第6話 急転
「……と言っても直接君と商売をしたいと言うのではなく、あるお得意様からの依頼と言う感じでね、仲介を頼まれた」
「仲介?」
「ああ、君に会いたいのでその場を用意してほしいとのことだった。色々と事情のある方でね。あまり目立たず内密に会いたいとのことなのだよ」
「それはいったい誰の……」
「直接会ってもらった方が早いだろう。実はもう来ているのだよ」
口を挟もうとするカイルを遮るようにそう言うと、了承を取る前に控えていた使用人に来ていただくように、と命じる。
ここら辺の強引さはやはり百戦錬磨の商人の手腕ともいうべきか、クラウスのペースになっている。
「何、すでに顔見知りということだから話も早いと思う」
「はあ……」
顔見知りと言うのならば直接会いに来ればいいのにと、カイルは訝しげな顔になるが、クラウスはただ笑うばかりだった。
少し待った後扉が開き入ってきた人物を見てカイル達は思わず絶句した。
肉感的な美女で目立つ容貌だが、何より目立つのはその額から生えている魔族の証の角だった。
「……確かに顔見知りだな」
セランが何とも言えない顔で魔族の女、ユーリガを見た。
「どういう事だ!?」
反射的に剣の柄に手を伸ばしかけているカイルだったが、ユーリガの方は平然としたままだ。
カイルはいつでも動ける準備をしつつ、周りにも警戒を払いクラウスとユーリガを更に問い詰めようとする。
「ユーリガじゃない! 元気にしてた?」
だが緊張が走ったのはカイルのみだったようで、リーゼにいたっては思いがけず旧友に会ったかのような反応だった。
そして無警戒にも近寄ろうとするのをカイルは慌てて止める。
「不用意に近づくな、罠だったらどうする!」
「そんなはずないでしょ、もしユーリガに戦う気があるならこんな堂々と現れないで不意打ちとかするに決まってるじゃない」
リーゼの至極当然の突っ込みにカイルは返事に詰まる。
セランやウルザも油断はしていないが、特に警戒をしているわけでもない。
今までの経緯が経緯だし、曲がりなりにも共闘もしている以上仕方のない反応かもしれないがカイルにとってはやはり不満だった。
「久しぶり、と言うほどでもないか。お前達とはよくよく縁があるな」
ユーリガは相変わらず相変わらず怜悧な美貌で、感情をあらわさずに言う。
「……何故ここにいる?」
とりあえず直ぐに斬りかかるという選択はなくなったが苦々しいカイルの問いに、ユーリガは直接は答えなかった。
「……不思議に思わなかったのか? 我ら魔族が人族領にて不自由なく活動できていた理由が?」
ユーリガにそう言われれば、とカイルは思い当たる。
初めてユーリガに会ったのは鉱山都市カランで次に会ったのはエッドス国。共に人族領内部で、特にエッドス国など人族領のほぼ中心にあり魔族領から大きく離れていてそこまでの移動はどうしたのかと言う事だ。
魔族だからと言って透明になれる筈もなく、目立つ魔族が人の目に触れずに移動するには当然それを手伝う者の存在が大事になる。
「人族に魔族の協力者がいたと言うことか……!」
クラウスをカイルが睨み付ける。
「正確には魔族の協力者ではなく、お得意様が魔王だったというところなのだがな」
「同じことだ」
微妙に訂正するクラウスだがカイルは吐き捨てるように言う。
カイルからしてみれば魔族に力を貸すなど、人族に対する重大な裏切りに他ならない。
「ああ、言いたいことは解るがとりあえず落ち着いて話を聞いてもらいたい。いや、どうやって会おうかと考えていた時に、そちらから手紙が来た時はマラナイ様のお導きと喜んだものだ」
商売の神マラナイの名をだし機嫌よさそうなクラウス。
「……魔族と繋がっている分際で神の名を語るな」
辛辣に嫌味を言うがクラウスは飄々と受け流す。
「う~む、そこら辺は見解の違いだな。儂は魔族全体ではなく、魔王個人を気に入っているだけだ。だから協力している」
「それが人族に対する裏切りだと解っているのか!」
カイルの怒りの声に、クラウスは心外と言わんばかりだった。
「いや違う。むしろこれは人族の為という大義名分があるからこそ、儂は汚名を被ってでも協力している」
少々白々しさを混ぜながらも、クラウスは本気で言っていた。
「……どういう意味だ?」
「知っているのだろう? 今の魔王が人族に友好的だと。協力することが将来の人族の為になると確信しているから協力している……まあその過程で色々儲けさせてもらってはいるがね」
上機嫌に笑うクラウス。
「いや、人族領ではなかなか手に入らない物が魔族領では豊富にあるからな。正に独占貿易、実に儲けさせてもらっているよ」
「結局金の為じゃないか」
「そこは商人だからな、否定はせんよ……だがそれだけではないのも間違いない」
クラウスはあくまで真面目に言っているようだが、魔族に協力している、その一点でカイルにとっては敵も同然だった。
「本題に入るぞ」
険悪になりかけたカイルを遮るようにユーリガが割り込んでくる。
「魔王様がお前達に会いたいとの事だ。一緒に魔族領へ来てほしい」
「……は? なんだって?」
一瞬何を言っているのか解らなかったカイルが思わず聞き返す。
「言葉通りだ、魔王様がお前達に会いたがっておられるので魔族領に私と来てほしい」
ユーリガは自分の感情は出さず、淡々と要件を伝える。
「何故だ? 会って何をしたい?」
カイルは理由を問うが、ユーリガは首を横に振る。
