あの日から間もなく4年。
未曽有の災害はこれまで表に出る事がなかったある現実を浮き彫りにしました。
・それは女性たちが受けている暴力被害です。
震災をきっかけに始まったこの無料電話相談。
見えてきたのは女性たちの多くが震災前から夫や恋人からの暴力に耐えていたという現実でした。
夫と二人きりの農作業の合間に殴られ続けてきた女性。
ばり雑言を浴びせられた結果精神科への通院を続けている女性。
こうした暴力がDVドメスティックバイオレンスだと気付く事さえできなかった女性が数多くいたのです。
(取材者)あった暴力が…。
自分のつらさは夫のDVによるものだと気付いたこの女性。
常に「お前が悪い」と責められ続けてきたといいます。
震災をきっかけに明らかになってきた女性たちのDV被害。
その現実と向き合います。
こんばんは。
「ハートネットTV」です。
シリーズでお伝えしています「被災地の福祉はいま」。
第3回の今日は東日本大震災をきっかけに被災地で明らかになってきた女性のDV被害の実態についてです。
DVドメスティックバイオレンスは夫婦や恋人などからの暴力の事をいいますがさまざまな生活の悩みを受けている電話相談窓口によりますと女性のDVや性暴力の被害についての相談割合は被災3県以外では全体の4.8%。
一方で岩手宮城福島の被災3県ではそのおよそ1.7倍にも上っています。
ではなぜ被災地でこうした相談が多いのか。
取材の結果意外な事実が分かってきました。
震災があったから被害が増加しただけではなくて以前からあった暴力被害が震災をきっかけに見え始めているというのです。
家という閉鎖空間の中で起こるために発見が難しいとされるDV。
その被害を受けてきた被災地で暮らすある女性を取材しました。
津波で家を失ったますみさん50歳です。
夫と子どもたちと仮設住宅で暮らしています。
家事育児に専念してきたますみさん。
長年夫との関係に苦しんできました。
それがDV被害だと思うようになったのは震災後外に出て働き始めてからでした。
きっかけは同僚との何気ない会話。
それまで夫の要求どおりにできない自分が悪いと考えていました。
ますみさんは30年前にこの町に嫁いできました。
夫は結婚直後から家の事は全てますみさんに任せきり。
話しかけても一切関心を示さなかったといいます。
すいません。
すいません…。
3人の子どもが生まれてからも夫の態度は変わりませんでした。
ますみさんを最も苦しめてきたのは生活費。
夫から手渡されるのは現金で月に数万円。
子どもたちの学費や食費など全てをこの金額でやりくりしなければなりませんでした。
勇気を振り絞って夫に相談すると「ほかの家はこれでやっている。
できないお前が悪い」と責められ続けました。
親しい友人はなく自分の両親にも心配をかけてしまうからと悩みは誰にも打ち明けられませんでした。
生活費が足りなくなるとますみさんが借金をして賄うしかありませんでした。
3月11日ますみさんの自宅は津波で全て流されました。
避難所で目にした肩を寄せ合い助け合って生き抜こうとする人たちの姿。
家と夫に縛られてきたますみさんは自宅が流された事で何かが変わるかもしれないと思い始めました。
震災の半年後かさんだ借金を返済するためますみさんは自ら仕事を見つけ働き始めました。
仮設住宅などを訪ね高齢者の生活を支援する仕事です。
被災した者同士毎日地域を回るうちにますみさんはこれまで誰にも話せなかった夫との関係を同僚に相談できるようになりました。
スタジオにはお二方にお越し頂きました。
まずは24時間無料であらゆる生活の悩みを受け付ける電話相談よりそいホットライン事務局長の遠藤智子さん。
そしてDVや性暴力の被害を受けた女性の支援活動に関わりDV加害者についての本も執筆されている東北大学教授の沼崎一郎さんです。
よろしくお願いします。
まずは遠藤さんにお伺いしたいんですが今映像でますみさんの例を見てきました。
なぜDVを受けているという実感というんですか。
…がないんでしょうか?自分がどういうふうに…。
例えば妻とか母とかという役割をやっている時にはどういうふうに振る舞うのが一般的なのかっていうのの考え方の中に多分我慢する事がすごく入っていてお金を「これで工面するんだ」って言われたらそうしなくっちゃって思う。
それは…とても暴力。
これは経済的な暴力ですけれども暴力だとは思えないっていうそういうお気持ちがあるんだと思いますよ。
その怖いっていうのがやっぱりポイントだと思うんですよね。
というのは?だから乱暴だとかけんかをするとかっていう事とは全然違う事だと思うんですよね。
