中国で年に一度の全国人民代表大会(全人代、国会に相当)が閉幕した。例年、当局の腐敗対策が手ぬるいことへの批判票が目立つ会議だ。それが今年はやや沈静化した。習近平政権の反腐敗運動は支持を得ているといえよう。
3年前まで最高指導部のメンバーだった周永康・前共産党政治局常務委員を汚職容疑で立件するなど、反腐敗運動はかつてない大物にも切り込んできた。国民の間で共産党政権の求心力を立て直すことにもつながっている。
問われるのは、そうした成果を一過性のものに終わらせないための仕組みを整えることだ。反腐敗運動については「習国家主席が権力基盤を固める手段にすぎない」といった冷めた見方も根強い。公正な仕組みを整えないと、そんな声は絶えないだろう。
全人代閉幕後の記者会見で李克強首相は「腐敗の土壌を取り除く」「社会の監督を受ける」と表明した。いずれも透明性を欠いたままでは実効性を望めない。
中国国内ではかねて、高官の財産を公開する制度を求める声が上がっていた。これを共産党政権は無視するどころか押さえ込んできたのが実情で、摘発が公正かどうか疑問符がつきまとう。
習主席の指導力は胡錦濤・前国家主席や江沢民・元国家主席をしのぐ――。そんな見方が最近は強まっている。だが反腐敗運動の公正さが疑われるようだと、国民の支持が揺らぐだけでなく、摘発された元高官たちの反撃を招く可能性を高めることになりかねない。
一方で習政権はメディア統制を強めている。全人代が開かれている間にも、ウイグル人やチベット人ら少数民族にかかわる事件が海外メディアで伝えられたのに、中国メディアの反応は鈍い。異論や少数民族の不満を力で押さえつけようとする姿勢もまた、危うさを覚えざるを得ないところだ。
透明性が低いことは中国の対外政策への疑念を募らせてもいる。典型的なのは、今年の全人代でも総額の膨張だけ伝えられて内訳はほとんど明らかにされなかった、国防費だ。
サイバー安全保障をめぐる米国との対立や、設立準備が進むアジアインフラ投資銀行に対する日米の不信も、低い透明性が一因となっている。中国はいまや世界第2の経済大国。世界を不安にさせないよう、透明性の向上に前向きの姿勢へと転じる必要がある。