第1話 情報システム部門のジレンマ
弁護士 石原先生による解説
そもそも、ソフトウェアライセンスとはどのようなものですか?
ソフトウェアは「プログラムの著作物」として著作権で保護されている知的財産です。
一般的にモノを買う場合、そのモノの所有権は購入者に移ります。しかし、ソフトウェアを買う場合、所有権に相当する著作権が購入者に移ることはありません。ソフトウェアを使うためには、著作権を保有する人や企業(著作権者)から使ってもよいという許諾を得る必要があります。ソフトウェアを買うことは、モノを買うのでなく、モノを「使ってもよいという許諾」を買うということです。ソフトウェアの著作権は"自分のもの" にはならず、著作権者からの許諾のもとに、ソフトウェアを使用する権利を取得するという契約になるのです。
このように、著作権を保有するメーカーなどからソフトウェアを使用しても良いという許諾をソフトウェアライセンスと呼びます。
ライセンスを購入すれば、あとは自由に使っても問題ないですか。
いいえ。ソフトウェアライセンスでは、ソフトウェアの使用範囲を「使用許諾契約書」などに明示しています。たとえば、インストール可能な台数や使い方、使用期間の制限などです。これらの内容は、メーカー、製品種別、購入形態(パッケージ、ダウンロード、ライセンスプログラム)などにより異なるのが普通です。ソフトウェアを使い続ける限り、使用許諾の範囲内で使用することが求められます。
ソフトウェアに関してよくある誤解は「お金を出して買ったのだから、あとは自由に使ってよい」というものです。実際には、ソフトウェアは著作物であり、音楽や映画のCD/DVDと同じように、著作権で保護されています。
たとえば、DVDを許可なくダビングすれば違法になるように、ソフトウェアを許可なくコピーやインストールすれば違法になります。コピーやインストールといった複製は著作権者だけができる行為で、複製する場合は著作権者の許諾(ライセンス)が必要です。ソフトウェアは、「自由に使ってよい」のではなく「著作権者の許諾の範囲内で使う」ものなのです。
よくある誤解として「正規品を購入すれば不正は起きない」というものもあります。ここでポイントになるのは、PCへのインストールは「複製」にあたるということです。「使用許諾契約書」に「1つのPCにしかインストールできない」とあるのに、複数のPCにソフトウェアをインストールする行為は、著作権者の許諾無く複製していることになります。正規品であっても、使用制限を超えてインストールすれば、著作権侵害にあたり、違法になるということです。
では、使用者は使用許諾契約から逸脱しないようライセンスの状況等を管理する必要があるということですか?
はい、その通りです。
もし、使用許諾契約書に明示されたインストール可能な台数を超えてインストールすると、それは不正コピー、すなわち著作権に含まれる複製権という権利を侵害したことになります。
特に企業の場合は組織変更や人事異動なども多いため、ソフトウェアの購買管理とインストール状況把握を含むライセンス管理を適切に行うことが必要です。ライセンス管理を疎かにし、それを漫然と放置することは、さまざまなリスクを含んでいるということを理解する必要があります。
不正コピーによるリスクを例示すると、民事的な賠償請求や刑事罰といった法務/コンプライアンスリスク、ウイルス感染や個人情報漏洩といった情報セキュリティリスク、取締役や監査役自身が負う個人責任等が挙げられます。さらに、いわゆる風評被害などのレピュテーションリスク、顧客離れや取引停止といった事業継続リスク等、二次リスクも十分に考えられます。こうして見ると、不正コピーが引き起こすリスクが広範で連鎖的に起こることがお分かり頂けるでしょう。
なるほど、組織内でのライセンス管理を疎かにすると、大変なリスクがあるということですね。
そうなんです。しかし、最近では自社内だけのコンプライアンスにとどまらず、サプライチェーンの不正にも注意を払う動きが活発化してきました。例えば、一般社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)が策定した「サプライチェーンCSR推進ガイドブック」を参考に、すでに多くの企業がコンプライアンスの一環として「CSR調達」のガイドラインを設けています。JEITAのガイドラインでは、コンピュータソフトウェアの知的財産権侵害についても触れられていることから、サプライヤーは外注先が不正コピーを使って制作物を納品していないかなど、納入先のコンプライス条件に抵触していないかを確認する必要があります。
また、世界各国の政府は、不正コピー使用により世界貿易で不公正な優位性を確保することに懸念を抱いています。不正コピーの使用が不公正な競争を促していると判断され、ペナルティが課せられることもあるので、今後は現地法人での不正コピーにも十分な注意を払い、必要により実体調査や内部監査など検討したほうが良いでしょう。