「大勲位」も「勲一等」も! 勲章販売中 最高1億2000万円
2014.05.18
文化勲章 880万円
文化の発展に功績のあった人物に贈られる。昭和12年に制定され、第1回の受章者は幸田露伴や横山大観ら9名だった。以後、江崎玲於奈、川端康成、山中伸弥らノーベル賞受賞者に授与された。なお、作家の大江健三郎や舞台演劇の功労者である杉村春子など、辞退した文化人たちも複数名いる
文化の発展に功績のあった人物に贈られる。昭和12年に制定され、第1回の受章者は幸田露伴や横山大観ら9名だった。以後、江崎玲於奈、川端康成、山中伸弥らノーベル賞受賞者に授与された。なお、作家の大江健三郎や舞台演劇の功労者である杉村春子など、辞退した文化人たちも複数名いる
5月9日、春の叙勲の大綬章親授式が皇居・宮殿「松の間」で行われた。天皇から直接勲章を授与されるのは十数人だが、毎年春と秋、それぞれおよそ4000人が「旭日章」や「瑞宝章」などの勲章を受章する。マスコミ報道で、国民にお馴染みの行事だ。しかし、その勲章や褒章が売買されていることは、あまり知られていない。
毎年5月初旬の3日間、都内の会場に専門業者が集い、世界の珍しい貨幣や紙幣などを売買するイベントが行われる。業者の一部は、コインだけでなく「勲章」を売りに出すのだ。
人に贈られた勲章を、誰が何のために買うのか。コレクター(50代のサラリーマン)に聞いたところ「きれいだから」と一言。では、どういうルートで売りに出されるのか。複数の業者にきくと、もらった本人が亡くなった後、遺族らが手放すことが多いという。また高位の勲章は、外国人が手放すことがままある、とのこと。
勲章を盗まれた皇族
筆者は、この催しを2010年から取材している。今回は出店した国内約40業者のうち、5業者ほどが「勲章」を扱っていた。顔なじみの店主のブースを見ると、目当ての「文化勲章」があった。「今年も見ることができて良かったです」。そう話しかけると「良かないよ。早くお嫁に行ってもらわないと」と苦笑していた。今回の値段は880万円也。
別の業者は「大勲位菊花大綬章」を出品。あまたある勲章のうち上から2番目の高位勲章で、値段は480万円。ほかには勲一等旭日大綬章が75万円、勲一等瑞宝章は58万円など。「満州国」の勲章もいくつかあった。
さて、勲章の最高位である「大勲位菊花章頸飾」は1億2000万円!である。同じく、軍人の功績を顕彰する「金鵄勲章」の最高位である功一級は1800万円。これは東郷平八郎や山本五十六など、およそ40人にしか贈られていない。いずれも、筆者は売りに出ているものを見たことはない。ある業者が「扱うとしたら」との仮定でつけた値段だという。仮定とはいえ、高い。筆者の取材で、これまで一番高く売買された勲章は「勲一等宝冠章」。1000万円近くの値段で売れた。その値段で買う人がいたのだ。
勲章は、贈られる人たちにとって大きな意味を持つ。たとえば、梨本宮守正王(1874~1951)。元帥・陸軍大将で、戦前、前述の大勲位菊花大綬章を受けていた。ところが敗戦で陸軍は消滅し、宮家縮小のあおりで皇籍を離れた。あるとき、自宅の土蔵に収められていた数々の勲章が盗まれた。本人は大変なショックを受けたようで、伊都子夫人は後年、この盗難で梨本宮は「生きる気力を失われたのではないでしょうか」と述懐している。
あれこれの歴史を知った上で、売買されている勲章を見ると、複雑な思いに駆られる。ともあれ、日本の勲章には幕末以来およそ150年の歴史がある。深遠にして伝統のある世界だ。写真を見て堪能していただきたい。
大勲位菊花大綬章 480万円
「大勲位菊花章頸飾」に次ぐ上位勲章。皇族や総理大臣経験者、最高裁判所長官などが授与されている。平成では、中曽根康弘、竹下登、橋本龍太郎らが受章。また、国家元首レベル以上の海外の要人・王族にも贈られ、最近では2013年にフランスのオランド大統領が来日した際に授与されている
「大勲位菊花章頸飾」に次ぐ上位勲章。皇族や総理大臣経験者、最高裁判所長官などが授与されている。平成では、中曽根康弘、竹下登、橋本龍太郎らが受章。また、国家元首レベル以上の海外の要人・王族にも贈られ、最近では2013年にフランスのオランド大統領が来日した際に授与されている
取材・文/栗原俊雄(毎日新聞社学芸部記者。著書に『勲章 知られざる素顔』など)