(型をたたきつける音)次々と焼き上がるパン。
パン。
パン。
おいしそうだね〜!今日の主人公はたった1人でパン屋さんを経営するこちらの女性。
・
(伊藤)はいクープバゲットです。
・はい。
このお店県外からも通う常連がいるほどのパン屋さん。
予約の電話が鳴りやまない!はい。
この日は開店から30分で売り切れ。
ありがと〜う。
はいありがと〜う。
大丈夫ですよ。
大丈夫です。
中で見てもらうわ。
このお店実は…どうしてかというと…。
香代子さん素顔は2人の子を持つお母さん。
ふだんは家の仕事に専念している。
その時の決意が彼女の今につながっている。
パン屋さんの準備中も僅かな合間を見つけ子どものお弁当作り。
専業主婦だった香代子さんが挑むパン屋の経営。
初めての社会経験でつかんだものとは?兵庫県西脇市。
神戸から電車で2時間の街に香代子さんは一家で住んでいる。
ひな祭りを間近に控えたこの日。
幼稚園に通う長女葉奈ちゃんと2人で料理をしていた。
作っていたのはいちご大福。
料理が得意な香代子さん。
おやつはいつも手作りだ。
白あんでいちごを包み白玉粉から作ったお餅でくるむと完成。
2階に上がると平日にもかかわらず夫・淳一さんが。
実はお仕事の真っ最中。
(男性)「こんにちは」。
淳一さんはプログラマー。
東京にあるソフトウエア開発の会社に勤めている。
仕事の打ち合わせも全てインターネットを介して行う在宅勤務だ。
ここ西脇は香代子さんの生まれ故郷。
実家の近くで子育てをするのはもともと香代子さんの希望だった。
ではどうぞ。
結婚して9年。
妻として母として家庭を切り盛りしてきた香代子さん。
しかし4年前から週末2日間だけ別の顔を持つようになった。
金曜日深夜1時。
この時間から香代子さんのパン職人としての1日が始まる。
おはようございま〜す。
自宅から出てきてすぐ隣の建物に入って行った。
(ドアの開閉音)
(取材者)おはようございま〜す。
おはようございま〜す。
ここが香代子さんのお店。
僅か4.5坪の小さな空間だ。
店内には前日に仕込んでおいた生地がズラリ。
それを1つずつパンの形に整えていくのが最初の作業だ。
生地にチョコレートを織り込んでチョコマーブルの食パンに。
こちらはさつまいもとクリームチーズのあんを練り込んでロール状にした菓子パン。
次々とパンを仕込んでいく香代子さん。
開店は朝の10時。
従業員は雇っていないのでそれまでにたった1人で全ての作業をしなくてはならない。
そう香代子さんのパン作りは完全に独学。
そんな彼女がなぜパン屋さんを開くまでになったかというと…。
19歳の若さで結婚しそのまま専業主婦になった香代子さん。
自分で望んで家庭に入ったものの心のどこかには独身でバリバリ働く同世代の女性への憧れもあった。
そんな時息抜きに始めたのがパン作り。
もともと料理好きの香代子さんは次第に熱中し始めた。
香代子さんが特にはまったのがフランスパン。
シンプルで味のごまかしがきかないだけに最も焼くのが難しいといわれている。
おいしいフランスパンとは「クープ」と呼ばれる表面の切れ目がきれいに盛り上がり中の気泡の大きさがランダムになっているのが条件。
この2点がパンの食感を左右する。
香代子さんは来る日も来る日も研究し続けた。
そして次第に焼くパンの量や種類も増え素人離れしていった。
仕事への憧れがあった香代子さん。
淳一さんの言葉に背中を押され…しかし香代子さんにはアルバイトの経験すらなかった。
まずはつてを頼って大阪や神戸で個人営業するパン屋さんを訪ね店の経営について勉強した。
店舗は自宅の脇に造る事になった。
かかった資金は600万円。
足りない分は両親に頼み込み援助してもらった。
着工から半年でついにお店がオープン。
しかし現実はそんなに甘くなかった。
1年目は客足が安定せず赤字。
その頃の心境が当時のブログにつづられている。
それでも「おいしい」と言ってくれる常連さんの声を励みにパンを作り続けた。
その味は次第に口コミで広まっていった。
何度でも食べたくなるおいしいパンを作りたい。
そのための努力は惜しまない。
(型をたたきつける音)例えばこのパン…この日のいちおし商品だ。
材料のいちごは地元で評判の直売所で買ってきた。
その日の朝に摘みたてのいちご。
1パック1,000円!なかなかの高級品だ。
買ってきたいちごを全部潰してパンに投入。
