厳しい寒さが続く2月の京都大原。
暦の上では春を迎えたものの里ではまだ氷が張っている。
動物も植物も本当の春をじっと待っている。
この大原に移り住んで14年。
築100年の古民家で自分の手で作り出す暮らしを楽しんでいる人がいる。
ベニシアさん日曜日の朝ニットを重ね着して出かける支度。
(ベニシア)なんか久しぶり。
朝市行きます。
きょうだけどなんか寒いね。
雨降るかな?ふだんは京都市の中心部で英会話学校の先生をしているベニシアさん。
週末は大原で過ごす時間を大切にしている。
太陽が出てうれしい。
ちょうど今はなんか木の上にちっちゃいの…芽みたいなのが出ているから。
あと鳥がいっぱい歌ってるね。
最近思ってんのは鳥の名前とかどっちの鳥が何の歌を歌っているの知りたいと思ってますから。
散歩をしながら隠れている春の予感を探し出すのも楽しい。
七草のナズナがあるのね。
英語でナズナは「シェパーズパース」と言うんだけど。
「羊飼いの財布」。
小さい葉っぱがある時おかゆ入れたらおいしい。
ベニシアさんの日曜日のお楽しみ。
やってきたのは「大原ふれあい朝市」。
毎週朝6時から開かれているこの朝市は10年目を迎えこれまでより広い場所に引っ越した。
新しい農家も加わり盛り上がっている。
伝統的な京野菜を中心に地元で作られたものが所狭しと並べられている。
おはよう。
(市場)おはようございま〜す。
あ!これが欲しかった。
こっち。
見つけたのはとうがらし。
まさかきょうここにあると思わなかった。
すごい元気。
めちゃくちゃきれいよね。
(市場)きれいですね色が。
いやこれじょうずよ。
なかなかこうなるの難しいと思う。
初めて会ったんと違う?ああ初めてですね。
住んでるのも大原?大原です。
大原の上野…。
上野の方?はい。
農業に携わる若者はついつい応援したくなる。
おはようございま〜す。
あ餅がある。
ベニシアさんは朝市の常連。
ここで出会う人たちから学ぶ事が多いと言う。
あ…こんにちは。
(中辻)味噌買いにきました。
いつもありがとうございます。
これは去年の味噌よね。
そうです。
去年の1月に仕込んだお味噌です。
自家製の味噌を売っているのは大原で農家を営む…ほかとはちょっと違う独特の風味を持つ。
ベニシアさんの大好きな手づくり味噌。
毎年冬に仕込みをしてゆっくりと熟成させた1年物だ。
なんか習いたいのね。
私昔やった事あるんですけど。
ああそうですか。
忘れたから。
まだこれから仕込みますしね。
よかったら…。
もしよかったら。
来てください。
(孝行)ちょうど今仕込むところ。
ああそうですか。
はい。
もしよかったらご一緒に。
見にきてもいいですか?はいどうぞ。
ちょっと教えてほしい。
はい。
ぜひ教えてください。
はい。
きょうはじゃあ2つ。
はい。
ありがとうございます。
ここに入れますから。
はい。
ありがとうございます。
念願だった味噌づくりを教えてもらう約束をした。
ベニシアさん朝市で買ってきた食材でちょっと遅めの朝食を作る。
夫の正さんは和食が好み。
正のお母さんからもらった。
なんか鰹の匂いがいいし。
(鰹節を削る音)丁寧に出汁を取って味噌汁を作る。
ベニシアさんが初めて味噌の味を知ったのは日本にやってくる船で出された味噌汁だった。
以来大の味噌好きになったベニシアさん。
(すする音)あばっちり!和食の時味噌汁は欠かさない。
正さんと孫のジョーくんが朝ごはんを待っていた。
焼き魚にご飯と味噌汁。
純和風朝食。
(3人)いただきます。
ジョー山芋好き?大好き?