「魔王様のその御心は私には計り知れない。だが会いたいと仰られた以上、私はお望み通りに動くだけだ」
「こっちには会う義務も義理も無いぞ」
即座に断るカイルだが、これはユーリガも予想していたことだった。
「まあ当然の反応だな」
「当り前だ。ついた途端魔族に囲まれてそこで終わり、なんてことにはなりたくないからな」
「安全は保障するしただ来てくれと言うつもりはない。お前達の利になるいくつかの条件を用意している。まず、この間手に入れた『竜王』の皮だがどうなった?」
「それは……」
ユーリガの問いにカイルは言葉に詰まった。
ユーリガの言う皮とは、メーラ教徒に利用されたドラゴンのグルードを助けた時に報酬がわりとして手に入れた『竜王』ゼウルスの脱皮した皮だった。
素材としては超一流どころではない、伝説や神話に登場してもおかしくない逸品だったがそれ故に扱いに困った。
カイルは鎧にすべく色々と当ってみたのだが、現在の人族では加工すらできないことが分かっただけで宝の持ち腐れとなっていた。
カイルが返事を出来ないのを見て確信したようにユーリガが続ける。
「どうやら今の人族の手では加工も出来なかったようだな……だが魔族には可能だ」
「ふむ、では魔族領に行けば皆用に加工してくれるという訳か?」
シルドニアが興味深げに聞く。
かつての魔法王国ザーレスでならば、加工できただろうが今は失われた技術で、それを魔族ならばどうするのかと言うのは気になるところなのだろう。
「そうだ。人数分はあっただろう? 全員の装備が更新できるぞ」
「…………」
この提案はカイルにとって非常に魅力的であり考え込んでしまう。
カイル達の装備や道具は現在金で入る物では最高のものだが、これ以上のものはそう簡単には手に入らない。
目的の為にはこれからも戦闘は避けられないだろうから、絶対に死なない、死なせない為に強力な防具は必要だった。
「それとこの間の魔族、ターグの事だが……」
迷い始めたカイルにユーリガは更に追い打ちをかけるようにもう一つの条件を出す。
「何か解ったのか!」
思わず反応してしまったカイルを見て、ユーリガは少し満足気な顔になる。
ターグとはユーリガが、魔王が把握しておらず『大侵攻』を起こした次の魔王と関係している可能性の高い魔族で、カイルがもっとも知りたい情報でもあった。
「やはり気になっていたようだな。しかし私は魔王様からこの場でそれを答える権限を与えてもらってはいない」
「……その言い方はある程度は掴んでいると言うことだな?」
「好きに解釈してくれて構わない……詳しく知りたければ直接魔王様に尋ねてくれ」
「これも交渉材料の一つか」
知りたければ魔族領に来い、そう言っているのだ。
いっそ無理矢理にも聞き出すかと、剣呑な雰囲気を漂わせはじめたカイルの手がほんの僅かだが剣の柄に動きかけ、それを察知したユーリガも身体を固くする。
(……とはいえ力づくで聞き出すのは無駄だろうな)
ユーリガのその忠義は揺るぎようがないのは今までの行動からよく解っている
何をしようが、魔王の命令である限り死んでも吐かないだろうとカイルが力を抜くと、ユーリガも警戒を解いた。
現魔王との接触は確かに選択肢の一つではあったが、現実味の薄い話で本気では考えていなかった。
会うには当然魔族領に侵入せねばならず、成功の見込みはほとんどないからだ。
それを向こうから招待すると言うのだ、ある意味またとない好機と言える。
だが当然ながら実際に行くかどうかとなると二の足を踏んでしまう。
言わば敵の本拠地で、今までで一番危険だったドラゴン達の巣である世界樹への侵入とも比べ物にならない。
これまでの経験から少なくともユーリガ本人に、こちらを罠にはめようと言うつもりは無いのは解る。
だが魔王からの命令があれば、次の瞬間に襲い掛かってくるだろう。
「ああ魔族領には儂も一緒に行く。商売のついでではあるが少しは安全の保障になるだろう」
悩むカイルを少しでも安心させる為か、クラウスが同行すると言う。
「何度か行っておるがそれほど危険ではないぞ……余計なことをせんかぎりは。その他にも儂に出来る範囲なら何でも言ってくれ」
クラウスは自信たっぷりに言うが、それでも踏ん切りのつかないカイルは迷い、仲間たちに目をやる。
「……あの消えたり現れたりする魔族だろ? あいつのことはむしろ俺が知りたいくらいだな」
ターグと直接戦ったセランは右手で左腕の肘あたりをさすりながら言う。
「次は確実に斬るさ」
凄みのある不敵な笑み。
前回は身体をはった奇策で撃退したが、次は実力で斬ると言っているのだ。
「……妾もその魔王には会ってみたいな。ゼウルスも認めておったようじゃから」
腕を組み聞いていたシルドニアが呟くように言う。
かつての盟友ともいうべき『竜王』が認めている魔王に興味が沸いたのだろう。
リーゼとウルザは決断はカイルに任せると言うスタンスだが、反対はしていない。
ここでカイルは目を瞑り深く考える。
何が目的か解らないが、魔王に目をつけられたのは間違いなく厄介と言えるだろうし、しかもユーリガも魔王の命である以上諦めるつもりは無さそうだ。
ならばいっその事乗るのも手だろう。危険は大きいがその分得るものもあるはず。
「……解った、行こう魔族領に」
悩んだ末カイルは決断をし、仲間たちも皆頷いた。
第五章六話です。
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