水を入れずにいちごの果汁のみで作ったパンは味が濃厚で旬の香りが漂う。
オープンして4年。
こだわりのパンの数々で順調に売り上げを伸ばしてきた。
この日経理を手伝う淳一さんが1年間の決算をまとめてくれた。
仕事の話。
今回も黒字。
「成績優秀」と言いたいところだが一つだけ懸念事項が。
普通のパン屋さんより材料費が多くかかっていたのだ。
(淳一)まあねお金もらってるもんね。
(淳一)うん。
まあな。
プロとして…「ただの母」では味わえなかったものだ。
そんな香代子さんの月収を見てみよう。
お店のひとつきの売り上げは平均25万円。
そのうち15万円が経費で残りの10万円が月収だ。
子供たちの将来のために貯金している。
一週間スケジュールはこちら。
お店の営業は金曜土曜の週末2日だけ。
もともと伸び伸びと子育てしたいと考えていた香代子さんたち。
(ピアノ)子供たちをピアノなどの習い事に通わせたり…。
(ピアノ)季節ごとの学校行事には夫婦で参加。
お互いに時間に融通が利く働き方を選んで子育てを大事にしている。
作業を始めて2時間半。
どんどんパンを焼いていく香代子さん。
(タイマーをセットする音)さあ次は?…と思ったら突然どこかへ消えた?向かった先は自宅。
若くして母になった香代子さん。
人一倍家の事をきちんとやりたいという思いが強い。
その気持ちは店を始めてからも揺るがない。
一段落したらまたまたお店にダッシュ!
(タイマーの音)急いでオーブンの中のパンを取り出す。
絶妙な焼き上がりだ。
週2日の営業スタイルは子育てと両立させるため。
お店のお客さんからも好意的に受け止められている。
お客さんの多くは子育てを経験した年上の女性たち。
そんな人たちの評価がうれしい。
パン屋さんを始めて子育ても更に充実してるって感じだね。
淳一さんがお店をのぞきにやって来た。
その手にはタブレット。
今日作ったパンの種類を確認してタブレットでメモしていく。
チョコマーブルとオレンジ。
プレーンとチョコマーブル。
淳一さんは自宅に戻るとパソコンに向かって先ほどメモしたパンの種類をSNSに書き込み始めた。
淳一さんのひと言で香代子さんが始めたパン屋さん。
まさか香代子さんがここまでのめり込むとは。
ITに強い淳一さんなりに手伝っている。
4年間週に2日香代子さんが焼き続けているパン。
あとはお客さんを待つばかり。
・はい。
おはようございま〜す。
はいどうぞ。
・8時10分。
お客さんからの電話が鳴った。
続々と注文が入る。
・はい。
あっという間に品切れ続出。
10時の開店と同時に常連のお客さんがやって来た。
(レジの操作音)ここぞとばかりにたくさん買い込んでいく。
一番の常連さんがやって来た。
香代子さんのお母さんだ。
開業当初のつらい時期は売れ残ったパンを買い取ったり香代子さんの相談に乗ったりして支えてくれた。
この日はおよそ3万5,000円の売り上げ。
自分が作ったものでお金を得る。
香代子さんにとって社会とつながる大切な時間だ。
本日も完売御礼!お店が終わりパン職人としての達成感を胸にまた母の顔に戻る。
家族とお客さんと自分が作ったおいしいものでつながっていく喜び。
母時々パン屋さん。
いつまでも欲張りな食いしん坊でいてね!2015/03/16(月) 19:25〜19:50
NHKEテレ1大阪
人生デザイン U−29「パン屋経営者」[字]
兵庫・西脇市に住む伊藤香代子さん(28)は週末2日だけ営業のパン屋さん。若くして結婚・出産し働いた経験がなかった彼女は、パン屋を通じて自分の世界が広がっている。
詳細情報
番組内容
いま自宅やインターネットを利用して小規模に起業する女性が増えている。兵庫・西脇市に住む伊藤香代子さん(28)もそんなひとり。趣味が高じて週末2日間だけ小さなパン屋さんを営んでいる。もともと主婦願望が強かった伊藤さんは19歳で結婚、20歳で母となり、会社勤めはおろかアルバイト経験もなかった。ひょんなきっかけで開業したパン屋での仕事を通じ、世界が広がる喜びを感じている伊藤さんの生活に密着する。
出演者
【語り】Mummy−D
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz
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