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平和の守護者 作者:池崎数也

プロローグ

 有史以来、人間の歴史に戦争は付き物と言えるだろう。世界の各地で行われる戦争は、時代を経るごとに形態を変えつつも繰り返される。
 鎧に身を固めて剣を持った歩兵や、馬を駆る騎兵による戦争。
 石飛礫や矢に代わり、鉛の鉄砲玉が飛び交う戦争。
 鉄砲玉の代わりに砲弾が飛び交う戦争。
 陸地では戦車が、海では戦艦が、空では戦闘機が飛び交う戦争。
 時代を経るごとに高度化し、多くの人命や様々な資源が投入される戦争。
 後に、第二次世界大戦と呼ばれることになるその戦争もまた、その当時にあっては最新の技術を結集し、昇華させた戦争だった。
 無論、全ての技術が戦争によって創られたわけではない。他分野の技術の転用による新技術も多いだろう。


 ―――だがその日、世界は、まったくの未知となる存在と遭遇することとなる。







 1943年2月1日、ガダルカナル島北東上空。
 その日、アメリカ軍のアルファ小隊は高度6000メートルにて分隊ごとにエシュロン隊形を組んで哨戒に当たっていた。
 (ワイルド)(キャット)にて空を翔ける彼らは、機体の操作を行いながらも自身の目を空域に向けて何かしらの異常がないかを確認する。発艦した空母にてレーダーによる探知も行っているが、それも絶対でない。機体に積んだ無線機で空母の無線通信手と言葉を交わしながら、異常がないことを確認していく。

『こちらアルファ1、担当空域に異常なし』
『こちらアルファ2、同じく異常なし』

 目視でも異常はない。敵機でも接近していれば話は別だが、空に浮かんでいるものと言えば、精々雲ぐらいだ。その雲も、それほど雲量があるわけではない。

『了解した。アルファ3、そっちはどうだ? 日本軍が大規模攻勢を仕掛けてくる前兆もある。何か異常はないか?』
『こちらアルファ3、同じく―――』

 だが、定期的に報告を行っていたアルファ小隊の言葉がそこで途切れる。

『アルファ3? どうした?』

 不意に訪れた沈黙。それを不思議に思った通信手が、疑問の声を投げかけた。

『―――馬鹿な』

 僅かな沈黙の後、無理矢理絞り出すような声が無線から響く。呆然としたような、感情の抜けた声。それを聞いた無線手は何事かと緊張の色を強くする。

『どうした? 何があった?』

 敵部隊でも発見したのか、確かに大規模な攻勢の前兆はあったがと、通信手は頭の中でアルファ3が言うであろう言葉を予測した。

『……こちら……アルファ3……人が……人が、空を、飛んでいる……』

 しかし、その言葉を聞いた通信手は思わず額に手を当て、頭痛でも堪えるように沈黙する。

『おいおい……まさか真昼間から酒でも飲んでいたのか? 人が空を飛ぶなんて有り得ないだろ?』

 無線越しに告げられた言葉に、呆れたような声を返す。人が空を飛ぶなどあり得ない。緊張から大型の鳥を人と見間違えたのか、それとも酒に酔っているのか、あるいはクスリでもやっていなければ、そんな言葉が出てくるはずもない。

(しかし、高度6000メートルを飛ぶ鳥なんていないだろうしな……)

 きっと、アルファ3は疲れているのだろう。この任務が終わったら、上官秘蔵の酒を拝借して酒の一杯でも飲ませて労ってやるべきかと、通信手は苦笑しながら思い―――。

『こちらアルファ2! アルファ3の言葉は嘘じゃない! なんなんだアレは!?』

 ―――他のパイロットから出てきた、先ほどの虚言を肯定する言葉に驚愕する。

『なんだコイツは!?』
『速いぞっ!』

 次々に、無線から驚愕の声が響いてくる。無線の通信手は咄嗟にレーダーの観測を行っていた者に視線を向けるが、慌てたように首を振られるだけだ。

『レーダーに反応はない! 一体何が起きている!? 詳細に報告せよ!』
『こちらアルファ4! 人型の―――っ!?』
『くっ! 背後に回り込まれた! なんだこの機動性は―――っ!?』

