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使用ずみ核燃料の問題解決を阻む「11兆円の不良資産」

2015年02月19日(木)16時39分
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 日本学術会議の「高レベル放射性廃棄物の処分に関する検討委員会」は17日、原発で発生する使用ずみ核燃料(いわゆる核のゴミ)についての提言案をまとめた。それによると核廃棄物を地上の施設に「暫定保管」することを電力会社に義務づけ、その保管場所が確保できない電力会社には「再稼動を許可するな」と3月に提言するそうだ。

 このように核廃棄物の問題解決が困難だから原発をやめろという話はよくあるが、核廃棄物はすでに1万7000トン存在するので、原発をゼロにしてもなくならない。検討委員会の今田高俊委員長は「最終処分の安全性が保証できない」というが、地下300メートルに「地層処分」する技術は確立しており、場所さえ決まれば今すぐにでも最終処分できる。

 学術会議は「10万年後の安全が保証できない」というが、そんなものを保証する必要はない。半減期の長いプルトニウムでも、100年もたてば危険性はなくなる。地下に貯蔵された廃棄物で問題になるのは、地震などで容器が破壊されて地下水にもれた場合の経口毒性だが、プルトニウムの毒性は水銀や砒素より低い。

 中間貯蔵施設は青森県の六ヶ所村に完成しており、貯蔵量は3000トンだが、最終的には5000トンまで増え、設備を増設すれば数十年分は保管できる。「最終処分場が見つからない」というのも誤解である。六ヶ所村では使用ずみ核燃料を再処理してプルトニウムを抽出する工場に使うことになっているが、そのプルトニウムを使う高速増殖炉は実用化の見通しが立たない。

 核燃料の再処理を行なうのは、当初はウランの埋蔵量が80年ぐらいしかないと思われていたためだが、シェールオイルのような形で岩盤に含まれている非在来型ウランの埋蔵量は300年以上あることがわかった。さらに海水ウランは9000年分あり、膜処理技術の発達でそのコストも在来型ウランの2倍まで下がっている。

 つまり核燃料サイクルは、経済的に意味がないのだ。これに対して経産省は「すでに投資してきた再処理施設を反故にできない」というが、これは経済学でおなじみのサンクコスト(埋没費用)の錯覚である。

 原子力委員会によれば、2030年に原発比率を15%にした場合、バックエンド(後処理)のコストは、全量再処理だと約14兆円かかるのに対して、全量直接処分だと約11兆円ですむ。これは高速増殖炉が予定通り実用化するとしての計算だが、それが動かないと再処理のコストは直接処分のほぼ2倍になる。

 再処理のメリットは、しいていえば核廃棄物の体積が小さくなることだが、その代わり核兵器に適したプルトニウムを年間8トン(長崎型原爆1000発以上)もつくるリスクは大きい。プルトニウムをウランに混ぜるMOX燃料も製造コストが高く、プルトニウムが無料でも採算にあわない。

 原子力委員会も「直接処分のオプションを検討すべきだ」と勧告してきたが、経産省は、全量再処理の原則を崩さない。来年度から「直接処分の調査研究」を始めることになったが、使用ずみ核燃料のままの最終処分はしない方針だ。どうせ捨てるなら再処理しないで燃料棒のまま捨てればいいのだが、そうすると「再処理工場の採算があわなくなる」という。

 再処理工場を運営する日本原燃の11兆円以上の事業費は、今は電力各社の資産に計上されている。使用ずみ燃料が再利用できる資産だということになっているからだが、再処理をやめるとこれがすべて「核のゴミ」になり、原燃の経営が破綻する。

 経産省も電力会社も、これをいやがっているのだが、これは錯覚である。過去にいくら投資しても、回収不能なサンクコストは考えてはいけないのだ。大事なのは今後のキャッシュフローだけだ。再処理は営利事業なので、採算の取れない事業を延命することは経営的にもマイナスなのだ。

 再処理工場は何も価値を生み出せないので、使用ずみ核燃料はサンクコストである。経産省もこれを認め、2015年度からは原燃の事業費を各電力会社の「拠出金」として費用に計上できるように法律を改正する。

 最終処分の問題は処分場の選定が困難だということだが、これは六ヶ所村を最終処分場にすれば解決する。土地は大阪市とほぼ同じ250平方キロの面積があり、300年分の使用ずみ燃料が処分できる。問題は国と青森県の協定で「最終処分場にしない」と約束していることだが、これは国が県と話し合えばよい。これから処分場を公募して立地調査するよりはるかに容易だ。

 むしろ最大の障害は、これまで核燃料サイクルを推進してきた経産省や電力会社の面子がつぶれることだろう。これは1990年代の不良債権問題と同じだ。当時も地価や株価の暴落で銀行が大きな不良資産を抱えたが、それを表面化させることをきらって問題を先送りしているうちに損失がどんどん大きくなった。

 核兵器を保有しない国で核燃料サイクルを推進しているのは、今では日本だけだ。かつては将来の核武装に備える意味もあったかもしれないが、日本はすでに原爆5000発以上のプルトニウムをもっている。少なくとも全量再処理の原則は修正し、直接処分を認めるべきだ。

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COLUMNIST PROFILE

池田信夫

池田信夫

経済学者。1953年、京都府生まれ。東京大学経済学部を卒業後、NHK入社。93年に退職後、国際大学GLOCOM教授、経済産業研究所上席研究員などを経て、現在は株式会社アゴラ研究所所長。学術博士(慶應義塾大学)。著書に『アベノミクスの幻想』、『「空気」の構造』、共著に『なぜ世界は不況に陥ったのか』など。池田信夫blogのほか、言論サイトアゴラを主宰。

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