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縮む「刑事司法改革」 可視化後退と権力肥大危うい 2015年03月18日(水)

 人生を奪うに等しい冤罪(えんざい)を二度と生んではならない―。改革は、それが出発点のはずだった。だが、次第に骨抜きにされ、逆に権力の焼け太りを許す結果になろうとしている。長年の議論は何だったのか、憤りを禁じ得ない。
 刑事訴訟法などの改正案が閣議決定された。警察と検察による取り調べの録音・録画(可視化)の義務化と、司法取引の導入や通信傍受の対象拡大を柱とし、今国会での成立を目指している。
 可視化の議論はそもそも、大阪地検の証拠改ざん隠蔽(いんぺい)事件から本格化した。取り調べに過度に依存した捜査の限界と、自白を強要し冤罪に陥れてきた負の歴史を真摯(しんし)に省みるならば、目指すべきは当然全過程・全事件の「全面可視化」でなければなるまい。
 しかし改正案は、警察と検察に取り調べの全課程の可視化は義務づけたものの、対象を著しく限定した。
 裁判員裁判対象事件と検察が扱う独自事件だけでは、全事件のわずか3%程度。その上例外規定も設けられ、容疑者の拒否や暴力団事件、加えて「取調官が(容疑者の言動から)十分な供述が得られないと判断した場合」「容疑者らに危害が及ぶ恐れがある場合」も対象外という。これではほとんどが例外という他なく、しかも基準が曖昧。恣意(しい)的な「不可視化」への歯止めには、全くなり得ない。
 捜査機関側は「可視化されれば供述を得るのが難しくなる」と一貫して反対する。だが、主張すればするほど「やましさ」の裏返しと受け止めざるを得ない。公正性や透明性を高めさえすれば捜査側の武器にもなり得る可視化を嫌がる、その「体質」こそが問題との自覚を持たねばならない。制限なき全面可視化の受け入れを、強く求めたい。
 大きく後退した可視化とは逆に、司法取引と通信傍受はあっさり導入や要件緩和が決まった。交換条件かのごとく盛り込まれたが、あまりに不均衡な上、施行時期も可視化が「3年以内」、司法取引が「2年以内」と後先になる。本末転倒にも程があろう。
 司法取引では、虚偽の証言に罰則が設けられはするが、むしろ冤罪が増えかねない。通信傍受対象は、現在の4類型が詐欺や窃盗など13類型にまで広がる。通信事業者の立ち会いさえ、機器次第で不要になるという。国民のプライバシー侵害の懸念は到底拭えない。捜査の適正性、有効性の事後検証も難しく、なし崩し的な肥大を強く危惧する。
 改革には程遠い法案を、国会は形だけの審議で終わらせてはならない。冤罪被害は誰にでも起こり得るとの意識を持ち、最後のとりでとして、過ちを隠さず改められる仕組み構築に向け、議論を深める責務を果たしてもらいたい。