 無線越しの声がいっそうの緊迫感を帯び、次いで、“何か”が爆発するような音を最期にアルファ2の無線が途切れる。

『アルファ2? アルファ2!?』

 ここまでくれば、本当に“何か”が起こっているのだろうと察するに余りある。無線でアルファ2に対して呼びかけるが、返ってくる言葉はない。

『こちらアルファ1! 人型の飛行物体と交戦中! なんだコイツは……日本軍の新型兵器か!?』
『人型!? ゼロファイターでもないのか!?』
『ゼロファイターじゃない! 本当に人間が―――』

 その言葉を最後に、無線越しに爆音が響き通信が途絶する。それが何を意味するのかを悟り、通信手は一瞬の沈黙のあと激高した。

『アルファ1!? クソッタレ! 一体なんだというんだ!?』

 近年日本軍が実戦投入してきた零式艦上戦闘機(ゼロファイター)でも、ない。ならば、一体何がアルファ小隊と交戦しているというのか。

『こ、こちらアルファ4! 人だ! 人が空を飛んで―――』
『アルファ4!? くそっ! こちらアルファ3! アルファ4もやられた! 現在人間サイズの敵性飛行物体と交戦中! 速度はこちらよりも上! 武装は……』
『武装はなんだ!? 機関銃か!?』
『違う! 銃器じゃない! むしろこっちが教えてほしいぐらいだ! 何なんだよアレは!?』

 銃器ではない。その悲鳴染みた言葉を聞いた通信手は、余計に混乱しながら無線に向かって口を開く。

『だったら何を使っているんだ!?』
『“見えない”んだよ! 腕を振って何かが光ったと思ったら、みんな爆発したんだ!』

 なんだそれは。通信手はそう怒鳴りたいのを必死になって堪えつつ、上官に救援の空戦部隊を出すよう、アルファ3を撤退させるよう上申。すぐさま許可が下り、飛びつく勢いで無線へ声を飛ばす。

『撤退命令だアルファ3! すぐにその空域から離脱しろ!』
『撤退!? 無茶を言うな! 今もしっかりとケツに食らいつかれているんだ! 逃げ切れ―――』

 遮るようにして響く爆音。それに遅れてノイズ音が無線機から漏れ、通信手は呆然としたように膝を折る。

「一体、何と戦っていたんだ……」

 アルファ小隊が交戦したアンノウン。人型で空を飛ぶと言われたが、そんなものがあり得るはずもない。しかし、アルファ小隊は実戦経験も豊富だった。エースパイロットと呼べるほどの技量ではなかったが、緊張やパニックで伝えるべき情報を誤るほど“初心(うぶ)”でもない。
 それでも通信手はフラフラと立ち上がり、いつの間にか発令されていた警報で慌ただしく走り回る周囲の兵士達を見ながらなんとか精神を再構築する。
 アルファ小隊が哨戒に出ていたのは、この空母からそこまで離れた距離ではないのだ。
 もしも相手が戦闘機に準ずる速度を持つのなら、接敵まで五分もかからない―――そう、常識で判断した彼は、一瞬の後に空母を襲った激しい衝撃で体勢を崩し、傍にあった金属製の機材に頭を衝突させることとなった。

「左舷に被弾!」
「魚雷か!? 聴音手は何をしていた!」

 床に倒れ伏した彼が遠くで聞いたのは、そんな声。それでも強かに頭をぶつけた彼はゆっくりと意識を手放し始める。

「至近に航空機および船影なし! 聴音手からも異常はないと!」
「馬鹿な! それならば一体何に攻撃されたと言うのだ!?」

 上官の怒鳴り散らす声によって僅かに意識が浮上した。通信手の彼は重たく感じる頭を上げ、窓から外へと視線を投じる。

「ああ……そんな、馬鹿な……」

 そして、薄れゆく意識と視界の中で、彼は自身の空母へと飛来する“人間”の姿を目撃し―――今度こそ、意識を手放す。


 のちに『ES能力者』と呼称される存在の、初めての登場だった。
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