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とあるおっさんのVRMMO活動記 作者:椎名ほわほわ

おじいちゃんの試練、後編

 後半戦、というよりもいよいよ本番が始まったのだが……始まって10分ほどが経過すると、自分はすでに一方的にぼこられて満身創痍状態だった。

 ──弓矢での攻撃は、全ておじいちゃんの手の甲に光る鱗で弾かれる事でなんなく対処されてしまった。普通の矢もアーツを使って放った矢の区別などなく、まるでハエを払うかのように軽くおじいちゃんが手を一振りするだけで、渾身の力を込めた矢の一撃すら、何事もなかったかのように無と化していく。

 ──スネーク・ソードを用いた攻撃は、おじいちゃんの人差し指と中指で真剣白刃取りされて自分の動きが止まった所で、右手を痛打されて剣から一瞬手を離してしまった瞬間に遠くへと放り投げられてしまった。おじいちゃんの動きに対処しながら回収に行く事は、早々に諦めざるをえなかった。

 ──蹴りの攻撃は、おじいちゃんの放つ蹴りに受けられ、流され、反撃を一方的に受けるばかり。こう蹴ったらこう返すのだとばかりに、ことごとく自分が放つ蹴りは無力化されて反撃を受けてダメージが蓄積していくばかり。

 そして各種自分の行った攻撃を無力化された後に、容赦ないおじいちゃんの豪腕から繰り出される拳の一撃による反撃が吹っ飛んできて、自分の顔や腹に突き刺さってくる。そのたびに自分は宙を舞い、地面に叩きつけられた。そのつどポーションを自分に振りかけてHPを回復してから立ち上がるのだが、そろそろポーションの多用による中毒が発症するかもしれない……。自分が吐く息は荒く、集中力は落ち、その結果ますます判断力を低下させる。

「休んでおる暇はないぞー?」

 おじいちゃんが距離をつめて丸太のような豪腕を再び振りかざしてくる。その豪腕を自分は小盾で必死に受ける。ダメージは軽減できるが衝撃などは軽減できず、またも宙を舞わされて……背中から受身も取れずに地面へと叩き落される。そのつど自分の口からは『ガフッ』という声が漏れ出る。

「ふむう、流石にそろそろ限界かのう? まあ人族としてはそれなりに持った方かの」

 一歩一歩ゆっくりと、おじいちゃんが倒れている自分に向かって歩いてきている足音がする。何とかポーションを取り出して、自分に振り掛けるが……とうとうポーション中毒の状態異常が発動した事を示すアイコンが、端っこの方に浮かび上がってしまった。 ──まあいいか……どの道残っているHPを回復するポーションはほぼ使い果たした後だ。飲むのではなく掛けていたために中毒の発症が遅かったようだが、その分回復量も少ないのだから得という事にはならないけれど。それでも回復したことで手足に力がある程度戻り、よろよろとたちあがる自分。

「ほほう、まだ立つか。根性だけはそこそこあるようじゃな。武術の部分は未熟の一言じゃがの」

 言い返す気力はすでに自分にはない。それにこうも自分が行った攻撃の全てを見事に避けられ、対処され、返されてしまっては何も言い返せないという一面も強い。

「じゃが立ち上がってきた以上は叩き潰す、それも試練じゃ」

 そうおじいちゃんは宣言したかと思うと、実に見事なアッパーカットを自分に放った。ガゴリッと嫌な音が耳に聞こえた瞬間、足が地面を踏みしめている感覚が失われた。ああ、今自分は上空に吹き飛ばされているんだな~なんて事を考える時間的な余裕があるぐらいなのだから、第三者からみてみればそれはもう見事なほどに高く舞い上がっていたのだろう。そして肩の部分から墜落、体が僅かに弾んでうつ伏せ状態で倒れこむ自分。

「──これで幕じゃな、が、念には念をという言葉もあるでのう」

 足に何かを突き刺されたような感触が伝わってきた。その直後から足の膝より下側の感覚が綺麗に消失した。足の指などの感触がまったく感じられない。──そうか、自分が立ち上がれないようにしたのか。これで回避行動も絶望的か……いや、そもそも回避などろくにできていなかったか。

