【北京=阿部哲也】中国共産党の中央規律検査委員会は15日、中国国有の自動車大手、中国第一汽車集団(吉林省)の徐建一董事長を「重大な規律違反と違法行為の疑い」で調査していると発表した。国有大手の現役トップが当局の調査を受けるのは異例だ。第一汽車と合弁を組む独フォルクスワーゲン(VW)やトヨタ自動車の中国戦略に響く可能性もある。
具体的な容疑は明らかになっていない。ただ、第一汽車を巡っては昨年夏に党が検査委内に置く調査チームの「巡視組」を派遣し、徹底的に汚職などを調べていた経緯がある。これまでに合計150人もの幹部が取り調べを受けたとされ、政府高官ポストに相当する董事長職を務める徐氏へも調査が及ぶかどうか注目を集めていた。
徐氏は1975年に技術者として第一汽車に入り、総経理や董事長など重要ポストを歴任した。VWとの合弁会社幹部を務めた経験もあり、VWが中国販売のシェア首位にのし上がる「立役者」になった人物だ。全国人民代表大会(全人代)の吉林省代表(議員に相当)も兼務し、自動車業界に対する規制や産業政策にも大きな影響力を持っていたとされる。
党や政府幹部との汚職の疑いが指摘されている。徐氏は失脚した元最高指導部メンバーの周永康氏と近く、周氏の親族へ高級車「アウディ」販売店の出店権利を巡って便宜を図った疑いがあるとの見方が出ている。
徐氏は江沢民元国家主席に連なる「機械工業閥」の一員としても知られる。中国の新車市場が世界最大に成長する過程で、自動車産業も大きな利権産業となった。このため習近平指導部が看板政策に掲げる国有企業改革への抵抗勢力と見定めてきたともされる。
「国有資産に対する監督管理をいっそう厳しくし、腐敗分子を厳しく調査・処罰する」。李克強首相も今回の全人代の開幕式で力を込めた。習指導部が主導する反腐敗運動が「石油閥」や「電力閥」に続き、産業界で力を持つ機械工業閥にも及び始めたようだ。
今回の全人代では閉幕後に周永康氏や政協副主席だった令計画氏に続く大型摘発があると噂されていた。党は現在も電力や通信大手へ「巡視組」を送り込み、査察を進めている。中国を代表する自動車メーカーである第一汽車の経営トップが調査を受け、「次は誰が標的になるか」と関係者は戦々恐々としている。
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