社説:プーチン発言 核の脅しは許されない
毎日新聞 2015年03月17日 02時33分
驚くべき発言である。ロシアのプーチン大統領が、1年前にウクライナ南部のクリミア半島を一方的に編入した際、米国を中心とする北大西洋条約機構(NATO)との対決に備えて核兵器の使用を準備していたことを明らかにした。
ロシアがクリミアの編入を宣言してから18日で1年になる。これに合わせて国営テレビが制作したドキュメンタリー番組が15日夜、ロシアで放映された。この中でプーチン大統領はインタビューに答え、クリミア編入によって起こり得る「あらゆる事態」に備えるよう軍に指示したと語った。さらに「それは核戦力を戦闘準備態勢に移行する用意があったということか」との質問に「そうする用意があった」と明言した。
プーチン大統領の発言には、クリミア編入を非難する欧米の圧力に屈しない姿勢を国民に示し、強い指導者として支持を高める狙いがあったとみられる。同時に核兵器使用の可能性をちらつかせることによって、ロシアの勢力圏に介入しないよう欧米をけん制したのだろう。事実上の脅しである。
だがウクライナ情勢をめぐってロシアと欧米が対立する中で、こうした発言は危機を一層エスカレートさせる危険性がある。ロシアは国連安全保障理事会の常任理事国であり、世界の安全に大きな責任を負う国の指導者として許されないことだ。
そもそもクリミア編入は武力を背景にした一方的な国境変更である。たとえ地域住民から支持されているとしても、ウクライナという国家の主権を否定し、現行の国際法に違反する行為である。このため欧米や日本は、ロシアに対する経済制裁を発動し、対ウクライナ政策の変更を求めてきた。ところがロシアはますます強硬姿勢を強めている。
プーチン大統領は昨年8月、学生との集会で「ロシアは核大国だ」と欧米を威嚇するかのような発言をしたこともある。またロシア外務省高官は11日、編入したクリミアに「核兵器を配備する権利がある」と述べた。さらに今回の発言である。
このように核の存在を露骨に見せつけることが、いかに危険であるかをロシアは自覚すべきだ。米国の一極支配が崩れて中国が台頭するなど国際秩序は不安定化している。対立があってもむやみにあおらず、それを克服するための建設的な取り組みが各国に求められている。
来月には核拡散防止条約(NPT)の再検討会議が開かれる。非核保有国の核保有国に対する視線は厳しい。核削減への努力が求められる中で、核の威力を誇示して自国の主張を通そうとする姿勢は国際社会への背信行為である。