民主党の岡田克也代表が来日したドイツのメルケル首相との会談で慰安婦問題について言及があったと発表したことに関連し、産経新聞は3月13日、ニュースサイトで「メルケル独首相『和解が重要』発言『事実はない』 独政府、日政府に説明 民主・岡田氏と食い違い」と見出しをつけた記事を掲載した。読売新聞も17日付朝刊で「『独、岡田氏の説明を否定』」との記事を掲載。しかし、ドイツ政府は、慰安婦問題について日本に助言をした事実はないと強調しているものの、岡田氏の説明を否定した事実はなかった。岡田氏の説明を踏まえ、民主党が16日に出したコメントもドイツ側は事実上追認した。産経と読売の記事は、岡田氏がメルケル首相との会談内容について事実と異なる説明をし、メルケル首相が慰安婦問題について言及した事実がなかったかのような誤解を与える報道といえる。
読売新聞2015年3月17日付朝刊4面 ※ニュースサイトにも同様の記事あり。
岡田氏は3月10日、来日したメルケル首相と会談し、12日、ブログにその内容を紹介。岡田氏は、メルケル首相の方から慰安婦問題についての言及があり、日韓問題の重要性を踏まえてしっかりした解決が望まれるという趣旨の発言があったことを明らかにした。岡田氏が記者団にも同様の説明をしたと一部メディアが報じた。
産経が13日、ニュースサイトで配信した記事は、菅義偉官房長官のコメントをもとに、ドイツ政府が岡田氏の説明を否定し、両者の説明に食い違いがあるかのように報じた。しかし、菅官房長官が13日の会見で発表したドイツ側の説明は、メルケル首相が岡田氏との間で「過去の問題について日本政府がどうすべきかとかいう発言を行った事実」を否定したもので、メルケル首相が慰安婦問題について言及した事実を否定するものではなかった。この点、ドイツ政府と岡田氏の説明に食い違いがあるかのような報道は、事実と異なる印象を与えた可能性が高い。毎日新聞と日経新聞も14日付朝刊で、ドイツ側が「慰安婦」発言を否定したかのような誤解を与える見出しの記事を掲載していた。
民主党は16日、一連の報道に反論するため、事実関係の詳細を発表。会談でメルケル首相から慰安婦問題に関する言及があり、「きちんと解決した方がいいというご発言があったことは事実」とした上で、発言は明示的に日本政府に対して解決を呼びかけたものではなく、岡田氏もその点に留意して記者に説明していたと強調した。
日本報道検証機構がドイツ政府駐日大使館に事実関係の確認を求めたところ、担当者から「民主党のコメントを見てほしい。メルケル首相が日本にどうすべきといった発言はしていない。民主党がコメントした事実関係に対して異議はない」との回答を得た。ドイツが民主党の発表に異議を唱えた事実は確認できておらず、当機構の問い合わせにも事実上追認していることから、岡田氏の説明が虚偽と疑うべき理由はなく、メルケル首相が慰安婦問題やその解決に言及したことは事実と認められる。
【コメント】メルケル・ドイツ首相との会談に関する一部報道について
2015年3月16日
民主党役員室長 近藤洋介
3月10日午前、都内で行われた岡田克也代表とドイツのメルケル首相との会談について、岡田代表とドイツ政府の説明の間に齟齬があるかのような一部報道があることに対して、以下の通り、ご説明します。
会談において、メルケル首相より従軍慰安婦に関して言及があり、きちんと解決した方がいいとのご発言があったことは事実。ただしこのご発言は、明示的に日本政府に対して解決を呼びかけたものではなく、岡田代表もその点に留意してメルケル首相のご発言をそのまま記者団に説明しました。
一方、会談に関してAFP通信が3月10日に配信した、「従軍慰安婦問題の総括を呼びかけ」という記事について、ドイツ連邦政府新聞情報庁は、日本政府に対して呼びかけた事実はないとAFP通信に対し反論したと承知しています。
ドイツ政府報道官による3月13日の記者会見での発言も、同庁の「日本政府がどうすべきだという発言を行った事実はない」との見解を述べたものであり、岡田代表の発言自体を「事実ではない」と否定したとの一部報道は事実と全く異なります。
以上のように、メルケル首相の会談におけるご発言と岡田代表の説明の間に、何ら齟齬をきたすものではなく、あたかも双方が異なっているかのような一部報道は誤解を招き不適切であります。以上
菅義偉官房長官記者会見 (2015年3月13日午後)
Q.午前中の会見で、メルケル首相の発言について、ドイツからはそうした事実はないということを報告受けてるとおっしゃったんですが、具体的にどういった部分?
