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 安倍政権は、働いた時間に関係なく賃金が決まる「残業代ゼロ」となる新しい働き方の導入を進めている。「1日8時間」労働の原則が崩れた時、働き手にどんな影響があるのだろうか。

 2月下旬の日曜。休日にもかかわらず、大手経営コンサルタント会社に勤める30代の女性は、午前中からパソコンの画面をにらんでいた。都内の自宅マンションで、顧客との打ち合わせ用の資料をつくるためだ。

 大手メーカーに新規事業を提案するプロジェクトに加わる。明日は、数カ月かけて詰めてきた中間発表の場だ。「資料をまとめるのは、油絵を描く作業に似ている」と彼女は話す。

 業界動向などを分析した「下絵」に、顧客企業の役員たちの考え方や社員たちのスキルなどを加える作業が、「絵の具」を塗り重ねる油絵に似ているからだ。

 どのくらい時間をかければ「事足りる」のかも、わからない。この道に入り10年ほどだが、ひと通り準備をしても分析が足りない気がする。この日も資料のチェックを済ませると、すでに午前0時を回っていた。

 平日は朝5時半に起き、深夜に届いたメールに返信する。8時の打ち合わせを皮切りに日中の大半は会議や出張で埋まる。夜は顧客との会食も多い。情報の分析は夜にするため、寝るのは午前1時~2時。睡眠時間は平均4時間ほどだ。

 毎月の残業は優に100時間を超える。国が定める「過労死ライン」(月80時間の残業)を上回る。「働きすぎだと思う。でも目の前には仕事がある」

 「アップ・オア・アウト(昇進か退職か)」。経営コンサル業界には、こんな言葉が浸透する。

 結果を出せば数年で昇進し報酬も増える。だが、評価が低いと仕事が回ってこない。「退職せよ」という無言の圧力だ。女性は大学を出て入ったコンサル会社で、退職勧奨を受けたことがある。今の会社に再就職できたが、「同じ思いはしたくない」。

 残業代ゼロとなる「高度プロフェッショナル制度」のねらいについて、政府は「働いた時間ではなく、成果で賃金が決まる」とする。成果を重視される経営コンサルはその対象に入る可能性が高い。

 女性の場合、残業代も含め年収は約900万円。さらに評価が上がれば、新制度の年収要件の1075万円に届くことになる。

 顧客企業がコンサルに助言を求めるのは、業績不振により事業の立て直しを迫られている時が多い。失敗すればリストラが待ち受け、企業の担当者たちも必死だ。手をぬいた提案では顧客は満足してくれない。

 今は顧客との会議を重ねるたびに「彼らの人生を背負い込んでいる」という自負と重圧を感じる。

 仕事の疲れやストレスで、過食に悩んだこともある。自分の働き方はどうなるのか。「正直言って怖い」と女性は話した。