100分de名著 アンネの日記 第3回「性の芽生えと初恋」 2015.03.18


「太陽が輝いています。
空は紺碧に澄みわたり心地よいそよ風が吹きそして私はあらゆるものにあこがれています。
私は思います」。
日記と向き合いながら心も体も日々変わっていく自分を見つめていたアンネ。
書く事は彼女に大きな力を与えていました。
そして経験する隠れ家での初恋。
人を好きになる事でアンネは更に成長してゆきます。
第3回は閉ざされた世界で前だけを向いて生きたアンネの青春を見つめます。

(テーマ音楽)「100分de名著」司会の…さあ伊集院さん「アンネの日記」いかがですか?ほぼお初だったですけど。
そうですね。
何かごくごく普通の女の子なんだけどごく普通の女の子じゃないのは普通に感じた事をそのままちゃんと書けちゃうというのはこれ実は普通じゃないとんでもない才能でしかもその時代が全くもって普通じゃない時代だから。
その奇跡のバランスですごい作品になってるんだなみたいのがここまでの印象です。
今回の指南役も引き続き作家の小川洋子さんです。
どうぞよろしくお願いいたします。
さあ第2回まで読み解いてきました「アンネの日記」ですけれども実は「アンネの日記」には3つのバージョンがあるという事なのですがこちらをご覧頂きましょう。
まずそもそもアンネが書いていた原形ですね。
原形の日記。
そして1947年に父のオットーが娘の思い出をとどめておこうという個人的な思いで出版した本。
この時はお母さんを非難した部分をカットしたり当時の道徳観に照らし合わせてちょっと過激すぎる性的な描写については削っていたと。
実はその間といいますかアンネ自身も編集をしていたんですね日記を。
ええ。
1944年の春にオランダ政府がラジオでもし戦争が終わったらその戦時中の手紙や日記など手記などを歴史的資料として広く集めたいという呼びかけがありましてそれを聞いたアンネが自分の日記も是非ね世の中の人に見てもらいたいと思って清書するんですね。
は〜…これはちょっと初耳というか意外ですけど大幅に変えたりはしてないんですか?ええ。
ちょっといろいろ自分でも悪口を書きすぎたと思った人の名前は変名にしたりとかですね。
それで人に見られても大丈夫なようにきれいな字でもう一回書き直していた。
しかしそれがこのもともとのAの日記も引き続き同時に書いていたんですね。
直しつつみたいな。
ええ。
そのAに追いつかないうちに清書が追いつかないうちに連行されてしまうと。
そしてこのあと1991年に。
ほんと最近ですね。
そうなんですほんとに最近なんですよ。
日本では94年にこの完全版というのが出版される。
私が思春期の頃読んでいたのはCのパターンだったんですけれどお父さんが亡くなりましてアンネの全ての原稿がオランダ国立戦時資料研究所に委ねられて公のものになったんですね。
そこでオットーによって削られていた部分を含めまして完全な形で近年出版されたと。
でもこの内容お父さんが発表した時よりも3割増えてるというのはかなりな量ですよね。
そうですね。
この増えた部分の主な内容は性に関する部分ですよね。
やっぱりアンネがこの思春期の時期に率直に自分の体に性の問題に関心を示していた。
そこがまあそれまで誰の目にも触れなかった部分がこうやって完全版として読まれるようになって「純真な少女のイメージが打ち砕かれた」というような宣伝文句で完全版が出たわけですね。
しかしね長く親しんできたCのパターンを読んできた人間からすれば…アンネ・フランクがねあの好奇心いっぱいで人間について深く知りたいと願っていた少女がね…例えば自分の体を描写してね女性器について。
キティーに向かってこういうふうに書いているんですね。
何かその興味も分かるしあとその「父心」みたいのもまあ分かりますよね。
その部分はさすがに発表したくなかったというのも分かるから。
何か僕はこの4夜が終わってからゆっくり読もうと思ってるんですけどどっちから読むのがいいかなと思って。
何か僕1夜目2夜目でお父さんというものに対してもすごく敬意を覚えてるからお父さんが切ったというその切った形も読みたいしそのあとでアンネという作者にとってはこれ大事な事だなみたいなのはちょっと面白そうですね。