相手が怖いから。
…でいつも怖いの。
いつも怖いからいつも構えて身構えてなきゃいけないでしょ?それで彼女は死にたかったんですね。
そういうお気持ちになってたじゃないですか。
ず〜っと緊張してるとやっぱり抑うつ的になるからそういう暗い気持ちに引き込まれていく気持ちになるんですよね。
沼崎さんその辺りどういうふうに感じますか?狭い小さな地域社会それからその中でも自分の家。
今までずっと閉じていてしかも彼女も友達もいなくて誰とも話もできなかったというふうに言ってますけども全く孤立してポツンと閉じ込められてる状態の所が震災のおかげって言うと変ですけども風穴が開けられた。
風穴が…はい。
町の中にもどっと外からいろんな支援者とかボランティアの人たちが入ってきますし。
彼女の場合は特に仕事を始めた。
始めた仕事も震災があったから生まれた仕事ですよね。
そこで新しい出会いができてようやく初めて自分の家の外の世界に触れて自分の暮らしとか自分自身を見直す事ができるようになったというのが大きいんだと思います。
これだけ暴力被害があるという事は暴力をする加害者もいるという事だと思うんですけどもなぜ暴力を振るってしまうんでしょうか?これはだから…よくある誤解というのがありまして。
例えば加害者の人っていうのは火山みたいなもんだというふうに思われていてですね。
中にマグマがたまってるんですね。
こらえきれなくなると爆発すると。
爆発してガスが抜けるとスッとして元に戻るというふうに考えられがちなんだけれど実は全然そうではない。
この火山には蓋がついてましていつもは蓋を閉じてるんですね。
決して自制できずに自然に爆発するのではなくて家の外では職場では真面目な会社員だったり近所の人にとってはいいお隣さんだったりそういういい顔をしてどんな欲求不満があっても決して爆発はさせない。
ところが家の中で誰も見てない所で妻と子どもを狙い撃ちにして爆発してみせる。
そうやって脅かす事によって相手に怖い思いをさせて怖いから言う事を聞かなきゃいけない。
怖い目に遭いたくなかったら言う事聞かなきゃいけないってところに追い込んでいくというのが暴力なので。
ちゃんと火山の蓋の開け閉めをしているので私はいつも暴力を選んでいるっていう言い方をしています。
これそうすると震災によって爆発のしかたが変わったとか何か震災の影響というのがあったりするんでしょうか?暴力を振るう言い訳が増える訳ですよ。
しかも「震災で大変なんだ。
家も流されちゃって仕事もなくなって」って言ったら周りのみんなはやっぱり「そりゃ大変だね」って同情しますから…。
その同情されるような私の方がかわいそうな人間でかわいそうな私をちゃんと面倒見ない妻と子どもは駄目な…そっちの方が悪いんだっていうふうに加害者は考えますから。
単にいろいろ暴力を振るうチャンスが増えてしまったという事に加えて更にその暴力を振るう相手に言う事を聞かせる言い訳がまた増えるという事があります。
追い詰められている女性たちも多いという事だと思います。
声を上げ始めたDVに苦しんできた女性たち。
その女性たちをどう支えていけばよいのでしょうか。
宮城県石巻市。
去年12月DVなどの被害者と支援者たちを対象にした講座が開かれました。
主催者の中心になっているのは暴力被害を受けてきた当事者の女性たちです。
被害に気付いた女性たちをサポートしていくために震災後各地を回り出張講座を開いていく事にしたのです。
傷つけられた女性たちに必要なのは失いかけた自尊心を取り戻す事。
それが次の一歩を踏み出す力になります。
過去にDV被害を受けた当事者が講師となり自らの経験を基に語ります。
当事者である女性が自信を持って生きている姿は今DV被害に気付いたばかりの女性たちにとって大きな励みになっています。
更に暴力の被害を受けている女性たちの声を一人でも多くすくい上げる取り組みも始めています。
この日は将来医療の現場で働く看護学部の学生たちに理解を深めてもらう講義。
DV被害の中でも当事者が言いだしにくく発見しづらいのが性暴力です。
言葉に出さなくても被害を訴える事ができるチェックリスト。
学生たちがこうした知識を持ち今後それぞれの職場で被害に気付く事ができれば一人でも多くの女性を救う事ができると考えています。
震災をきっかけに夫からのDV被害に気付いたますみさん。
高齢者の生活を支援する仕事を続けるうちますみさんの気持ちは変わっていきました。
自分を必要としてくれる人がいる。
小さな自信が生まれてきたのです。
(笑い声)失礼します。
こんにちは。
震災から間もなく4年。
