お待たせいたしました。
牛丼アタマの大盛り失礼いたします。
サラリーマンの味方、牛丼。
この大手チェーンが一年の間に20円、80円と並盛りを相次いで値上げした理由をご存じでしょうか?円安もあります。
でも、それだけではないんです。
世界規模で進む、ある異変が影響を及ぼしていることが私たちの取材で分かってきました。
世界で一年に消費される牛肉はおよそ6000万トン。
この牛肉の国際市場にあの大国が本格的に参入しました。
中国です。
増え続ける消費に国内の生産が追いつかず輸入を急激に拡大させているのです。
あまり牛肉が食べられていなかった地方都市でも消費が拡大しています。
日本の商社が、高い値段で牛肉を買うようになった中国に競り負けることもあります。
思うような値段で牛肉を調達できない買い負けが起きています。
牛などの餌となる大豆でも争奪戦は加熱しています。
日本の食卓に欠かせないみそや豆腐の原料となる大豆で価格競争が進んでいます。
ブラジルでは広大な農地が開拓され大豆の増産が進んでいます。
農家が圧倒的な出荷量で価格交渉の主導権を握ろうとしています。
中国の牛肉の輸入拡大を引き金に今、世界で何が起きているのか。
日本の食はこれから、どうなるのか。
牛肉争奪戦。
世界の最前線を取材しました。
牛肉のおよそ6割を輸入している日本。
去年、牛肉をめぐって異変が起きていました。
日本が輸入する牛肉の1割を扱う商社双日食料の池本俊紀部長です。
主力商品はばら肉ショートプレート。
牛丼や、コンビニエンスストアの弁当などに広く使われています。
これまではアメリカの大手食肉加工会社と太いパイプを築くことで牛肉を安定的に輸入してきました。
ところがこれまでと同じようには買えない事態が起きていました。
この日アメリカの食肉加工会社にショートプレートをコンテナ70個分注文していた池本さん。
中国側が、池本さんより高い価格を提示したため20個分しか買えませんでした。
買い負けです。
外食産業向けに牛肉を加工している業者にこれまでより高く輸入せざるをえない事情を説明しました。
半年前のショートプレートの卸値は1kg760円。
5割、値上がりしていました。
なぜ、このような買い負けが起きているのか?私たちは北京で取材を始めました。
去年11月に開かれた食の国際見本市です。
出展したのは世界26か国、500社以上。
伸び続ける中国の牛肉の消費に目をつけ売り込みにきていました。
牛肉の消費量の日本、アメリカヨーロッパ、中国の比較です。
日本は、ここ10年あまりほぼ横ばいです。
中国は消費が伸び続け去年、ヨーロッパと肩を並べました。
中国は旺盛な消費を賄うため牛肉の輸入をこの5年で6倍に増やしました。
おととし、日本を量で抜きました。
中国は牛肉の輸入量を大きく増やすことで国際市場での存在感を大きくしています。
この流れを去年1月に中国政府が発表した指針がさらに加速させました。
中国国内での牛の生産では消費に追いつかないため今後、牛肉の輸入をさらに拡大する方針だと受け止められました。
北京の見本市には中国各地から数多くのバイヤーが詰めかけていました。
山西省からやってきた高紹清さんも、その一人です。
オーストラリアやニュージーランドに新たな取引先を開拓しようと動き回っていました。
高さんは、もともと化学製品の輸出業者でした。
肉のビジネスに進出して2年。
年に3億円を売り上げるまでになっています。
高さんが輸入した牛肉を卸している山西省太原。
北京から西へ500km。
経済成長が進む内陸の地方都市です。
私たちは、ここで日本が中国に買い負ける理由を目の当たりにしました。
肉といえば、鶏や豚、羊だった中国内陸部の地方都市。
この店の人気のメニューは…牛肉炒め。
使っているのは、日本のショートプレートにあたる肉です。
消費が伸びる中価格は上がり続けいまや、1皿800円。
それでも客は次々と注文していました。
牛肉が高値でも売れると見込んでバイヤーは輸入価格を上げても買い付けようとします。