ですからどこがカットされていたのかという事を見ていくと……という事を感じ取る事ができますよね。
そんなふうに思いのほかいろんな成長を遂げているアンネですがある時隠れ家の中でこんな出来事がありました。
隠れ家で同居するペーターはアンネより3歳年上の男の子。
初めのうち彼の事を「退屈な人」と思っていたアンネも次第に心を開いてゆきます。
ある日ペーターの飼っているモッフィーという猫について2人はこんな会話を交わします。
(アンネ)モッフィーが雄だか雌だかまだ知らないわよね私たち。
(ペーター)ばかだな分かってるさ。
雄だよ。
いいかいこれが雄の生殖器だ。
こっちのこれは別に何でもないただの毛。
そしてここが肛門。
「けれどもペーターの口調はいたって淡々としていて普通なら言いにくいような事をすこしの嫌味もなくごくあたりまえの事のように話すのでそのうち私も気が楽になり自然にふるまえるようになりました」。
この場面すごく爽やかですよね。
そうですね。
スッとそんな事が言えちゃうっていうなかなか男の子と女の子の間でそれは難しいですよねこの年代。
そうなんですそこを何か妙にてれたりとか嫌らしい話に冗談にしたりとかごまかさないで会話をしている。
ですからアンネもね…。
…というふうに書いて感動しております。
お〜!ペーターちょっとすごいですね。
もともとね好奇心旺盛な女の子ですから隠れ家に来る前にも女の子の友達と赤ちゃんはどこから出てくるんだろうかという事を話し合ったりしてるという事があったり。
初潮を迎えるわけですけれどそういう…嫌らしくて隠しておくべきものというふうには捉えていなかったようですね。
こんなふうに性の問題に真正面から向かい合ってたという事もやっぱり未来を信じていたからなんでしょうね。
日々体が刻々と変化していく。
自分の体が変化する事を実感するという事は未来の自分をそこに見るという事ですのでその事にわくわくしてるという感じですね。
会った事のない自分ですもんねどんどん変わっていくという事は。
そういう大人の自分に早く会いたいっていうね何かそういう気持ちがこのカットされていた3割の中に実は含まれていたんだなと思いますね。
最初の方では全然ペーターの事すてきだと思ってないんですよねアンネは。
ええ。
このモッフィーの描写の前ほとんど出てこないんですよね。
そもそもペーター自身がね。
ペーターに対しては最初ほんとにさんざんな評価を下しておりまして。
…と完全否定されているところから。
救いゼロですね。
スタートはここだったんですね。
でもこの猫のモッフィーが果たした役割がすごく大きいなと。
偶然のなせるわざだったと思うんですけれどこのネコを通じての会話がね何か2人を一気に近づけていく。
それまでお父さんしか異性というものを深く知らなかったのにお父さんではない男の子だけが持っている何か性の気配みたいなものにここに気がついていく。
お互いそうでしょうね。
ペーターの方も。
しかも最初は何かつまんない子と思っていたマイナスから急にグググググッとプラスに成長していくこの落差がまた恋に発展するんじゃないでしょうかね。
さあこのモッフィーの事をきっかけに2人の距離はどんどん近づいていきます。
口下手ながらペーターも心の内にさまざまな思いを抱えているのだと気がつきやがて2人は毎日のように屋根裏部屋で語り合うようになります。
そしてアンネは恋に落ちるのです。
「朝早くから夜遅くまでペーターの事を考えるばかりで他の事は手につきません」。
時には屋根裏の窓から僅かに見える自然に会話を忘れ2人して心を動かされる事も…。
「それを見ながら私は考えました」。
この環境は何もかも足りないんだけどその心の持ちようとか心の美しさで必要最低限のものは全部あるという。
何もない所からちょっとだけ見える僕らからしたら普通も普通な景色に対してこういうふうにときめける。
あと恋ってこんなんだっけみたいなてれくさい感じの。
ドキドキしますね。
ちょっとウインクされただけですごい胸がドキドキしたりとか。
