2015年03月15日

◆ 北陸新幹線の光と陰

 北陸新幹線が開通して、世間は大喜び。しかし物事には両面がある。光の当たらないところに陰がある。それは、巨額の赤字だ。

 ──

 北陸新幹線が開通して、世間は大喜びだ。新聞記事も、喜ぶ人々の声をやたらと伝えている。
  → 北陸新幹線開業、にぎわう駅:朝日新聞デジタル
  → 軽井沢駅で挙式、延伸駅でにぎわい:日本経済新聞
  → 北陸新幹線が開業 金沢駅にぎわう NHKニュース





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 調べればわかるが、確かに便利になっている。
 (1) 時間は1時間以上短縮され、2時間半程度。電車で行ける距離で最適だ。(これ以上だと飛行機の方がいい。)
 (2) 金沢は飛行場が不便な地にあって、もともと飛行機を利用しづらかった。新幹線なら問題ない。飛行機と違って乗車も簡単だ。
 (3) 料金が思ったより安い。東京−大阪間と同程度、というリーズナブルな料金。

 いろいろと便利なことがあって、とても素晴らしいことだ、と思える。大喜びする人が多いのも、当然だろう。

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 しかし、光の当たらないところには、陰もある。よく考えると、コストが謎だ。
 (a)建設コストは、昔の新幹線に比べて、(物価上昇のせいで)何倍にもアップしているはずだ。また、難工事の地点が多かったことからしても、(技術的な問題から)何倍にもアップしているはずだ。コストは10倍程度か、それ以上になっていると思える。
 (b)乗客数は、東海道新幹線に比べて、数分の1だと思える。とすれば、建設費という固定費を償還するためのコストは、数分の1の逆数で、数倍になっていると思える。


 以上の(a)(b)からして、コストは数十倍にもなっていると思える。現実には、「建設技術の進歩」というコストダウン要因もあるので、数十倍になっているかどうかは即断できないが、それでも、10倍程度にはなっているだろうと推定される。
 なのに、現実には、東海道新幹線と同程度の料金だ。これはいったいどういうことか? 謎である。

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 常識的に考えれば、大赤字を埋めるのは公的資金である。それは、どの程度か? 

 まず、総コスト。
 総工費約1兆7800億円
( → 毎日新聞 2015年03月15日

 負担割合は、JR が3割で、国と自治体が7割。
  → グラフと説明 (福井県のサイト)

 このグラフでは、建設費が 1兆1600億円の時点で、対象事業費 7800億円のうち、国と自治体が7割の 5500億円、JR が3割の 2300億円となっている。自治体負担のうちの多くも国が地方誇負税などで負担するので、福井県の場合には実質負担は 1割の800億円だけ。残りにあたる6割は国の負担。結局、
    国:自治体:JR = 6:1:3

 という分担で負担する。

 総工費は先に述べたように 1兆7800億であるから、その6割に当たる 1.1兆円ほどが国民負担となるわけだ。で、JR の負担はたったの3割だけ。

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 これを電車の料金に換算すれば、(運転費込みで)実際には4万円程度のコストがかかっているところを、国や自治体の負担のおかげで、1.4万円ちょっとで済んでいるわけだ。それほどにも巨額の金を援助してもらっているわけだ。

 これなら、人々が大喜びなのも、納得できる。なぜなら、この電車に乗るたびに、人々は 2.5万円をもらっているのと同じことだからだ。(4万円の)電車に乗るたびに 2.5万円をプレゼントしてもらえる! 大喜びなのは当然だろう。
 ただし、乗客が大喜びなのは当然だとしても、他の人々がこれを見て喜ぶのは狂気の沙汰だ。なぜなら、彼らが得をする分、他の人々は金を奪われているからだ。(税金の無駄遣いという形で。)
 仮に、この莫大な無駄をやめれば、国民全体で 1.1兆円が浮く。(自治体の分も加えれば 1.25兆円が浮く。)
 1.25 億人の人口で割れば、大人も子供も、1万円をもらえることになる。4人家族なら、4万円をもらえることになる。
 逆に言えば、その分、人々は金を奪われていることになる。
 こういうふうに金を奪われておきながら、「北陸新幹線が開通した、万歳!」などと喜ぶのは、あまりにも馬鹿げている。
 
 ──

 以上のように、光のそばには、陰がある。
 ま、だからといって、「北陸新幹線なんか建設しない方が良かった」と言うつもりはない。どちらかと言えば、北陸新幹線は建設した方が良かっただろう。私もそう思う。
 ただし、それにしては、料金設定がいびつすぎる。4万円のコストがかかる状況で 2.5万円を国民負担にするなんて、あまりにも馬鹿げている。
 思えば、東海道新幹線ができたときは、かなり高めの料金だった。当時の物価水準や所得水準からすれば、現在価格で3万円ぐらいに相当する価格帯だったと思う。
 とすれば、北陸新幹線も、1.4万円という激安価格ではなくて、3万円ぐらいの料金に設定するのが妥当だったと思える。
 現状では、1.4万円という激安価格に設定して、その分、国民負担が莫大になっている。これは経済原理としてもおかしい。料金の半額以上を国家負担にするなんて、あまりにもひどすぎる。