これが日本の買い負けを引き起こしていたのです。
中国が海外の取引先に対して強い交渉力を持つ輸入方法もあることが分かってきました。
高さんが輸入した牛肉を扱う加工場です。
牛肉を塊のまま輸入しています。
牛1頭を4分割した大きな塊。
これをさまざまな部位に切り分け出荷していました。
大きな塊のまま輸入することがなぜ、交渉力を強めるのか?中国の主要な牛肉輸入国オーストラリアに向かいました。
牛肉を輸出している食肉加工場です。
中国向けの4分割した肉がありました。
オーストラリアの業者にとって肉を丸ごと買ってくれれば売れ残りの心配がありません。
日本に輸出されるショートプレートもありました。
1頭から取れるのは10kg程度。
日本は、ほとんどの場合ショートプレートをはじめ必要な部位だけ調達する方法をとっています。
業者にとってはそれ以外の部位が売れ残るリスクがあります。
まるごと肉を売り肉が余るというリスクをなくすこの方法。
売り手にとってはありがたい存在となり交渉力を上げるのです。
再び、中国・山西省。
牛肉の輸入で大きな利益を上げているバイヤーの高さんです。
牛肉の消費をさらに伸ばすため新たな取り組みを始めていました。
レストランにサーロインなどステーキ用の肉を売り込んでいます。
地方都市にも西洋料理を広めることでより高く肉を売る狙いです。
中国を震源として牛肉以外の食品でもさまざまな変化が起きていることが私たちの取材で分かってきました。
札幌の繁華街・すすきの。
庶民の味として親しまれてきたジンギスカンが値上がりしています。
使っている羊の肉はニュージーランド産とオーストラリア産。
仕入れ価格が一年で3割上がったといいます。
牛をめぐる、どんな変化が羊の肉の値上がりにつながっているのか。
人間より羊の数が多いといわれてきたニュージーランド。
100年以上続いてきた牧場で突然、変化が始まっていました。
牛の放牧への転換です。
牛を育てたほうが、もうかる。
そう考える農家が現れだしたのです。
ニュージーランドから中国への乳製品と肉の輸出額は一年で、およそ8割増えました。
中国で進む牛肉の消費拡大の影響は私たちの暮らしに欠かせないある食品にまで及んでいることが分かってきました。
穀物の輸入を担う総合商社伊藤忠商事。
3000ドルで、例えば8日。
まあ、それだと大した、あれにはならへんけどな。
大豆の輸入戦略を指揮する大北昌彦さんです。
みそや、豆腐の原料・大豆。
このところ、思うような価格では手に入りにくくなっています。
この日、大北さんは輸入大豆を使う大手みそメーカーに向かいました。
あ、どうも。
おはようございます。
中国の影響が日に日に強まっている現状を副社長に説明しました。
中国は世界から膨大な量の大豆を輸入しています。
アメリカ西海岸にある大豆の輸出基地。
専用の輸送船に積み込まれる6万トンの大豆。
行き先は中国です。
中国は牛肉の輸入に頼るだけでなく国内で牛を育て牛肉を大量に生産しています。
餌となる大豆も増産する必要がありますが国内の農地では賄いきれません。
去年1月の政府の指針は大豆でも積極的に輸入を進めるものだと受け止められました。
かつては世界一の大豆輸入国だった日本。
大半はアメリカの穀物メジャーから調達してきました。
中国が大豆の輸入を増やし始めたのは1990年代後半。
輸入量は、今日本の20倍を超え年間7000万トンに達しています。
アメリカの穀物メジャーは中国向けの輸出を急速に伸ばしました。
日本が大豆を買い付ける条件は厳しくなっています。
危機感を募らせる日本の商社が注目している国があります。
南米・ブラジルです。
ブラジルの内陸部日本の国土の5倍もある大草原地帯・セラード。
ここで今広大な大豆畑の開発が進んでいます。
アメリカの穀物メジャーだけに頼らずブラジルから直接大豆を調達できないか。
大手商社のブラジル駐在員前田憲哉さんです。
この日一人の生産者を訪ねました。
指定された待ち合わせ場所に小型飛行機が降りてきました。
