「食料自給率40%」は大嘘!どうする農水省

2010.07.30(Fri) 鶴岡 弘之
筆者プロフィール&コラム概要

 輸入農産物の中で、日本で生産できるものはたくさんあるんです。今は、海外にオーダーした方が良質のものが確実に納品されるから輸入しているんですよね。

 一つひとつの農産物について丁寧に対応策を考えていけば、輸入品に対抗できる。さらには、厳しすぎる国内の品質基準を国外市場の基準に合わせるなどすれば、輸出だってどんどんしていけるでしょう。すでにシンガポールの市場では、日本、中国、オーストラリアの野菜が三つどもえの戦いをしているんですよ。

世界的な食糧危機はやって来ない

── 政治家やマスコミを中心に、「世界的な食糧危機が起きた時に日本は食料を輸入できなくなって、国民が飢え死にしてしまう」という論調があります。しかし、食糧危機は杞憂に過ぎないと書かれていますね。

浅川 世界の食料供給量は、人口増加ペースよりも高い水準で増えています。過去40年の人口増加率は189%ですが、穀物の増産率は215%です。26%も上回っているんです。

 その結果、2009年末時点で、世界の穀物在庫は消費量の約20%に当たる4億5000万トンもあります。足りないどころか、むしろ過剰な生産と在庫に苦しんでいるということです。

 18世紀末にマルサスという経済学者が『人口論』という著書の中で、「人口は幾何級数的に増えるのに、食糧は等差級数的にしか増えていかない」と書きました。これが今の食糧危機論、終末論につながっています。でも、マルサスの理論は一度も証明されていないんですよ。

 食糧危機を唱える人に対するごく単純な反論としては、「食料が増えなければ、人口は増えないんじゃないですか?」ということです。なぜ食料より先に人口が増えるんですか、なぜそんなに急に危機がくるんですかと。これを言うと誰も反論できない。

 そもそも食糧危機の原因は農業問題じゃない。今まで農業問題だったことはほとんどありません。ほとんどが購買力の低下とか物流の遮断が原因なんですよ。例えば、戦争が起きるとか、無政府状態に陥るとか。農業の話ではない。

── 中国やインドの人口増加が食糧危機を引き起こすとも言われていますが

浅川 需要が増えれば、生産者は増産するんです。現在の需要に対して50年後に増産するわけじゃない。毎年、需要と価格を見て生産量を調整しているんです。

 小麦だけでも2007年から2009年にかけて世界で8000万トン増産されましたから。2007年に小麦粉の値段が上がったというシグナルだけで、農家は「俺も小麦をもっと作付しようかな」と考えた。それで8000万トン増えたんです。それが経済ですよ。

この連載記事のバックナンバー
トップページへ戻る

鶴岡 弘之 Hiroyuki Tsuruoka

日本ビジネスプレス副編集長。東京大学文学部卒業。電機メーカー、コンピューターメーカーを経て日経BP社記者に。コンピューター雑誌、美術・デザイン雑誌、ビジネス系ウェブサイトなどの編集や運営、立ち上げに携わる。日本ビジネスプレスの設立に参画し、2008年4月より現職。著書に『一億人に伝えたい働き方 無駄と非効率のなかに宝物がある』『「小さな神様」をつかまえろ!』がある。


お届けするのは、「JBpress流」読書ガイド。政治経済、ノンフィクション、文学、歴史、趣味、実用情報──。あらゆる分野から、注目の1冊を取り上げて、書評、もしくは著者へのインタビューなどによってエッセンスを紹介する。