あるいはもしかしてマルゴーもペーターの事が好きだったらこれは三角関係に陥って困るなと心配をしたりしてるんですね。
そういう恋がこういうふうに始まってこういうふうに高まっていくという過程がねほんとにありありと描写されていて。
またペーターも直接好きと言わないでどういう形でアンネの心をつかんでいくかというと例えば…。
するとアンネが「どうやって?」と問うと…。
…と答えるんですね。
これはぐっときますね。
逆にペーターがね多分3つ上でしょ。
こういう環境でしょ。
だから多分好きだというのを抑えながら抑えながら抑えながら言うとこういう表現になるんじゃないかなとちょっと思うな。
そういう抑制のきかせ方がすごく大人ですよね。
アンネの最もいい点長所をねこんなふうに持ってきて好きだっていう気持ちを伝え合っていると。
この時の2人に恋ができてよかったねと言ってあげたいです。
ある日アンネはいつになく感情的になります。
込み上げる思いに身を任せ2人は決して離れまいとするように何度も固く抱き合いました。
「ああペーターあなたは私になにをしたの?」。
感情にのみ込まれる経験はアンネに恐れを抱かせます。
それ以来アンネは自分を制御してペーターとの関係にも距離を置くようになりました。
初めて口づけされた日の事を「私にとっては大事な日」って記してて。
すごいですね。
これどういう感じ?何か分かるんですけど。
どういう感じか分かるけど分からない感じがまさにあの感じなんでしょうきっと。
そこが天才的なんですよ。
ちょっと余計な言葉で解釈したくないといいますかね。
読む人それぞれのね自分の初恋の体験恋の記憶それに照らし合わせて読者おのおのがこの言葉から何を感じるかですよね。
でもアンネはすごくこのあと怖くなっちゃうというか急に冷めていくというかブレーキかけるんですね。
そうなんです。
まあ急激に2人の関係が接近していく事に対して彼女はちょっと待てよというふうにブレーキをかけ抑制をかけてこの感情の高まりを抑えようとして。
まあそこにはもしかしたらお父さんへの配慮というかお父さんを裏切るような事だけはしちゃ駄目だという気持ちがねあったと思います。
多分これは僕の個人的な経験だけじゃないと思うけどこういう事ってあるよね。
女性の方が「ちょっと距離を置きましょう」。
この年代特有かもしれない。
これは女性からすると「受験だからちょっと距離を置きましょう」というのは女性からいうと本当にちょっと距離を置こうよという事だけど男は絶望的に捉えるんだよね。
これもう終わりなんだ別れるんだと思うから何で?何で?というふうになるんだよね。
ペーターの方がどんどんアンネに視野が集中していく。
しかし…自分の体を自分で守らなくちゃいけないという女の子特有のブレーキも持っているし。
ちょいちょい頭をよぎるのはお父さんはどう思ったかねこれを読んで。
我が娘亡くなってるわけだからそれはまたちょっと普通の親が普通の娘の子供の頃の日記を読むのとはまた違うんだけどやきもきしたりとかうれしかったりとか何かいろんな感情があって。
ちなみにペーターも亡くなりますか?ええ亡くなるんです。
隠れ家生活の中でねアンネはまだお姉さんがいたので女の子同士の話もできたと思うんですけれどペーターは本当に一人なんですよね。
ですからペーターが抱えてた孤独というのがねまたアンネとは違う種類のねこの世代の男の子特有のほんとに深い孤独を彼は一人で耐えていた。
でもだからこそアンネと2人で過ごした僅かな時間が彼の人生にとって本当に輝かしいものであったはずだ。
ここに書かれていた事を読めばね。
きっとモッフィーの背中をなでている時とは違うアンネの髪をなでてる時の彼の喜びっていうのがねどれほどのものだったかという事を今はもう死者となってしまったペーターの人生を振り返って読む読者としてはねその彼の人生のきらめきを十分にここで読み取ってあげたいなと思いますね。
「自分がなにを求めているかも知っていますし目標も自分なりの意見も信仰も愛も持っています」。
すごいですね。
このペーターとの恋愛経験がそれまでずっと屈折していたお母さんとの関係にも変化をもたらしましてね。
