(ウグイスの鳴き声)心浮き立つ春。
古くからの桜の名所東京隅田川べりには今年もたくさんの人が集うはず。
この川沿いの町向島で育ち地元の桜をめでながら花の時期だけ出る掛茶屋のだんごに特別な思いを寄せた女性がいます。
父幸田露伴の死後40代になってから作家としてデビュー。
遅咲きながら次々と話題作を発表し一躍流行作家となりました。
文が64歳の時に書いた随筆「花見だんご」に自らの心情を重ねたこんな文章があります。
今日は幸田文が晩年心の渇きを癒やすものと表現した幼い日の花見だんごの味。
またその意味を探ります。
光る石をたどれば行き着く不思議な家にあのお菓子の家のヘンゼルとグレーテルの末裔が暮らしています。
彼らが振る舞うおいしいお菓子の物語をご賞味あれ。
うんう〜ん。
ちょっといきなり食べてますか。
ちょっとヘンゼル君。
えっだって春といえば花見だんごでしょう?ええ?色がすごいきれい。
ヘンゼル君は「花より団子」の人なのねホント。
違うよ。
だって桜を見るのももちろん大好きだけどやっぱ何よりもだんごがおいしい。
花見て下さいよ。
はい。
あのね花見に特別な思いを寄せた人がいるんですよ。
えっ?花見に特別な思いを寄せた人。
え〜?そうよ。
すてきよ。
あっこれか。
うん。
今宵ひもとくのは幸田文の花見だんご。
独特の比喩と張りのある文体で「流れる」「おとうと」などベストセラーを次々と発表。
作品は映画化され数多くの文学賞を手にした作家です。
父は明治の文豪幸田露伴。
43歳の時父の死について書いた随筆が最初の作品です。
その後家族や生まれ育った向島の思い出から草木や動物揺れ動く大地に至るまで幅広いテーマに取り組みました。
文が64歳の時に著した随筆「花見だんご」。
それは少女時代に食べた花見だんごの思い出をつづったものでした。
文は明治37年3人兄弟の次女として生まれましたが早くに母と姉を亡くし父と弟と文の3人が残されました。
隅田堤は毎日弟と歩く通学路であり父親と歩く散歩道でもありました。
そんな日常の風景が花見の時期になると桜で化粧し人々でにぎわい茶屋が出る。
それは心浮き立つ光景でした。
文が花見の時に着ていた着物を大切にしているという孫の青木奈緒さん。
祖母の中には隅田堤の風景が常にあったといいます。
そこに戻りたいっていう気持ちが祖母の中にはずっとあったんだと思います。
そこに戻れば父親も当然元気ですし母親も元気でいてくれた。
だからお花見祖母は好きで春になると出かける事はあった訳ですけど私が小さい頃には人に勧められても隅田川の川べりのお花見そこには行きたくないってある時期言ってましたね。
今ではもう食べる事のできない花見だんごの味。
文の記憶に残るだんごとはどんな味わいだったのでしょうか。
江戸時代後期から街道の掛茶屋として創業した店を訪ねました。
今も昔ながらの味を守っているそうです。
お店で製粉した米粉からしっかりした生地を作ります。
串に4個ずつ刺して焦げ目がつくまで焼き生じょうゆにつけます。
こんな素朴なだんごを文は豪快に食べるのが好きでした。
幸田文の作品を長年にわたって研究し全集の編纂にも関わった金井景子教授です。
だんごを食べる描写にある風景がイメージできるといいます。
あそこでまさに…その事はやっぱりあの時期の大正期の明治のおしまいから大正期の中産階級のそれも露伴やそのご兄弟の方々の事考えると…だけどそのお嬢様を思う時に…その大人の存在…露伴だけではないと思いますけれどもそれを感じないではいられないエッセーだと思うんですね。
文にとって花見だんごは向島の風景と共に父や家族との幸せな日々を象徴するものだったのです。
うん。
これ文さんにとっては向島の花見で食べただんごがすごい大切でそれじゃなきゃ駄目だったんだね。
またほら文さんの独特の表現で「ぐいと横食いすればそのうまさ」というのがちょっとすてきじゃないですか?うん横食いね。
ヘンゼルはおだんご何食いするの?え〜っとね最後の一個は横食いじゃなくてこう半分ずつ「あむあむ」って感じ。
あむ…。
これ何食いなんだろう?じゃあ今日のグレからの伝言いきますよ。
うん。
あらグレーテル気が早いわね。
何かね花はないけどだんごがあればいいらしいよ。
じゃあねかまどがグレの願いをかなえてしんぜましょうかね。
ええっ?まずは。
何何?文さんの花見だんご作りましょうか。
ねっ。
いいねそれ。
俺も今それ言おうと思ってた。
味わいのキメテどうぞ。
はい。
横食いしたくなる素朴だけど口当たりのいいだんごを目指します。
よし!はいはいまずはね米粉をぬるま湯で練ります。
これ一気にが〜って混ぜ過ぎちゃうと粉が飛ぶね。
だまが無くなれば大丈夫ですけど。
大丈夫です。
もういいですか?それで30分蒸せばいい。
