘にも日記を書く時間を与えてやってくれとちゃんと説得したりして。
娘にとって何が優先順位として一番かという事を理解していたお父さんだったようです。
そして14歳のお誕生日には詩をプレゼントしているんです。
すてきなお父さんだなぁ。
その内容がね。
立派なお父さんだなぁ。
というか日記にぶつけてるあの思いを全部理解してるという。
読んでたんじゃないの?お父さん。
という感じですよね。
そういう精神的な娘たちへのフォローだけじゃなくてお金の調達とか食料の事とか支援者たちへの指示とかねいろいろ現実的な問題もオットーは解決しなくちゃいけなかった。
オットーをはじめ大人たちはほんとに頑張ってたな。
しかし自分が大人になって読むと隠れ家の中に3人子供がいた。
マルゴーともう一人ペーターとアンネ。
…という言い方もできると思うんです。
大人だけだったらここまで頑張れないんじゃないかと。
やっぱり自分より年の若いこれから未来がある者たちをどうにかして守らなくちゃいけないという責任感が大人たちを支えてもいたんじゃないかなと思いますね。
「誰よりも親愛なるキティーへ」。
もう何かもがいているアンネの生々しい声が聞こえてくるようなそんな感じがしますよね。
それにしても「誰よりも親愛なるキティーへ」ってこのキティーは本当にアンネの気持ちをじっと聴いてくれるんですよね。
そうですね。
これ読んでいくとまるでアンネがカウンセリングを受けているかのように反論もせず否定もせずアンネの言葉を全部受け止めるキティーという存在。
キティーに向かってアンネが語る事でアンネが心の平穏を保ってたんだなという事が分かるんですよね。
翼を取られた小鳥が暗闇の中でバタバタしてるというその…ですから余計なものとつながってない純粋な孤独を彼女はかみしめているわけです。
それはネガティブな孤独じゃなくて…外の世界へ広がっていけない分余計に…深く深く自分の内側へ降りていくそういう方向の旅をしてる自分の内面を旅する時に彼女の頼りにしてたものが言葉だった。
…という事なんじゃないでしょうかね。
本当にさっきからなぜこの彼女の言葉が響くのかってやっぱりオリジナルなんですよね。
ありきたりの事だからありきたりの言葉で書くんじゃないんですよね。
人に借りた言葉やもともとある言葉を引用するんじゃなくて何かオリジナルに書き残そうとするんですよね。
…でいてそれに成功してますよね。
そうですね。
辞書に載ってる意味を超えた言葉の意味をちゃんと彼女は追求しようとしている。
原型のね何かを本当に。
そう思うと言葉って事に関して「アンネの日記」がもう一度僕らに教えてくれる事はすごいまたありますね。
ますます面白くなってきましたが次回はなんとこの隠れ家で恋をする事によって成長していくアンネの姿を見ていきたいと思います。
小川さんありがとうございました。
ありがとうございました。
2015/03/18(水) 12:25〜12:50
NHKEテレ1大阪
100分de名著 アンネの日記 第2回「思春期の揺れる心」[解][字]

思春期を迎えたアンネは、自分を子ども扱いする大人に腹を立て、衝突を繰り返すようになる。そのいらだちを受け止めたのは日記だった。第2回は思春期の揺れる心を描く。

詳細情報
番組内容
思春期を迎えたアンネは、自分を子ども扱いする大人に腹を立て、衝突を繰り返すようになる。そこで父は、アンネが日記を思う存分書けるよう環境を整えた。傷つきやすいアンネの心を守ろうとしたのである。アンネは、日記を書くことに大きな自由を見いだし、思いのたけをぶつけた。アンネは、日記によって大人たちとの葛藤を受け止めていったのだ。第2回は、思春期のいらだちとそれを見守る親の気持ちについて考える。
出演者
【ゲスト】芥川賞作家…小川洋子,【司会】伊集院光,武内陶子,【朗読】満島ひかり,【語り】好本惠

ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – カルチャー・伝統文化
ドキュメンタリー/教養 – 文学・文芸
趣味/教育 – 生涯教育・資格

映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
日本語
サンプリングレート : 48kHz
2/0モード(ステレオ)
日本語(解説)
サンプリングレート : 48kHz

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