A.新聞報道の中でメルケル首相がですね、岡田民主党代表との会談の中、慰安婦問題について日韓関係は非常に重要なので、きちんと解決したほうがいい、和解することが重要だと述べたと、そういう報道記事が実はあったんですね。政府としてはですね、この会談には同席はしてなかったんですけれども、ドイツ側から岡田代表との間でですね、メルケル首相は過去の問題について日本政府がどうすべきかとかというような発言を行ったという事実はないという説明をドイツ側から受けていたということです。
首相官邸ホームページ
産経は15日にも、ニュースサイトで「メルケル首相の“慰安婦”発言、独報道官が否定」と見出しをつけた記事を配信していた。その中で、メルケル氏が岡田氏との会談で「慰安婦問題の解決を促したとされること」について、ザイベルト独政府報道官は13日の記者会見で、『独政府は否定した。私自身が(否定)した』と言明した」と報じていた。
この点についても、民主党は、ザイベルト独政府報道官が否定したのは、岡田氏が明らかにしたメルケル首相の発言ではなく、メルケル首相が日本に慰安婦問題の解決を求めたと報じたAFP通信の報道内容だと指摘。AFP通信は10日、The Japan Timesの英文記事で、「メルケル首相は日本に『慰安婦』問題の解決を助言した(Merkel advises Japan to settle ‘comfort women’ dispute)」と見出しをつけた記事を配信していた(=The Japan Timesに掲載された3月10日付AFP配信記事)。この点に関する説明にもドイツは異議を示しておらず、ドイツ政府が否定したのはあくまで「助言」や「促す」という表現にとどまる。
民主党が16日に事実関係の反論を発表したにもかかわらず、読売新聞は翌日朝刊で、ドイツ政府が岡田氏の説明を否定したかのような見出しの記事を掲載。文末で岡田氏が記者団に反論した内容を伝えたが、ドイツ側に確認した形跡はなく、民主党が明らかにした事実関係も伝えていなかった。他方、産経新聞は、岡田氏の反論をニュースサイトと17日付朝刊で掲載したが、ドイツ政府が岡田氏の発言を否定したと報じた13日と15日のニュースサイト記事の訂正や削除はしていない。
メルケル独首相─和解の問題など共通の基盤に立って話せる指導者 (岡田克也氏のブログ 2015年3月10日)
3月10日、ドイツのメルケル首相と40分近く会談をしました。
彼女は久しぶりに日本を訪れたのですが、いろいろな予定をこなしながら、私のために時間を少し空けていただきました。
私が取り上げたのは和解の問題です。戦後70年ということで、まず日本の状況について、残念ながら、近隣の国々、韓国、中国と和解が進んでいるとは言えない。過去に例えば、村山総理や小渕総理、日韓関係については特に小渕総理がそうですが、和解の大変な努力をされた。しかしその後、それを否定するような有力な政治家の意見が出てきたりして、うまくいっていない。
もちろん日本側だけではなくて、韓国、中国側にも問題があるのだが、どうしてうまくいかないのだろうかと。ドイツの場合には近隣の国々との和解がうまくいっている。それはどうしてなのだろうか。ということを問いかけたのです。
・・・(中略)・・・
特に東ドイツについて、東ドイツの旧体制が東西ドイツの統合によって変わったときに、旧政府側が東ドイツの国民に対して行ってきた、さまざまな圧政、監視活動、そういうものについて、これを全部表に出したことで、東ドイツの中での和解が成し遂げられた、ということも強調されていました。そういうことが参考になるかもしれない、ということを言われました。
そういう話をしていくなかで、メルケル首相のほうから、日韓関係について言及があり、日韓関係は非常に重要だ、そういう中で、慰安婦問題など、しっかりとした解決が望まれるのではないかと言われたのです。
私も時間に限りがありましたので、あまり詳しくはお話ししませんでしたが、日本としても慰安婦問題について過去に努力をしたという経緯もある、しかし現実なかなか、まだ決着がついてないということを簡単に申し上げました。
その上で私が申し上げたことは、こういった問題は被害を及ぼしたほうは早く忘れたいと思うけれども、被害を受けたほうは簡単には忘れられない。そのことはしっかり踏まえてやっていかなければならない、ということを申し上げたところ、メルケル首相は非常にはっきりとうなずかれたのです。・・・(以下、略)・・・
岡田克也公式ホームページより一部抜粋
- (初稿:2015年3月19日 18:42)