(ジョー)うん。
ジョーくんは日本食が大好き。
正さんも早速味噌汁をひとくち頂いて。
(正)うんうまい。
味噌がいいのね。
おいしい。
この味噌はどこの味噌なの?中辻さん。
あそう。
これうまいね。
この味噌。
うんうんうまい!でしょ!コクがあるこの味噌は。
それを習いたいと思ってるんです。
そうしたら自分でつくったらいいかなぁと思って。
おいしい味噌をつくって家族に喜んでもらおう。
ベニシアさん約束の日が待ち遠しい。
ベニシアさんが本当においしいとほれ込んでいる手作り味噌。
つくっているのは大原で家族と共に農家を営んでいる…今の時期畑で収穫できる野菜は残り僅か。
冬ははよう日も沈むしはよう暗なるしそういうのがよろしいわ冬はね。
今ちょうどゆっくりする時ですわ。
(孝行)1年通して今が一番農業でいえばオフに。
こうした冬の時期農家では昔から漬物や味噌など保存食の仕込みをしている。
漬物小屋にはたくさんの樽が置かれていた。
中辻さん朝市に出すために自分の畑で取れた大根や白菜など何種類もの野菜を漬けている。
(中辻)ちょうど1年ぐらいになりますなぁ。
そしてこちらがベニシアさん絶賛の味噌。
これも麹多いです。
2倍以上入ってますうちのはもうほとんど。
普通は同じ分量ぐらいで。
売ってはんのは同じ分量ぐらいなんです。
豆一升に麹も一升ぐらいですわ。
でもやっぱり倍麹したらおいしいです。
麹がたっぷりと入った中辻さんの味噌。
あじょうずに漬かってます。
ウフッ。
そのつくり方は意外な所で習ったと言う。
お寺で教えていただいたんです。
寂光院に勤めてましたしね。
はあ。
寂光院では毎年お味噌づくりされてたんでね。
それのお手伝いさせていただいてたんで。
それで教わったんです。
中辻さんが大原に嫁いできたのは40年前。
京都の町家育ちだったため農作業ももちろん味噌づくりもした事がなかった。
縁あって大原の寂光院で働き味噌の仕込みを手伝うようになった中辻さん。
仕事を辞めたあとも自宅で味噌をつくり続け朝市が始まると味噌を売るようになった。
お味噌を買うていただいたら必ずまた「よぉおいしかったし」言うてねまた買うてくれはりました。
そうなんで余計やっぱり頑張っておいしいもの作らなあかんと思ったりね。
中辻さん今では家族で作った米や野菜でさまざまなものを手づくりし朝市に出している。
早春の香りが味わえるよもぎ餅家族もみんなで中辻さんを支える。
長男の孝行さんが餅をつきお嫁さんの光代さんが餡を作る。
朝市でよう色が濃いと「何か入れてはるんですか?」。
「色粉か何か入れてはるんですか」よう言われました。
(中辻)大原のよもぎは…。
(孝行)香りが高い。
(中辻)やっぱり香りがええ言うてね。
朝市は中辻さんにとって生きがい。
素材の良さを生かした味を何よりも大切にしている。
麹が大豆の倍も入っているという中辻さんの手づくり味噌。
夫が育てた自慢の米で毎年麹そのものを自分でつくっている。
団子みたいになってる所ちょっとこうして潰してるんですけど。
麹菌をまいて一晩発酵させた米を優しく混ぜ合わせさらに一晩発酵させて寝かせる。
すると綿毛のような菌をまとった甘みのある米麹が出来上がる。
ベニシアさん楽しみにしていた味噌づくりを教えてもらうため中辻さんの家へやってきた。
大きいの家です。
こんにちは!おはようございます。
ありがとうございます。
迷ってたけどすごい大きいの家ですね。
フフフ。
そうですか?びっくりした。
でもたくさん部屋あるでいいですね。
はい。
何人ぐらいで住んでるんですか?7人です。
7人!孫が3人と私ら夫婦と若い夫婦と7人になります。
そしたら豆も炊けてますんで。
ありがとうございます。
行きましょか。
ホント楽しみなんか。
ここで?はいここで豆炊いてるんです。
ここで炊いて。
いいですね。
味噌づくりは寒仕込み。
雑菌が繁殖しにくい1月〜2月が仕込みに適していると言う。
どのくらい炊くんですか?1時間ぐらい。
もっと?2時間ぐらい。
2時間ぐらい。
裏庭では一晩水につけた2升の大豆が既に炊かれていた。
わ〜。
(中辻)もうだいぶ軟らかくなっているわよな。
(孝行)かたさ見て。
これはどこの大豆?