「では、楽にしてやろう。人にしてはここまでよう頑張った。この結果を恥じる事はない」

 おそらくおじいちゃんはその豪腕で自分にトドメとなる一撃を入れるのだろう。それで試練は終わる。当然失格となって龍の儀から帰るだけ。この結末は仕方がない、これほどまでに強いとは思わなかった。自分は全力を出した。強化オイルだけは残念な事に使う一瞬のチャンスも与えてもらえなかったので使わなかったが……ゼロ距離で使えば自分自身が自滅するだけだ。そう分かっている……それなのに、それなのに。


 ──何でこんなに悔しいんだ。


 本当に自分は……俺は"全力を出した"のか? ゲーム的な意味じゃなく、プレイヤー的な意味でもなく、人として。どこかで自分もゲームなんだからここで負けるのも仕方がないと考えていたんじゃないか? ゲームに熱くなるのは子供だ、いい歳なんだからゲームなんかやめろ……何度親などに言われただろう。大人には大人にふさわしい趣味があるなどと勝手な事を言われただろう。

 あの時自分が受けた交通事故は仕方がなかった、その交通事故の後遺症で体がやや不自由気味になったのも不運だった。だがこの世界に来た事、この戦いに身を投じたのは……自分の意思だったではないか。

 自分の意思で始めた物事を、その内容がどうであれ、本気の本気で取り掛かれないなんて……つまらな過ぎる。この世界を新しいゲームだからと参加した人は気楽にやればいい、それが本来の楽しみ方だろう。 だけど、他人の事は置いといて自分はどうだ? 動かなくなりつつある体を嘆いて、もう一度思いっきり動きたいと願って始めたんだろうが。そしてこちらの世界の人たちといろいろと喋って……色々と関わって。

『ここはもうひとつの世界なんだって感覚に陥ってもおかしな事じゃないって……』

 と、ロナが言うような事を自分も十分感じていたんだろうに。それなのにこういったところで負けを認める時にだけ、ゲームだからって考えるやり方は実に卑怯な思考ではないだろうか? そういうドライな割り切り方が出来るのが大人だと言うのであれば。


 ──ああ、そうだ、今だけは子供でいい。そんな都合のいい考えをする大人の思考なんぞ、今はこちらから願い下げだ。勝ち負け以前に、そんな冷めた心しか持てない俺自身なんか必要ない! 吼えろよ、泣けよ! そこまでの事をまだやっちゃあいないだろう! 38歳にもなってそんな考えは馬鹿馬鹿しい? 言いたい人には言わせておこう。その意見も正しいから否定は一切しない。だが、必要な時はおもいっきり"大人気ない事を全力でする"のも、また大人だろうが!


 もう一度立ち上がるんだ。膝立ちで十分だ。最後の最後まで拳を握り締めて戦ってこそ漢だろう! 甘んじて負けを受け入れるより、最後まで拳を硬く握り締めて振り上げろ! 相手の面を最後まで見るんだ! 外聞何ぞかなぐり捨てろ! この世界がどうたらこうたらというへ理屈もゴミ箱に全部捨ててしまえ! 今肝心な事はたった一つ、最後の最後まで立ち向かう大人気ない根性だけだ……シンプルで良いじゃないか。

 左手が動かない。墜落した時に何らかのダメージを受けたか? だが右手は動く。バランスがとりにくいが……何とか上体は起こせる。膝から下の感覚はないが、足を切り落とされたわけではないので何とか膝立ちは出来た。膝立ちと言えど、再び立ち上がった自分がそこで見たものは、驚きの表情をみせているおじいちゃんの顔だった。

「──そのような姿になっても再び立つか。座して負けを認めたくはないという意思表示かの? じゃが、それでも結末は変わらずにこれで終わりじゃが」

 おじいちゃんが豪腕をゆっくりと振り上げる。そうだろう、残りHPから考えればその豪腕から繰り出される拳の一撃で自分は砕け散る。だが、そんな事はもうどうでもいい。そしてスキルが無いからとか、そんな事もすでにどうでもいい。ダメージを与えるとか、自分の今やりたいことはそういうことではない。

