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Q.ニュース記事の「見出し」の転載は著作権侵害になるか?(2005/05/17 石井 健 弁護士)
第3問: ウェブサイト上で公開されているニュース記事を転載した場合に著作権侵害となりますか?また、ニュース記事の「見出し」だけを転載した場合はどういう扱いになりますか? A.: 「見出し」だけの転載ならば著作権侵害には該当しない 本コラムの第1回で、ブログの引用の可否について述べましたが、報道記事などを公開しているウェブサイト(Yahoo! JAPAN、 MSN、 Nikkei NETなど)から、記事をコピーすることや、その「見出し」のみを転載することなどが著作権侵害にならないかという点についても争いがあります。 インターネット上で公表されている報道記事については、著作権が放棄されているという誤解をされている方もいるかもしれませんが、報道記事のホームページには、ほとんどといっていいくらい無断転載を禁ずる旨の注意書きが付されています。また、報道記事の無断転載や無断翻案については、過去の多くの判例で争われています。 例えば、あなたが、株式投資に関する情報サイトを作成し、株価動向や経済ニュースを公開しているサイトから、無断で、(1)記事をコピーして掲載する、(2)「○○製薬続伸、新薬○○の開発成功の影響」といった記事の見出しをコピーし、自己のホームページ上に掲載してリンクを貼る、という行為を行った場合、法的な問題は生じるでしょうか? これについては、あなたの無断転載行為が、新聞社や記事のライターの著作権、著作者人格権を侵害しないかどうかが問題になります。 ニュース記事の著作権も保護されるまず、そもそも報道記事自体は著作権法上保護の対象になるのか、報道記事が、著作権法保護される「著作物」に該当するかという点が問題になります。 客観的事実の伝達にすぎない報道は、著作権法上「著作物」に該当しないとされています(著作権法10条2項)。もっとも、この「事実の伝達にすぎない雑報及び時事の報道」とは、「・・・氏が昨日午後10時に死去」や「JR山手線が・・・駅で脱線」といった思想感情の表現とは無縁の事実報道を指します。 事実を基礎とした場合であっても、素材の取捨選択、記事の配列や組み立て、表現技法、記事の量などにより、筆者の事実に対する評価、意見などを創作的に表現しているものは「著作物」に該当します。 そこで、ニュース記事であっても、上記の条件を満たす場合には、著作権侵害の問題を生じえます。 注記のあるニュース記事は転載できない新聞記事などの「新聞紙又は雑誌に掲載して発行された政治上、経済上又は社会上の時事問題に関する論説(学術的な性質を有するものは除く)は、他の新聞紙若しくは雑誌に転載し、又は放送し、若しくは有線放送することができる。」と定められています(著作権法39条1項)。もっとも、「ただし、これらの利用を禁止する旨の表示がある場合には、この限りでない。」との規定であり、「掲載の記事の転載を禁じます」などの記載があるニュースについては、転載することは認められません。 つまり、転載禁止の記載があるニュースサイトから、自己のホームページ上にニュース記事を転載すること(上記の例でいえば、見出しの対象である記事自体をコピーすること)は、著作権侵害となりえます。 短いニュースの見出しに著作物性は認められないそれでは、ニュースの「見出し」のみを転載した場合は著作権を侵害するのでしょうか。「見出し」のみで「著作物」性が認められるかが問題になります。 この点について、読売新聞のニュースサイト(YOL)の記事の見出しを、読売新聞が記事の掲載を許諾したYahoo JAPANホームページの記事に直接リンクを貼った上で配信した会社に対して、読売新聞が著作権侵害に基づく使用差止と損害賠償を求めた事案について、東京地裁の判決が出ました(東京地方裁判所平成16年3月24日・判例時報1857号108頁)。 判例は、著作物の定義について、「事実を基礎とした場合であっても、筆者の事実に対する評価、意見等を、創作的に表現しているものであれば足りる。