(2人)これね富山です。
富山の大豆。
へぇ〜。
大豆も作ったらええんやけどね。
日本の大豆はいいね!ね!なかなか…。
うんうん。
(孝行)どうや?いいと思いますよ。
うん。
すごいたくさん出来るね。
(中辻)よく出来ますよ。
指でつまんで軽く潰れるくらいになったら引き上げる。
このくらい?うん。
いけますか?はい大丈夫です。
(2人)大丈夫ですか?全部臼に移してすり潰す。
昔の人はこうやってしてたかな?
(中辻)うんそうやねぇ。
昔日本でみんな味噌つくったのかな?田舎やったらみんなつくらはったと思いますわ。
大豆の食感を残すためあまり潰しすぎないのがポイント。
ベニシアさんもちょっとやらせてもらう。
ちょっと餅違うね。
重たいでしょう結構。
うん。
ねぇ。
でもよう潰れてる。
(孝行)うん。
よう潰れてる。
よう豆煮えてたさかいになぁ。
よう潰れてるわ。
(孝行)あんまりこっきり潰してもあかんのや。
ああ。
ちょっとだけ残ってるほうがいい。
うん。
塩は先に…。
大豆が潰れたら次は麹の準備。
(孝行)米粒ひとつひとつに麹菌が…。
入ってるの?これもほんで甘いんですよ。
ちょっと食べてみはったら。
食べてもいい?
(2人)大丈夫大丈夫。
かんでると甘いでしょ?うん。
甘みが出てくるでしょかんでると。
うん。
麹4升塩8合を混ぜ合わせる。
結構固まってる。
ねっ。
塩固まってますやろ。
塩加減は中辻さんが長年かけて編み出した。
このくらいでいいの?はい。
ここにも全部。
全部入れるの?はいみんな入れます。
すり潰した大豆にこの麹を加え大豆の煮汁を足しながら混ぜていく。
大豆に対して2倍の量の麹を入れる。
これが中辻さんの譲れないこだわり。
そうすれば風味豊かな味噌に仕上がるという。
練り上がったら「味噌玉」と呼ばれる握り拳大の大きさに分けて空気を抜くように樽に投げて詰めていく。
これが楽しい。
たたきつけるような感じで。
そして入れてごらん。
(投げ入れる音)そうそうそうそう。
ストレス解消。
フフフ…。
(投げ入れる音)真ん中でいい。
詰め終わったら最後の仕上げ。
おまじないみたいなものだと思いますけどね。
お酒さんをちょっとパッパッってこう振ってね。
隠し味?隠し味かもわからへんよね。
そいでパラパラっと最後にしてね。
へぇ〜。
どうぞ今年も良いお味噌が出来ますようにとか言うてね。
こうしてるんですけど。
はい。
早速つくります。
アハハハハ…。
はいしてください。
ベニシアさんも自分で味噌をつくると約束した。
甘酒できました。
わぁうれしい。
おやつは自家製の麹でつくった甘酒。
混ぜてねショウガ入れてありますしね。
どうぞ。
うん。
うん。
うまい。
おいしいめちゃくちゃおいしい!どうですか?すごいおいしい。
そうですか。
フフフ。
あんまり甘い甘いといやらしいしね。
すごいおいしい!そうですか。
ショウガ結構たくさん入れてるね。
ショウガ入れます。
ショウガがよろしいや体に。
うん。
たぶん日本に来てから一番おいしいと思う。
いや〜ほんまに?これすごいおいしい!あ〜うれしいわ。
ありがとうございます。
おじいちゃんとってくれはったお米や。
ホントこれ飲んだら幸せになる言うの。
ありがとう。
心まで温まった楽しい味噌づくりの帰り道。
春はもうそんなに遠くはない。
ベニシアさんの庭は春を迎えるための準備が始まった。
お隣との境に友人で造園家の椿野晋平さんが垣根を作っている。
もうちょっとで終わるよね。
すごいな。
(椿野)そうですね。
春だったらもう植物出てるのね。
だからあんまり動けないけど。
冬の間みな土の中に寝てるからこういう作業できます。
もちろんベニシアさんも手伝う。
