地震の揺れを特殊なゴムで抑える免震装置をめぐり、大阪市のタイヤメーカー、東洋ゴム工業の子会社の製品の一部が国の基準に適合していないことが分かり、国土交通省は認定を取り消した。子会社の担当者が認定試験のデータを改ざんした疑いがあるという。
問題の装置は、18都府県で55棟のマンションや庁舎などに使われている。国交省によれば、地震が起きたときの安全性は不明で、改修が必要になれば居住者が一時退去を迫られる恐れがある。住人の不安がこれ以上広がらないよう、まず東洋ゴムと国交省が必要な情報を開示すべきだ。
免震装置は4年前の東日本大震災でも効果が認められ、マンションなどで急速に普及している。通常の建物に比べて建築費は割高だが、地震が多い日本ではより安全で安心な建物を求める消費者が増え、市場が急拡大した。
消費者の信頼を裏切るデータの偽装は許されない。東洋ゴムによれば、製品を発売した2003年以降、評価試験を社員一人で担当していた。組織としてチェック機能はなかったのか。同社の法令順守のあり方が問われる。
東洋ゴムの製品だけでなく、免震装置全体への消費者の信頼も揺らぎかねない。国交省は責任をもって原因究明にあたり、同じ問題を繰り返してはならない。
建物の耐震性をめぐっては05年、元建築士がホテルなどの耐震強度を偽装した事件が起きた。この事件で国や自治体による建築確認の甘さが問われ、国は建築基準法を改正して審査を厳しくした。
免震装置でも建物ごとに公的機関が耐震性を審査し、国交相が認定する仕組みになっている。だがメーカーが試験データを偽れば審査で見抜くのは難しく、審査を厳格化しても解決策にはならない。
メーカー側が消費者本位の原点に立ち返り、自社で得たデータは第三者の評価を受けるなど透明性を高めることが欠かせない。耐震技術を手掛ける他の企業も、今回の問題を他山の石とすべきだ。