蒸しますよ。
OK。
何分って言った?30分。
偉い!蒸し上がったところでオキテですよ。
この3段階がすごく優しい食感を生み出すんですよ。
へえ〜。
じゃあまずは練る。
真ん中に真ん中に。
集めるように。
集めるように…。
かなりいいんじゃないですか?いい感じ?日頃のいろんな鬱憤をそれで。
(笑い声)晴らして晴らして。
かまど!かまど!何でかまど?ああ違うか。
じゃあ次の段階です。
冷やす。
氷水で急に冷やすでしょう?そうすると歯応えと弾力が出るから。
ああ大事。
寒いだろうけど。
歯応えと弾力歯応えと弾力。
歯応えと弾力…。
ああもう無理だ。
(笑い声)そしたら3段階目いきますよ。
こねる。
OK。
しっかり力を入れて。
これ力が…。
もうねもみ混ぜ。
こうやってすごく滑らかになってきたでしょ?はい。
これこうやって一生懸命こねると口溶けがよくて伸びがすご〜くいい生地になるんですよ。
こねがすごい大事なの。
よ〜し。
いいでしょう。
じゃあここで生地をしょうゆのだんご用とあんこのだんご用に分けますよ。
えっ生地が違うって事?はい。
2つに分けて下さい。
はい。
あのねしょうゆだんごっていうのは熱いうちに食べた方がおいしいでしょ?だから温かい時にいい軟らかさにするためにこのまま一方は少し硬い生地にしとく訳。
へえ〜。
そしてもう一つあんこの方は常温で食べるから常温でちょうどいい硬さにするためにもう少し水をつけて練って軟らかくします。
へえ〜。
この切り分けただんごを丸めていくんですよ。
はいはい。
角が無くなる程度にくるくると。
これ竹串が水につけてあるんだね。
そうよ。
だんごのすべりがいいようにつけてあるんですよ。
そして竹串の先がとがって怖いから切ってあるんです。
優しいかまど。
はい愛です。
でも上手よ。
ぐって刺すとだんごがグチャグチャになるけどちゃんとねじりながら刺してるところが上手だなと思ったよ。
ちょっと平らにしてみたりしましょう。
平らってこういう事でいいの?少し押さえて下さい。
そうすると焼きやすいしあんこも載せやすいからね。
…って事でだんご出来ました!幼い日の思い出を生き生きと描写した随筆「花見だんご」。
その中に64歳の文の心の底を吐露するような文章があります。
64歳の文にとって「心の渇き」とは一体何だったのでしょう?父幸田露伴が亡くなるまでの数日間を臨場感あふれる表現で著し文壇に躍り出た文。
その才能はあっという間に開花し誰にもまねできない比喩や切れのある文章でたちまち人気作家に上り詰めました。
文の感性はまさに父露伴と過ごした日々の中で育まれました。
それはどんな遊びもとことん楽しむ事。
父との時間は文にとって刺激的なものでした。
また実母が亡くなったあと家事一切を父から教わりました。
慣れない手つきの文に父は「働く時に力の出し惜しみをするな。
満身の力を込めてする活動には美がある」と活を入れます。
父から受け継いだ類いまれなる才能と感性で文壇の寵児となった文は40代50代とほぼ毎年作品を発表。
2人の孫にも恵まれ60代を迎えた時文は作家としての歩みを止めます。
そのころの随筆にはある不安がつづられていました。
向島の自然や父の存在が自分を育ててくれた。
そう思う事で老いへの不安に立ち向かっていました。
そんな中で書いた随筆「花見だんご」。
吐露するかのように選んだ「心の渇き」という言葉。
そこから読み取れる文の心境とは…。
老いへの不安と同時にこの先にある可能性を文は「心の渇き」という言葉で表現しました。
渇いた心を癒やすのは希望に満ちた幼い頃の情景そして「これ渾身」という父の教えだったのです。
文は再び歩み始めます。
うん。
う〜ん。
お父さんの事を思い出す景色の中また思い出す味がだんごであるっていう。
いずれヘンゼルがもっともっと大人になって「心の渇き」みたいなものを体験した時にそこの風景の事がば〜っと味と風景がよみがえってくるという時があるのかもしれないねまた先に。
そうだよ。
ちょっとかまど。
はい。
だんご作りたくなってきた更に。
作ろう!そういうだんごを。
じゃあちょっと…えっ?七輪!?あれ?七輪使うの?リンリン!え〜?はいオキテどうぞ!これはおしょうゆの風味って事?はいはいそういう事です。
火はおこしてありますから。
さすがかまど!はいはい。
火はお手のもんだもんね。
そういう事です。
かまどですから。
おだんご並べて下さい。
いいですね。
七輪で焼くっていうのがね。
何かそれあぐらかいて焼いてしまってる訳ね。
いいですねその風情。
焼けたかな?ほらおっ。
ああいいですねいいですね。
いい焼き色じゃない?これ。
これ自分でしょうゆもこうやってぬれるんだよ。