こうして…。
ここにこうついてちょっと上にね上げてこう落として。
ああ。
そうですね。
この垣根デザインはベニシアさんが考え椿野さんが具体的な方法を提案した二人の共同作品。
なるべく自然を生かした材料で作りたいというベニシアさんの希望で竹と柳の枝を交互に組んでいく形にした。
これはバッキーが考えた?日本のやり方で縦のバージョンで大津垣というのがありましてね。
それの横向きバージョン。
横向きはあまり無いじゃないですか。
あそうか。
ベニシアさんのイメージされてたイギリスのコテージ風が横向きのイメージだったんでね。
ああ。
(ノコギリで切る音)柳の枝は自然の曲線を生かして垣根にはめ込んでいく。
ベニシアさんがこだわった部分だ。
2種類でやるっていうのも面白いですよね。
うん。
フフフ…。
いやそれが面白いよ。
春を待つ楽しみ。
「冬の終わりが好き」とベニシアさんは言う。
さぁもうちょっと飲み物持ってこようか。
寒いよね。
うん温かい飲み物ですか?温かいお茶。
あ…ありがとうございます。
ティータイムのお茶は庭に植えたハーブを使うのがベニシア流。
きょうはタイムを収穫する。
もうこのくらいでいいと思います。
今から梅干しタイムティーを作ります。
あの…簡単にできる。
材料はタイムと梅干しと水です。
風邪予防とあと二日酔いの時すぐ効きます。
最初は水温めます。
それでポコポコになったらこのタイム入れて大体5分ぐらい。
お湯ができるまでこれちょっと焼きますね。
梅を焼くと血液の循環をよくし体の新陳代謝を助けてくれる成分が作られる。
はいタイムお湯に入れます。
5分。
タイムは殺菌作用と合わせて発汗を促す作用もある。
梅干しが焼けたら器に移して身を崩しておく。
煎じたタイムをここに。
あとは煎じたお茶を注げば出来上がり。
和洋折衷のアイデア。
風邪にも二日酔いにも効く。
ベニシアさんお薦めのお茶。
(扉の開閉音)すいません。
お待たせ。
(椿野)お〜すごい。
ちょっと焼くのに…。
作業の合間のティータイム。
これもガーデニングの楽しみ。
これ何入っているか分かる?あったかそう。
何でしょう。
おっ梅干。
(笑い声)あったまります。
2階にある書斎。
英会話学校の先生でもあるベニシアさん。
春にやってくる新入生のためにパンフレットを作っていた。
春は新しい出会いの季節。
もうすぐ訪れるその時をベニシアさんは心待ちにしている。
宮城県石巻市に来ました。
今回の舞台は2015/03/15(日) 18:00〜18:30
NHKEテレ1大阪
猫のしっぽ カエルの手「春を待つ」[字]
厳しい寒さに動植物も眠る、京都大原。新しくなった朝市で大原の冬野菜と味噌を買うベニシアさん。初めての味噌作りに興味津々。梅干しとタイムのお茶でティータイム。
詳細情報
番組内容
厳しい寒さに動植物も眠る、京都・大原。凛(りん)とした冬の朝、里を歩き、大原の自然に触れるベニシアさん。今日は新しくなった朝市に足をのばし、大原の冬野菜とみそを買う。お目当てのみそは農家の中辻栄子さんの手作り。自分でもみそを作りたいと中辻さんにみそ作りを教えてもらうことに。初めて見るみそ作りに興味津々。自家製のこうじで作った甘酒もいただき、身も心も温まる。
出演者
【出演】ベニシア・スタンリー・スミス,【語り】山崎樹範
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 自然・動物・環境
ドキュメンタリー/教養 – カルチャー・伝統文化
趣味/教育 – 園芸・ペット・手芸
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