これから自分はどう生きていきたいかますみさんは考え始めました。
どうもありがとうございます。
この仕事で得た収入で一旦夫のもとを離れ関係を見つめ直すつもりです。
このように声を上げ始めた女性の皆さんの声をどういうふうに受け止めて支えていったらいいのか。
遠藤さんどういうふうに思いますか?今の映像で自分が体験をされて…DVを体験をされた人が講師になっていてしかもあれ多分いろんな沿岸部の小さい所も回ってらっしゃるのかな。
あれがすごくいいと思いましたね。
あの中で支援者の方が話されてましたけど自分は暴力に耐えきれなくなって逃れる事にして新しい生活を始める事にする。
でもじゃあねどういうふうになればいいんだろうっていうのがすごく難しいと思うんですよ。
その時に先輩の人がそれに会う事ができてそういうつらい時はこういうふうに乗り越えよう。
こういう時はこういうふうに考えようっていう話ができたらすごくいいと思って。
すばらしい取り組みだなと思いました。
こういうふうにまだまだでも声を上げられていない女性の皆さんもたくさんいると思うんです。
被災地だけではなくて全国にもまだまだたくさんいらっしゃると思うんですよね。
だから私は今見せて頂いてやっぱり被災地の中で顕在化したのでそれに対する支援のプログラムが進んだ。
進んでるんだっていう事なんだって。
だからそれが全国にやっぱり波及できるようにする必要があるのではないかなというふうに逆に思いましたですね。
それはさまざまな支援もそうですしあるいは避難所でも今度役場の人が来て女性のニーズを聞いてくれるとか女性だけの集まりを作ってくれるとか。
こじあけて届けないと届かないんですよ。
どんなに自治体で何か講演会をやったりとかしてもそこに出てこられる人は少ないので。
特に深刻な被害を受けてる人は家の中に閉じ込められていて自由に外出もできないしあるいは電話もできないとかね。
それは友達づきあいとか親戚づきあいもできないってそういう形で孤立しているのでそれは地方の小さな町とか村だけじゃなくて都会のマンションの1室だってそうなんですね。
そこに踏み込んでいって情報を届ける人が出てこないと被害を発掘する事はできないというのが今回のこの震災の教訓だと思います。
震災で明らかになった一人一人の個別の傷つき。
個の深い傷つきについてそれを回復させるための個々人に対する特別な配慮の在り方支援の在り方それが本当に制度になるといいなというふうに思います。
最後になんですけどもまだまだDVの被害を受けていて声を上げられない女性の皆さん多くいらっしゃると思うんですが何か伝えたい事はありますか?私は今24時間の無料の電話相談をやっていますけれども皆さんどんな悩みでもいいんだけれど絶対に一人ではないので…。
蓋を開けたら同じ悩みの人ものすごくたくさんいるんですよ。
一人ではないのでとにかくだまされたと思って電話をして誰かに相談をしてもらいたいと思っています。
では最後にDVや暴力被害についての相談窓口などをご紹介します。
電話相談窓口を2つご紹介します。
そして内閣府が行っている…今日はどうもありがとうございました。
2015/03/18(水) 13:05〜13:35
NHKEテレ1大阪
ハートネットTV「明らかになったDV被害〜東日本大震災後の女性たち〜」[解][字][再]
東日本大震災を契機に始まった電話相談でこれまで表に出なかった女性へのDVや性暴力被害などの実態が明らかになってきた。深刻な現状と始まった救済への取り組みを伝える
詳細情報
番組内容
東日本大震災をきっかけに始まった「よりそいホットラインDV・性暴力相談室」。寄せられる相談から、これまで表に出ることのなかったある現実が明らかになった。それは女性へのDVや性暴力被害。被害女性の多くは、震災前から暴力を受け続けていたものの、周囲に気兼ねし誰にも相談できず、自殺を考えるほど追い込まれるケースも少なくなかった。女性たちへの暴力の深刻な現実、現地で新たに始まった救済への取り組みを伝える。
出演者
【出演】NPO法人事務局長…遠藤智子,東北大学教授…沼崎一郎,【司会】山田賢治
ジャンル :
福祉 – その他
福祉 – 高齢者
福祉 – 障害者
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
日本語
サンプリングレート : 48kHz
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日本語(解説)
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