何かいいな。
これしょうゆがつくとちょっと焦げやすくなるのかな?そうね。
乾かす程度に焼いてよ。
はい。
焦がしてしまうとしょうゆのうまみが全く飛んじゃうから。
風味がね。
はい。
やばいちょっと急ぎでやろう。
しょうゆおだんご。
これ絶対おいしいよ。
という事で完成!ちょっと一息TeaBreak!お花見で食べたい最新スイーツご紹介。
花見といえばこれ。
3色だんご。
超定番です。
でもね今はこ〜んなにカラフルに進化しちゃいました。
2×3で6色だんご〜!桜あんやユズあんゴマあんなど上品なあんが乙女心をくすぐります。
こちらは花見だんごミルフィーユバージョン。
パイ生地に緑の抹茶クリームとピンクの桜クリームの層が重なって一番上は白と赤のマーブル模様で華やいだ春を演出。
3つの味が爽やかなハーモニーを奏でます〜!ふっくら炊かれた小豆を味わう日本伝統のきんつばも桜の花を添えて春色に様変わり。
今年は最新スイーツでお花見を体験してみたら。
ヒュ〜!かまどきれいだったね。
いろんなのがあるんだね今。
「花より団子」とかいうけどねやっぱり「花と共に団子」がいいんじゃないかしら。
そうだね。
そういった意味ではやっぱ文さんのだんごはまた違った味わいなんだろうね。
じゃああんの方いきましょうか。
はい。
ほうほう〜じゃあねそのあんこをだんごの表面にぬって平らにならして下さい。
OK。
うわ〜ホントにおいしそうそれ。
ほらすごいきれいにぬれた。
いいですよ。
(チャイム)あっ姉ちゃん帰ってきた。
姉ちゃんお帰り。
一足早い花見気分準備ばっちりだよ。
お帰り!もうすっかり花見気分。
香ばしい香りのしょうゆのだんごとほんのり甘いあんこのだんご。
幸田文のように素朴に豪快に横食いしてみたらいいんじゃない?「花見だんご」を書いてから2年。
文は再び動き始めました。
人生のゴールに向けて文が選んだテーマは「生きるとはなにか」。
72歳人生最後の大作「崩れ」。
山で起こる崩壊の現場に自ら出向き時には現地の人におぶされてまでも徹底的に向き合い生あるものの悲しみをつづりました。
山の崩れを前に専門家から「崩れは弱さから起こる」と説明を受けます。
文は衝撃を受けます。
生きるという事は弱さとの闘いでありその弱さは奥深くにある。
幸田文の花見だんご。
それは次に進むための勇気と自分の心の底にある本質に気付かせてくれるお菓子だったのです。
今日の「グレーテルのかまど」いかがでしたか?文さんが愛した花見だんごには素朴な中に生きる力強さそしてたくましさが秘められていたのではないでしょうか。
ではまたこのキッチンでお目にかかりましょう。
ではちょっと失礼して。
よ〜し。
食べよう。
頂きま〜す。
どうぞ。
ちょっとこれいきますよかまど。
は〜い。
う〜ん!ぐいっと横食いしたね?しましたよ。
ねえ。
これおだんごすごい軟らかいしこれしょうゆだけじゃん?シンプルだけどねめちゃめちゃおいしいです。
おいしい?う〜ん!そして…。
おしょうゆの香りがする。
いいな。
このあんこの方ね。
これもぐいっと。
うん。
ウゥ〜!これ甘さはやっぱり控えめだね。
あっそう?すごく素朴というかね。
おだんご自体もお店のよりも大きいから食べ応えがある。
そうでしょうそうでしょう。
うん。
あれ?桜?ん?桜?今桜っつった?気のせいでしょ?気のせいよ。
気のせい気のせい。
気のせいか…。
桜?ンフフッオホホッ…。
2015/03/19(木) 12:25〜12:50
NHKEテレ1大阪
グレーテルのかまど「幸田文の花見だんご」[字][デ][再]
花見だんごを「ぐいと横食いすればそのうまさ」と表現した作家、幸田文。また晩年「心の渇き」を潤す味とも記した花見だんごに、彼女が重ねた心境とは?またその味とは?
詳細情報
番組内容
作家、幸田文(1904−1990)は、父・露伴の厳しい薫陶を受けて育ち、父の死後、43歳で文壇にデビューした。毎年、桜の季節には隅田川の川面に枝を垂れる花の趣きに、生まれ育った向島の暮らしを懐かしんだ文。晩年無性にだんごがほしくなるのは「心の渇き」によるものではないかと記した。「心の渇き」とは一体何か。またその渇きを潤すかのように、記憶の中の花見だんごに何を見いだしたのか? 幸田文の心中に迫る。
出演者
【出演】作家、文筆業…青木奈緒,早稲田大学教授…金井景子,瀬戸康史,【語り】キムラ緑子
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – カルチャー・伝統文化
バラエティ – 料理バラエティ
ドキュメンタリー/教養 – 文学・文芸
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