責任ある大国の指導者の発言とは到底思えない。ロシアのプーチン大統領が、クリミア半島の併合の際、核兵器の使用準備を検討した、と明らかにした。

 ロシアが半島を併合してから1年がたつ。ロシア国営テレビの質問に答え、併合への米欧による妨害を念頭に、核戦力を臨戦態勢に置く用意があったことに言及した。

 そもそも現代の国際社会は、武力による紛争の解決を禁じている。とりわけ核兵器は人類の存亡にもかかわる重大な意味をもつだけに、第2次大戦後の国際社会は核の軍縮・軍備管理と不拡散に努力を注いできた。

 ところがプーチン氏は自国の領土拡張のために、核の準備の可能性まで考えていたのだ。

 ロシアの軍事ドクトリンも、核の使用を「核攻撃を受けた場合」や「国家存立の危機」などに限っている。冒険的な突出発言であることは明らかだ。

 半島の併合についてロシアは「ロシア系住民の保護」を主な理由にした。だが、ロシア系はバルトや中央アジアなど他の旧ソ連国にも多く住む。

 こんな姿勢では、そうした場所で分離・独立の問題が起きるたび、世界は核戦争を心配しなくてはならなくなる。

 ウクライナは旧ソ連からの独立後、核を放棄することで米英ロから領土保全を保証された。その意味でロシアの一方的な併合がまかり通れば、核をあきらめることが不利益を生む、あしき先例となりかねない。

 そのうえロシア高官は、クリミアへの核配備の可能性も示唆している。核大国が本来取り組むべき軍縮の責務をかなぐり捨て、逆に核による脅しに突き進むかのような暴言である。

 核問題だけではない。プーチン氏は「住民投票の結果を待たずに併合を決めた」とも明かした。ロシアの特殊部隊を使い、親ロシア派武装勢力を後押ししたことも認めた。

 その後、ロシアは同じ手法でウクライナ東部の分離・独立問題に介入し、死者6千人を超える紛争を引き起こした。

 その点で鳩山由紀夫元首相が示した認識は的外れだ。住民の意思だけでロシア編入が進んだのではない。軍事力を伴った工作で併合され、既成事実化されたのだ。米欧や日本が制裁を科したのは当然である。

 力による国境の変更に加え、核による挑発。プーチン氏の行動は、前時代的な大国意識の表れではないか。これ以上、国際秩序に挑むような言動は慎むべきだ。国際社会のロシアへの警戒心は極度に深まっている。