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教団にひきつけられる若者たち

3月20日 19時05分

出口拓実記者・鈴木康太記者

地下鉄の車内に猛毒のサリンがまかれた「地下鉄サリン事件」から20年となりました。
サリンを使う世界初の化学テロを引き起こしたオウム真理教は、現在も、2つの後継団体が活動を続けています。
このうち、主流派のアレフは、勧誘活動を積極的に展開し、事件をよく知らない若い世代を中心に信者を獲得しています。
なぜ、今も若者をひきつけるのか。
オウム事件取材班の出口拓実記者と鈴木康太記者が取材しました。

「終わらない」遺族・被害者の思い

事件から20年となる3月20日、現場となった霞ケ関駅では、事件の発生時刻とほぼ同じ午前8時に駅の職員たちが黙とうをささげました。
駅の構内には献花台が設けられ、遺族らが花を手向けて犠牲者を悼んでいました。

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NHKでは、事件から20年を前に、被害者を対象にアンケートを行い、教団の一連の事件について質問したところ、「事件は終わっていない」という回答が90%を超えました。
その理由として多くの人が挙げたのが「教団が今も存続している」という回答でした。

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オウム真理教 2つの後継団体

事件を引き起こした「オウム真理教」は、教祖だった麻原彰晃、本名・松本智津夫死刑囚をはじめ、13人の死刑判決が確定しています。
公安当局によりますと、オウム真理教の後継団体は、主流派の「アレフ」と、そこから分裂した「ひかりの輪」の2つがあります。
いずれも「無差別大量殺人行為に及ぶ危険性がある」として、「団体規制法」に基づき、定期的な活動実態の報告などを義務づける観察処分が適用されています。

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公安調査庁によりますと、主流派のアレフは勧誘活動を積極的に展開し、事件をよく知らない若い世代を中心に信者を獲得しています。
NHKはこれまでアレフに信者の勧誘や活動などについて取材を申し込みましたが、回答はありませんでした。
20日に霞ケ関駅の献花台を訪れたアレフの荒木浩広報部長は、各社の取材に対して、「被害者にはずっと負い目を感じてきた。信者はわらにもすがる思いでアレフに入信している」などと話しました。

アレフに集う若者たち

去年の暮れ、東京近郊にあるアレフの施設で、定期的に集まって集中修行を行う「セミナー」が開かれました。
近くで出入りを確認すると若者を中心に数十人が施設に入っていく姿が見られました。

明かされる修行の実態

セミナーではどのような修行が行われるのでしょうか。
以前、参加したことがあるという元信者の30代の男性に話を聞くことができました。

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男性によりますと、会場では松本死刑囚の映像が大きなスクリーンに映し出されていたといいます。
男性は「『修行するぞ、修行するぞ』と言う松本死刑囚の声がテープで流れると、信者たちも一斉に『修行するぞ』と連呼する異様な光景だった」と振り返りました。
アレフについて、公安調査庁は、教団で松本死刑囚への絶対的な信仰を促す“麻原回帰”が進んでいると分析しています。

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公安当局によりますと、こうしたなかでもアレフには毎年100人以上が入信していて、地下鉄サリン事件のことを詳しく知らない若い世代が中心だといいます。

勧誘の実態は

アレフはどのように若者たちを勧誘しているのでしょうか。
公安当局によるとアレフの入信者が多いという札幌市を取材しました。
札幌市中心部の繁華街を数日間、調べてみると、行き交う人に声をかけ続ける複数の若者の姿がありました。
近づいたところ、20代前半だという男性が向こうから話しかけてきて、「自分たちはヨガのサークルを開いている」と誘ってきました。
若い女性も加わってきて、「参加費は500円だけです。体を鍛えるのにヨガはいいですよ」と強く参加を呼びかけてきました。
公安当局によると、このヨガ教室は講師やその内容からアレフの信者が開いているということです。
元信者の話では、このほか、書店の宗教に関するコーナーにいる人に声をかけたり、インターネットを通じて「カフェランチ会」や「占いオフ会」などと称して若者を集めたりして、ヨガ教室に誘うこともあるということです。
共通しているのは、勧誘の段階では自分たちから教団名を明かさないことだといいます。

ヨガ教室から入信へ

ヨガ教室へ参加した人は、どのようないきさつで入信するのでしょうか。

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アレフの元信者の女性は仕事や家庭の悩みがあったということですが、もともと人見知りのために周囲に相談できなかったといいます。
しかし、ヨガ教室では親身になって話を聞いてくれ、半年が過ぎた頃、講師から「私たちは、ある人をグル(=尊師)として敬っています。その人の信仰をしています」と言われたといいます。
女性が誰ですかと尋ねると、返ってきた答えは、松本死刑囚の名前だったということです。
女性は一瞬ためらったものの、結局、入信を決意しました。
一番の理由は、親身に話を聞いてくれたヨガ教室とのつながりを失いたくないという思いだったといいます。

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「この人たちを失いたくないという気持ちが怖さより勝ってしまった。今思えば、もう少し調べてから判断すればよかった」と話しています。

風化を防ぐには

ジャーナリストの江川紹子さんは「人間関係がうまくいかず孤独になったり、環境の変化にうまくついていけなかったり、そういう局面は誰でもあると思う。特に、若い世代は地下鉄サリン事件のことを実はよく知らないため、優しく接してくる教団に入信してしまう。事件の遺族の悲しみや被害者の苦しみに加え、教団に入ったことで人生が大きく変わったかつての信者たちのことも、若い世代に教えていくことが、今後、必要になる」と指摘しています。

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社会に不満を抱く若者を集め、過激な行動に出る組織は、世界的にもあとを絶ちません。
無差別テロを未然に防ぐには、社会がこうした組織に注意を払い続けることが大切です。
そして、発生から20年となる地下鉄サリン事件や無差別殺人へと突き進んだかつての教団の実態を若い世代に引き続き伝えていくことが求められています。


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