また、世界中に遊休地というのがいっぱいあるわけです。既存の農地を全部使えば、200億人分ぐらいの穀物はつくれるんじゃないですか。なぜつくらないかというと、それだけの需要がないからですよ。
── だから食糧危機はやって来ないと。
浅川 というより、食糧危機がやって来るという根拠が見出せない。少なくとも、世界中の人間が飢餓に苦しむという食糧危機は、まず訪れないでしょう。
農水省の本来の役割は何か
── 本書で、農水省の自給率政策、過保護政策が日本の農業の発展を阻害していることを明らかにしたわけですが、政治家と官僚が変わらなければ農業政策はこのままなのではありませんか。
浅川 すでに変わってきている部分はあります。今回の参院選のマニフェストで、自民党は「自給率」に関する記述をなくしました。それは、この本の影響と言っていいと思います。実際に自民党から相談も受けましたから。
舛添要一さんの新党改革も、自給率には触れていません。舛添さんもこの本のロジックを使って農政を主張していますね。一方、まだ自給率向上を掲げているのは民主党、社民党、共産党、公明党です。みんなの党も微妙に残っている。
農水省も変わりつつあります。生産額ベースの食料自給率の国別比較とか、主要品目の在庫量をちゃんと出す方向に変わっています。万が一食料がなくなった時に、何を食べられるかといえば、在庫しかありません。
農水省は「この本に影響を受けた」とは言っていません。でも、確実にある影響は与えていると思います。
基本的に、農水省は自ら解体して見直すべき存在だと認めているんです。事故米の時に、「合法と違法の区別もつきませんでした。消費者のことを何も考えていませんでした」と言って反省していますしね。
これは農水省に限らない話ですが、そもそも省の役割は何なのかという見直しが必要です。農水省は「農家保護」と「消費者保護」を行き来するんですが、本当はどちらでもない。本来の役割は、農家を守ることでも、消費者を守ることでもありません。今回の口蹄疫でも明らかになりましたが、農産物、家畜が被害を受けないように、国家的な規制と制度をつくるのが農水省の仕事のはずなんです。
さらに言うと、日本の農業の問題は要するに「米」なんです。自給率を高めると言いながら減反しているんですから、完全に論理矛盾している。だから「米の呪縛」から解き放たれないと、日本の農政は先に進みません。
農水省の中で減反政策にしがみついている人たちがいるわけです。だから、彼らを検疫とか輸出促進とかもっと別の役に立つ仕事にシフトさせてあげることも必要でしょう。そうしたことも含めて、次は農水省解体論を書いてみようと思っているところです。
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