── 農家の人たちからはどんな反応がありましたか。
浅川 よくぞ言ってくれたという感じです。「自給率が低い」ことが、ことさら強調されて、ずっと農業は弱い弱いと言われてきましたからね。虐げられてきたというか。
1974年山口県生まれ。月刊「農業経営者」副編集長。95年、エジプト・カイロ大学文学部東洋言語学科セム語専科中退。ソニーガルフ(ドバイ)勤務を経て、2000年に農業技術通信社に入社。若者向け農業誌「Agrizm」発行人、ジャガイモ専門誌「ポテカル」編集長を兼務。
でも、国際的な水準で農業をやっている人たちは、自分たちのレベルが相当高いということは認識している。海外の展示会とか海外の農家を見に行ってみれば、日本の農業が弱いなんていうのは嘘だということがすぐに分かりますよ。
── 農水省からも反応があったんですか。
浅川 この本を出す前に、「文藝春秋」(2009年1月号)に、この本のサマリーに当たる「食料自給率のインチキ」という小論を書いたんです。そうしたら当時の農林水産大臣の石破(茂)さんが怒って、課長クラスの人から文藝春秋の編集部に抗議がありました。
「訂正しろ」「反論の論文を掲載させろ」ということでした。20項目ぐらいの質問状が来たので全部に答えたら、「今回の話はなかったことにしてください」と抗議を引っ込めた。
── わけの分からない抗議ですね。本書を読むと、農水省は本当に自己防衛本能が強い組織なんだということが分かります。
浅川 農水省は本来は農業を振興するための機関なのに、いかに自国の農業が弱いかを理論武装して、自分たちの役割を過大評価させようとしているんです。
その中で、食料自給率のプロモーションというヒット商品が生まれてきた。それは、財務省と予算折衝のやり取りをする際に、捨て台詞として絶大な効果を発揮します。「予算をよこさないと、自給率がもっと低くなる。それでもいいのか」と。すると財務省は「いや、それはちょっと」となるわけです。
ただし、農水省の役人は本気で自給率を上げようとはしません。仕事がめちゃくちゃ増えるだけですから。だからロジックとしては、「生産者と消費者がそれぞれ努力しましょう」となる。農水省が上げるとは一言も言っていないんです。
意味のないシミュレーションはするんですね。日本人が油を摂らなくなったり、消費構造が変わると、自給率がこれだけ上がりますとか。やっていることは小手先の数字合わせなんですけど。
日本の農産物はもっと輸出できるはず
── 日本の食料自給率は生産額ベースだと66%になり、主要先進国の中で3位だとのことですね。浅川さん自身は66%という数字をどう見ていますか。
浅川 自給率にこだわる必要はないと思いますが、もっと高めることはできるんじゃないでしょうか。今、日本は約5兆円の農産物を輸入しています。全部は無理でしょうけど、5兆円の中で奪還できるものは奪還すればいい。