 今はただ、この残った右手の拳を全力で硬く握って。振り下ろされてくるおじいちゃんの拳に対して。全力で自分の拳を叩きつける事だけ。ゲームシステムから見ればまったくもって無意味、無価値、無駄な行為と罵られて然るべき行動。それでもやる。体が不思議と熱い。おじいちゃんと比べるのも馬鹿馬鹿しいぐらいの細い自分の腕だが、それでもやることの内容に変更は一切無い。

「おわりじゃあ!」

 振り下ろされるおじいちゃんの拳。

「うおおおおおおおおおおおおおおっっっ!!」

 その時に自分の口から、自分の声とは思えないような咆哮が飛び出した。いつ以来だろう、こんなに心の底から吼えたのは。人との付き合いは当然のことながら気を使う。言いたい事があっても場を壊さないためにぐっと飲み込む必要もある。個人的に付き合いたく無くても、付き合わなければならない人や場所がある。そこでむやみに大声を出すことは許されない。言いたい事も大きく控えめにして言わなければならない。それですら現実ではいざこざが起きる。お互いが仮面をつけて付き合わなければならない。逆にそうでなければまとまる物もまとまらない。

 だが、今はそんな考えをすべて排除していた。思いっきり吼えて、自分に飛んでくる拳に向かって自分の右の拳を叩きつけていた。腰も入ってない、足の踏ん張りも使えない、テレフォンパンチよりもひどい弱い拳であったであろうその拳は……おじいちゃんの豪腕からの一撃を何故か受け止めていた。

「寝ぼすけめ、ようやく目覚めおったか。限界まで手加減しながら戦うという行動は実に疲れるのう」

 そう言って拳をゆっくりと引いていくおじいちゃん。振り上げたままの自分の拳には……薄く金色に輝く鱗が纏わりついていた。

「わしと打ち合い、恐怖から逃げ出さず最後の最後までよう抵抗した。合格じゃ!」

 自分の頬に何かが触れる。なんだ? と思ってその頬に触れたものを確認すると、それは長い金色の髪の毛だった。引っ張ってみると痛いことから、自分の髪の毛であると自覚した。気がつけば両足の感覚も戻っていたので、膝立ちの状態から普通に立ち上がる。両手、両足はすべて薄く金色に輝く鱗に覆われ、全体的に体が大きくなっている。手の形も5本指なのは変わらないが、爪が鋭くなっているし、手の大きさ自体も増している。

「その姿が黄龍変化したお前さんの姿だ。人の扱う武器や道具は一切扱えなくなるがの、強靭な体から繰り出す体術を駆使し、龍技を持って相手を圧倒することが可能な姿じゃな……その代わりここではない場所では、変身を維持できる時間は本当に短いがのう」

 ほっほっほっほと笑いながら、お爺ちゃんは自分にそう告げた……。
普段からたくさんの感想ありがとうございます。

まず、誤字が多い点については大変申し訳なく思っております。
もちろん何度も何度も上げる前に見直しているのですが、
なかなか抜けが直りません。毎日更新をやめたほうが良いのでしょうか?

みるべき所が無いとのご意見も頂いております。
そればかりは私の力不足であり、ただただ申し訳ないとしか言えません。
ただ、絶対に完結をさせたいので投げ出すという選択肢だけはとりません。
ですので、いつしか限定公開という形にするかもしれませんが……。

スキル

風震狩弓Lv50 剛蹴Lv18  百里眼Lv20 製作の指先Lv95 小盾Lv20
隠蔽Lv49 武術身体能力強化Lv31 義賊頭Lv18 スネークソードLv33
妖精言語Lv99(強制習得)(控えスキルへの移動不可能)

控えスキル

木工Lv44 上級鍛冶Lv44 上級薬剤Lv20 上級料理Lv49

ExP 18

所持称号 妖精女王の意見者 一人で強者を討伐した者 竜と龍に関わった者 妖精に祝福を受けた者 ドラゴンを調理した者 雲獣セラピスト 人災の相 託された者 龍の盟友 ドラゴンスレイヤー(胃袋限定) 義賊

二つ名 妖精王候補(妬) 戦場の料理人

進化武器 願いの弓

Atk18 狩弓 特殊能力 貫通力強化(中) 大雷光招来(確率低) 大砂塵招来(確率低) 矢が光状になり、命中直前に4本に分裂する 大妖精の魔薬(ランダムで状態異常を付与する、確率中)弦1本
+注意+
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