地元で大豆王と呼ばれる農家ジュリオ・ブザットさんです。
ブザットさんから自分の大豆畑を見ないかと誘われ前田さんは飛行機に乗り込みました。
大豆畑の広さは460平方キロ。
東京ドーム9800個分。
ブザットさんは今も大草原・セラードを開発し農地を拡大し続けているといいます。
中国への輸出拡大で年に30億円を売り上げるようになった大豆王・ブザットさん。
アメリカの穀物メジャーが握ってきた価格交渉の主導権まで奪い取ろうとしていました。
事務所で、穀物メジャーとの価格交渉が行われていました。
交渉役は弟のマルコスさんです。
大豆の国際価格を参考にしながら価格を設定します。
それ以下では売りません。
穀物メジャーから買い付けの電話がかかってきました。
中国系企業にも電話します。
結局、この日は穀物メジャーにも中国系企業にも大豆を売りませんでした。
価格を上げてくるのを待つことにしたのです。
価格交渉の主導権を握る存在となった大豆の生産者。
調達にしのぎを削る穀物メジャーそして中国系企業。
そこに入り込む難しさを前田さんは感じていました。
激しさを増す大豆の争奪戦。
さらに、それを難しくしているものがあります。
大手商社の大豆取り引きの責任者大北昌彦さんです。
出張先のホテルで大豆の先物市場の値動きを見ていました。
どどどどどっていきだしてじゅどーんって上がってぼーんってきてもうジェットコースターになっちゃった。
大豆の相場が乱高下を繰り返しています。
半年ぐらいでこんな状況なんねんな。
もう、ほんまに考えられへんな。
世界の大豆取り引きに影響を与えるアメリカ・シカゴの先物市場。
2000年以降、大豆の価格は激しく乱高下しながら上昇しました。
需要と供給のバランスだけでは説明できない値動きだとみられています。
こうした値動きの裏で何が起きているのか。
アメリカ有数のリゾート地フロリダで真相を語ろうという人物を私たちは取材しました。
40年にわたり先物市場を専門に見てきた投資家スタンレー・ハー氏です。
世界の気象変動や政治、経済の動きを独自に分析。
穀物などの先物市場で利益を上げてきました。
そのハー氏が価格を乱高下させているのは新たな金融商品だと指摘しました。
インデックスファンドとはいかなるものか。
実は市場に広く出回っています。
これは投資家向けの説明書です。
これには大豆、小麦、牛などを扱う金融商品だと書かれています。
1億5300万口もの投資を呼びかけています。
インデックスファンドは先物市場で扱う大豆や小麦などの値動きと連動する金融商品です。
証券会社などで扱われていて多くの投資家から資金を集め先物市場で運用します。
これまで資格を持つプロの投資家が資金を運用してきた先物市場。
そこに、新たなマネーが流れ込むようになったのです。
インデックスファンドは世界の金融の中心ウォール街で作られました。
リーマン・ショックのあとアメリカや日本などで行われた金融緩和によって世界にあふれたマネーが流れ込んでいるとみられています。
インデックスファンドを作った投資会社の一つ、インベスコです。
こうした投資会社や証券会社を通じてアメリカの先物市場に流れ込んだマネーの総額は実に17兆円に上ります。
インデックスファンドに対して規制を強化すべきだという声が上がっています。
小麦の値段がつり上げられたと主張するパン生産者の業界団体です。
これに対し金融機関の業界団体は規制を強めるとかえって市場が混乱すると反論しています。
規制をめぐる議論が続いています。
食の世界にも流れ込むようになったマネー。
ウォール街があるニューヨークのダウンタウン。
スーパーマーケットの肉売り場です。
牛肉の価格がこの一年で2割上がりました。
人々の暮らしに影響が出始めています。
牛肉や大豆などの消費拡大を受けて今、世界各地で農地の開発が加速しています。
オーストラリアの乾燥地帯で巨大プロジェクトが動き始めました。
乾いた大地で大規模な食料生産を行うというプロジェクトです。
