戦艦武蔵“新事実”も…タミヤ「プラモの作り直しは考えていない」
太平洋戦争中、フィリピン・シブヤン海で沈んだ戦艦武蔵の発見が思わぬ波紋を呼んでいる。きっかけは、米国マイクロソフト社の共同創業者であるポール・アレン氏が3月13日に放送した、武蔵のインターネット生中継だ。次々と明かされる海底の武蔵の映像に対して、ツイッター上では、模型ファンが「俺が知っている『武蔵』の模型と違う」と騒ぎ始めたのだ。
それが最も活発になったのは、生中継開始から1時間半を経過したあたりだ。無人探査機が艦中央部からやや後方にある煙突付近を探索していた時のことだった。台座に乗った機銃のような残骸が映し出されると、それまでスムーズに解説していたクルーが戸惑いをみせた。探査機がその残骸をさまざまな角度を撮影した結果、クルーは、敵飛行機を迎撃する「シールド付きの25ミリ三連装機銃」だと判断した。
なぜ、クルーはこの兵器に困惑したのか。実は、これまでの定説では、この場所には、シールドがないタイプの機銃が設置されたといわれていた。シールドは、武蔵が主砲を発射した時に発生する衝撃波から兵士を守るために取り付けられていたものだ。
ほかにも“新事実”はあるようだ。敵艦との距離を測る「測距儀」に観測用の窓が確認されたほか、「15.5センチ三連装副砲」の後部にあるハッチの形が違うなど……ネット上では模型ファンからさまざまな指摘が出ている。
そもそも、武蔵は大和型戦艦の2番艦として極秘に建造され、資料や写真が非常に少なく、細かい部分がわかっていないのだ。さらにネット上では、模型メーカーがプラモデルを作り直すのではないか、といった臆測も流れている。
そこで、模型メーカー最大手のタミヤにどう対応をしていくのか、尋ねてみた。すると、意外な答えが返ってきたのだ。
「(プラモデルを作り直すなど)何かをすぐに変える予定は特にありません。今、話題になっている点は本当にごく一部。それを製品に反映させることは現時点で考えていません。模型の開発は設計図をはじめ、さまざまな資料を集めるなど、地道な調査で成り立っています」(タミヤ広報担当)
なんと、「世紀の大発見」ともいわれている武蔵の発見もプラモデルには影響がなかったのだ。とはいえ、沈没した艦体は、模型開発の貴重なデータになるのではないか。そう思い、さらに食い下がってみた。1985年に東シナ海の海底で発見された「大和」ではどう対応したのか。タミヤの広報担当はこう説明する。
「確かに大和と武蔵は非常に資料が少なく、当時から謎に包まれている艦です。海底に沈んでいる艦体が見つかったとはいえ、完全な状態で沈むわけではない。しかも、発見された残骸もその一部でしかない。それよりも、設計図といった紙の資料が発見されるほうが影響が大きいのです。もちろん、実物の発見も情報として蓄えますが、すぐに模型を作り直すことはありません」
さすが、模型メーカーの雄、タミヤは“泰然自若”だ。しかし、メーカーが作り直してくれない以上、リアルにこだわる模型ファンはどうすればいいのか。
実は軍艦模型は、細部を交換できるパーツが単体で販売されている。実際、武蔵の生中継が終わった直後、ネット通販サイト「Amazon」では、話題となった三連装機銃のパーツが、一時品切れになった。
いやはや、ディテールを追求する模型ファンの“情熱”には脱帽だ。
(ライター・河嶌太郎)