だんだん「お母さんが自分の事を分かってくれない」ってキーッとなってたあのアンネからだんだん「お母さんがいかに自分を子供扱いしようとそれはお母さんの問題である」と。
自分はお母さんのような生き方はしない。
お母さんを乗り越えて自分の人生を生きていくんだというふうにねちょっと一つ階段を上ったなという気がします。
お母さんの立場からするとまた複雑でしょうけどもでもそういう事ですよね。
相手の気持ちをそっくりそのままいくら親子でも共有する事はできないんだと。
自分にもこうやっていろんな秘密ができてくるわけですものね。
臨床心理士の河合隼雄先生が思春期の成長についてこういう文章を残しておられるんですね。
アンネにとってはこの隠れ家がさなぎだったんですね。
強い守りの場所としての隠れ家であった。
まあくしくもという感じですけれどね。
その強固な殻の中にじっと潜む事によって自分とは何かをずっと問い続けて自己を高めていったと。
隠れ家というさなぎの中に閉じ籠もる期間だったんですね。
この2年数か月がね。
じ〜っと守られている時期だったと。
さなぎって何か見た目死んでるように見えますよね。
でもその内部では次の成長に向けてすさまじい事が起こっている。
それと同じ事がこの隠れ家の中でも起こっていた。
ある時機が熟せばねこのさなぎの中から劇的に蝶が生まれてくる。
アンネもそういう成長を遂げていて私の希望としては羽を広げるところまでは成長できていてほしかったな。
多分そうだったと思うんですよね。
難しいですね。
いい環境って何だいい人生って何だってすごく難しいですよね。
恐らくこういうすばらしい作品が残せないぐらい自由で何も考えなくてもいい環境の方がいい環境じゃないですか。
本来のいい環境。
2年間以上ああいう所にいたからこそ凝縮されてこういうものが生まれたという事もあってその辺の皮肉さとかその辺のアンバランスさみたいなものとかに…。
アンバランスなんだけどもしかしたらこれは奇跡のバランスなのかみたいな所にちょっとザワザワします。
ものすごくザワザワします。
もちろん彼女には生き延びる権利はあったんですよね。
それはもうそうなんですけれどしかしこの特別な才能を持った少女がね隠れ家っていうさなぎの時期をまさにこの思春期の重なる時期に過ごしてたという事がすごく意味深い事なんだという事を生き残った我々はねこの本から感じ取るべきですよね。
このあと突然隠れ家生活は終わりを迎えます。
アンネたちはどうなるんでしょうか。
次回最終回へと続きます。
小川さん今日もどうもありがとうございました。
(又吉)よろしくお願いします。
(大竹)お願いします。
2015/03/18(水) 23:00〜23:25
NHKEテレ1大阪
100分de名著 アンネの日記 第3回「性の芽生えと初恋」[解][字]

アンネは同居人ペーターに恋心を抱く。しかし、アンネは感情にのみこまれ自分を見失ってしまうことに恐れをいだいてしまう。アンネの性への目覚めと初恋へのとまどいを描く

詳細情報
番組内容
アンネは隠れ家に同居していたペーターに恋心を抱くようになる。ペーターはアンネが発する素朴な「性」への疑問に真面目に答えていた。その誠実さに心打たれたのだった。しかし、アンネは、感情にのみこまれ自分を見失ってしまうことに恐れをいだき、恋心にブレーキをかけてしまう。ペーターはそんなアンネを見守るしかなかった。第3回は、アンネの性への目覚めと初恋、ペーターの孤独を見つめる。
出演者
【ゲスト】芥川賞作家…小川洋子,【司会】伊集院光,武内陶子,【朗読】満島ひかり,【語り】好本惠

ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – カルチャー・伝統文化
ドキュメンタリー/教養 – 文学・文芸
趣味/教育 – 生涯教育・資格

映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
日本語
サンプリングレート : 48kHz
2/0モード(ステレオ)
日本語(解説)
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