農業に欠かせない水は海水を淡水化して供給します。
新たな食料生産基地を目指します。
プロジェクトに投資するのはニューヨーク・マンハッタンに本部を置く大手投資ファンドです。
資産総額が10兆円を超える巨大ファンド・KKR。
農業への有効な投資を進めていけば計り知れない利益が期待できると考えています。
世界で進む農地拡大の動き。
ブラジルである問題が起きていました。
世界の大豆供給を担うために開発が続いてきた大草原・セラード。
夏の太陽が連日大豆畑に照りつけていました。
雨は一滴も降りません。
干ばつです。
大豆王・ブザットさんの畑でも3週間以上雨が降らず大豆が枯れかかっていました。
畑によってはすでに2割の大豆が失われていました。
干ばつは大豆畑の過度な開発によって引き起こされていると研究者が警鐘を鳴らしています。
地中深くまで根を張るかん木の保水力。
それが伐採によって失われ干ばつにつながっているというのです。
雨を待つこと1か月。
ブザットさんの畑は壊滅的な被害を寸前で免れました。
畑の拡大、大豆の増産はこれからも続きます。
日本の国土の5倍もある広大なセラード。
残された面積は全体の半分を切ろうとしています。
牛肉で中国に買い負けるという事態に直面した日本。
商社の池本さんが動き出していました。
将来、牛丼などに使うショートプレートを思うように確保できなくなったらどうするか。
目をつけたのがこれまでひき肉などに使われていたショートプレートの周辺にある部位です。
ショートプレートより安く手に入る、この部位が牛丼などに使えるか試していました。
いいね。
いいですな。
うまいんすね。
池本さんは今ショートプレートや周辺部位を将来にわたり安定して確保するための戦略を打とうとしています。
急速に経済を成長させるベトナムを手始めに東南アジアの市場を取り込もうというのです。
アメリカからショートプレートや周辺部位を輸入している池本さんの商社が東南アジアの輸入も担おうという新たな戦略。
東南アジアの分も、まとめて買い付けることができれば量で中国に対抗できます。
結果、アメリカに対する交渉力が増し有利な取り引きができるのではないかと考えているのです。
池本さんはベトナムに入り人々が、どんな肉を好むのか調査を始めました。
最近、増え始めた焼き肉店。
多くの客がショートプレートを食べていました。
あ、ショートプレートきましたね。
しかし、そう考えていたやさき…。
新たなライバルの動きが池本さんに伝えられました。
ショートプレートの争奪戦に韓国が乗り出してきた。
先の見えない闘いが続きます。
中国の牛肉の消費拡大をきっかけに進む、食の異変。
日本の食は、どうなるのか。
世界を巻き込んだ激しい争奪戦はきょうも私たちの見えないところで繰り広げられています。
♪〜2015/03/14(土) 21:00〜21:50
NHK総合1・神戸
NHKスペシャル「世界“牛肉”争奪戦」[字]
いま世界で食料の争奪戦が起きている。牛肉や大豆の調達に奔走する商社、価格高騰につながる投資マネーの最前線を追い、米国・ブラジル・オーストラリアなどで取材した。
詳細情報
番組内容
いま世界で食料の争奪戦が起きている。去年、自給を原則としてきた中国が輸入にかじを切り、ばく大な需要が世界市場になだれ込んだ。私たちの生活に欠かせない大豆や牛肉を調達する商社は、かつてない事態に追い込まれている。さらに需給のひっ迫により市場価格が乱高下。その裏には金融商品の販売によって、膨大なマネーが市場に流れ込む仕組みがあった。激変する食料の現場を米国・ブラジル・オーストラリアなど世界各地で追った
出演者
【語り】松平定知
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事
ドキュメンタリー/教養 – ドキュメンタリー全般
ニュース/報道 – 報道特番
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