 人々は光の当たったところだけを見て大喜びをしているが、光の当たらないところでは多額の金を奪われているということに、留意するべきだろう。喜ぶのは、そのあとでいい。さもなくば、ぬか喜びだ。
 



ぬか漬け 器




 [ 補足 ]
 本文中の数字は、実は不正確なところがあったので、もっと正確な数字を出そう。
    国:自治体:JR = 6:1:3
 という比率を先に示したが、この数字の前提は、「総額 1兆1600億円」であった。ところが現実には、「総額 1兆7800億円」というふうに 53%もアップしている。となると、上記の比率は正確ではない。
 ちなみに、1997年(平成9年)の数字は、次の通りだ。
 平成9年12月の時点で、約8488億円という巨額のが投入されている。その資金の分担割合は、線路及び路盤、架線等の周辺設備(これを1種工事という)では、JRが50%、国が40%、群馬県・長野県・東京都が10%となっている。そして、駅及び駅付近のインフラストラクチャー(これを2種工事という)では、JRが50%、国が25%、群馬県・長野県・東京都が22.5%、そして、停車駅のある4市町合計(軽井沢町・佐久市・上田市・長野市)が2.5%となっている。その他の全体的なものは、国が2/3、県が1/3、JRが利益の範囲内での貸付料という形を採っている。
( → 北陸新幹線の建設費用

 1997年には、総額 8500億円程度で、JRの負担比率は 50%の予定だった。ところが 「 H24.4現在」と記してある福井県の数字だと、2012年の時点で総額1兆1600億円となり、JRの負担比率は3割。つまり、総額が大幅に増加すると、JRの負担比率は大幅に低下する。ということは、JRの負担額はほぼ変わらないまま、国と自治体の負担額ばかりが急上昇した、と見なせる。
 これを敷衍(ふえん)すれば、総額が総額1兆1600億円から1兆7800億円に上昇したのにともなって、JRの負担比率は大幅に低下して、3割をかなり下回る数値になったと推定される。おおざっぱに言って、
    国:自治体:JR = 7:1:2
 ぐらいだろうか。

 これを電車の料金に換算すれば、(運転費込みで)実際には7万円程度のコストがかかっているところを、国や自治体の負担(5.5万円程度)のおかげで、1.4万円ちょっとで済んでいることになる。
 実際のコストが7万円というのは、東海道新幹線に比べて条件が圧倒的に悪いことを考慮すれば、妥当な数字だろう。



 [ 余談 ]
 ちなみに、航空券を調べると、東京と小松空港の間で、3万円前後。小松空港から金沢までのバス料金がかかることを考えると、安くても3万円となる。
 だったら新幹線も(1.4万円でなく)3万円にするのが妥当だったろう。
 それにしても、新幹線ばかりを優遇して、1兆円以上の巨額の国税を投入するのは、あまりにも馬鹿げている。(乗客1人あたり 5.5万円)
 新幹線にこれほどの巨額を投入するのだったら、航空機の料金をタダにする方が、よほど低コストで済んだかもね。ま、現実にはただにするのは難しいとしても、3万円に2万円の補助をして、1万円の航空料金にして上げた方が良かった。その方が圧倒的に低コストで済んだ。(国民負担が大幅に少なくて済んだ。) また、乗客にしても、1万円の航空料金なら、大喜びだっただろう。
 それにしても、北陸新幹線というのは、つくづく壮大な浪費だとわかる。確かに、得られた便益は多大だが、そのためには、得られた便益の何倍にもなる超巨額の税金を投入しているのだ。そして、その金を払うのは、国民なのだ。あなたなのだ。

( ※ といっても、東北の防潮堤という狂気の沙汰に比べれば、マイナス点がないだけ、まだマシだが。)
  
posted by 管理人 at 20:16 | Comment(2) | 一般(雑学)3 このエントリーをはてなブックマークに追加
この記事へのコメント
 最後のあたりに [ 補足 ] と [ 余談 ] を加筆しました。
 タイムスタンプは 下記 ↓
Posted by 管理人 at 2015年03月15日 21:32
鉄道の約款で基本的に距離別運賃だからコスト反映は無理でしょう。

実現したら北陸だけでなく、普通のローカル線とか全部廃止になっちゃいます
Posted by 通りすがり at 2015年03月16日 00:59
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