そして、『創作的に表現したもの』というためには、筆者の何らかの個性が発揮されていれば足りるのであって、厳密な意味で独創性が発揮されたものであることまでは必要ない」と、新聞記事が著作物に該当しうることを前提にしつつ、「他方、言語から構成される作品について、ごく短いものであったり、表現形式に制約があるため、他の表現が想定できない場合や、表現が平凡かつありふれたものである場合には、筆者の個性が現れていないものとして、創作的な表現であると解することはできない」との判断基準を示しました。 そして、上記判断基準に照らし、「いじめ苦?都内のマンションで中三男子が飛び降り自殺」、「蓮池・奥土さん、赤倉温泉でアツアツの足湯体験」等の個々の見出しについて検討し、著作物性を否定した上で、YOLの見出しについては、文字数が25字以内と短く、報道を簡潔に伝えるという性質上、表現の幅が狭いことから、一般に著作物性は認められないとの判断を示しました。 上記判断は、事実を伝える報道記事については、字数に制限がある場合、どれも似たような表現にならざるを得ないという特質に鑑みた判断だといえます。例えば、新聞記事において、A社が「あわや大惨事、遊園地のゴンドラ転落するが死傷者なし」との見出しを朝刊で出し、B社が夕刊で「遊園地のゴンドラ落下するも死傷者なし、大惨事に至らず」との見出しを出した場合に、B社が著作権侵害になるというのは不合理であり、判例の結論は妥当なものだと評価できます。 記事の抄録の転載も著作権侵害に当たるこのような「見出し」以外についても、引用・転載は、ネットビジネスを行う上で十分な注意を要します。 まず、記事をあなたが自分で抄訳して掲載したような場合にも、著作権侵害に当たるので、注意が必要です。新聞社に無断で新聞記事の抄訳を作成、頒布した事件について、新聞記事については、事実、データ、用語等の選択、配列に創作性があれば編集著作物として保護され、抄訳が事実の選択、配列等の点で原文と同一性があれば、新聞社の編集著作権の翻案権を侵害するものだとして、記事の作成・頒布の差し止めの仮処分を認めました(ウォールストリート・ジャーナル事件、東京地方裁判所平成5年8月30日)。 また、検索エンジンや情報サイトにおける検索結果の表示等による引用も著作権侵害の問題を生じさせます。 新たな検索エンジン等の情報サイトを開設し、リサーチ結果であるサイト名を、自己のホームページ上で表示すること自体には著作権法上の問題はありません(「サイト名」自体に著作物性が認められるケースはほとんどあり得ないからです)。 しかし、サイト名に加え、サイト内の情報等をどこまで表示することができるかについては、問題があります。 アメリカの判例には、視覚サーチエンジンが、無断でホームページの画像をインデックス化し、検索画面に表示した事例において、リサーチ目的のサムネイル表示は、公正目的の範囲内であるとし、いわゆるフェア・ユース(公正利用については著作権の効力が及ばないとする理論)により著作権侵害に該当しないとした事例があります。 しかし、我が国においてはフェア・ユースを否定する判例が多くみられ(東京地裁平成7年12月28日・判例時報1567号126頁)、同様の結論が国内でもたらされるかについては疑問があります。情報記事をどこまで詳細に表示することができるかについては、著作物性の有無や、転載承諾の有無、引用に該当するか等を慎重に検討する必要があるでしょう。 著作権あるいは著作者人格権の侵害に対しては、侵害行為の差止請求、損害賠償の請求、不当利得の返還請求だけでなく、刑事処罰もあり得るので、注意が必要です。 情報サイトや検索エンジンはますます高度になり、利用者にとっての利便性を追及するため、ネット上のソースから一覧性のある情報をいかに選別して取得・表示できるかという点がポイントになっています。この点は、著作権とは切り離せない問題であるため、新規ビジネスの立ち上げに際しては、この点について十分な調査を行うことをお勧めします。 石井 健 弁護士
1992年 智弁学園和歌山高等学校卒業 1999年 東京大学法学部卒業 2001年 司法試験合格 2003年 司法修習修了・東京弁護士会登録 2003年 新東京法律事務所にアソシエイトとして参加 新東京法律事務所所属。
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