メルケル首相の“慰安婦”発言、独報道官が否定 日中韓の歴史問題に巻き込まれるのを懸念
【ベルリン=宮下日出男】メルケル首相の訪日時の歴史問題に関する発言を受け、ドイツ政府は中韓を含む日本の内外の議論に利用されないよう、神経をとがらせている。
発言について、日本に歴史問題への対応を促したと受け取る向きもあるが、独側は自国の経験を紹介したという認識で、歴史問題への対処の仕方は各国で異なるとの立場を貫いている。
メルケル氏が岡田克也・民主党代表との会談で、慰安婦問題の解決を促したとされることについて、ザイベルト独政府報道官は13日の記者会見で、「独政府は否定した。私自身が(否定)した」と言明した。
メルケル氏は9、10両日の訪日中、岡田氏との会談のほか、講演や安倍晋三首相との記者会見で「過去の総括が和解の前提の一部だった」とドイツの取り組みを紹介し、フランスなどの「寛容さ」も重要な要因だったと説明。中韓、欧州のメディアは、メルケル氏が安倍首相に「反省」などを促したと報じた。
ただ、メルケル氏は会見で記者の質問に対し、「助言のために日本に来たのではない。ドイツがしたことを伝える以外にできない」と断っており、ドイツの事例の紹介を踏み越えて言及はしなかった。
独メディアはメルケル氏の訪日前、朝日新聞の慰安婦報道の一部記事取り消しなどを踏まえ、歴史問題で「隅に追いやられた(安倍政権に対する)反対派」(南ドイツ新聞)がメルケル氏の言動に期待しているなどと報じていた。
シンクタンク、コンラート・アデナウアー財団の元日本代表のマルクス・ティーテン氏は、独仏などの関係改善には冷戦で西欧がまとまる必要に迫られた事情もあったと指摘。南京事件や慰安婦問題も「国家が政策として民族を抹殺する」ホロコースト(ユダヤ人大虐殺)と違い、日独の比較は「意味がない」とする。
日中韓それぞれと関係を維持するドイツは、歴史問題の対立には巻き込まれることを避けてきた。約1年前、中国の習近平国家主席の訪独時には、ホロコースト記念施設への訪問の要望を断ったと伝えられた。
今回の首相訪日に関する独政府のホームページでは、歴史問題の部分で「どの国も独自の方法を見つける必要がある」というメルケル氏の発言を見出しに掲げた。日本が中韓との関係を改善することを望むが、ドイツの場合とやり方は異なるとの認識も示した。