「平地の水田において羽化直後に印を付けたアキアカネを、山間部で確認・捕獲した」ことを東邦大学理学部非常勤講師の前園泰徳さんが明らかにしました。捕獲したのは、前園さんが担当する野外実習を受講した 菅原みわ さん(理学部生命圏環境科学科 3年)。赤トンボは平地で羽化した後、山間部へ移動して夏を過ごすと考えられていますが、実際に移動個体が確認されたのは国内初となります。 |
赤トンボの避暑地への移動 国内初確認
〜東邦大学理学部生命圏環境科学科 野外実習において〜
「平地の水田において羽化直後に印を付けたアキアカネを、山間部で確認・捕獲した」ことを東邦大学理学部非常勤講師の前園泰徳さんが明らかにしました。捕獲したのは、前園さんが担当する野外実習を受講した 菅原みわ さん(理学部生命圏環境科学科 3年)。赤トンボは平地で羽化した後、山間部へ移動して夏を過ごすと考えられていますが、実際に移動個体が確認されたのは国内初となります。 |
赤トンボはトンボ科アカネ属に属するトンボの総称で童謡にもなるほど日本人にとって身近な存在ですが、現在 全国で姿を消している生きものでもあります。これは水田の減少や耕作リズムの変化、農薬、除草剤などが影響していると考えられています。赤トンボは生まれた水辺から移動して生息しますが、その中でもアキアカネは長距離を移動することが知られています。本種は高温に弱く、30℃を越えると生存が難しくなるため、平地の水田や池で羽化した後、気温の低い山間部へ移動して夏を過ごすと考えられてきました。これは夏の間、平地で見られなくなり、山間部では多くなるなどといった状況から推測して考えられており、直接的な証拠は今まで確認されていませんでした。
そこで本学理学部非常勤講師で福井県勝山市環境保全推進コーディネーターを勤める前園泰徳さんら研究グループは、福井県勝山市内4つの小学校の児童と協力して赤トンボの生息調査を行ってきました。6月から7月にかけて、平地の水田でヤゴの抜け殻を数え、捕まえた赤トンボの翅に印をつけて放しました。印を付けた赤トンボの内訳は、アキアカネ、ナツアカネ、ノシメトンボの3種2536匹。そのうちの一匹(アキアカネ)を野外実習の一環で調査に参加した 菅原みわ さん(理学部生命圏環境科学科 3年)が、印を付けた所から10kmほど離れた法恩寺山山頂(標高 1356m)で確認、捕獲しました。このトンボは前園さんが7月4日に平地の水田で捕獲し印をつけたもので、同一個体の移動を確認したのは国内初となります。
夏の高山でアキアカネに印をつけて放すことは各地で行われ、秋に平地で再発見された例は存在します。しかし、羽化直後の個体の平地から山間部への移動を確認する試みはされていませんでした。これは、羽化時の個体は翅が柔らかく、飛び立つまでの時間が限られることなどから、印をつける作業が困難であったことによります。今回の発見によって、アキアカネの “平地−山間部” 双方向の移動が直接的に確認されたことになります。これは、これまでの推測を裏付けるものであり、自然科学において大きな意義をもちます。童謡に歌われるような身近な存在でありながら、未だその生態の全てが解明されていなかったトンボのこのような
調査に児童が関わったのも国内初です。児童らの地道な調査や大学の実習といった教育分野と行政(勝山市)の取り組みが、前園さんを中心として一体となり、大きな発見が生まれました。今後、法恩寺山や赤兎山、越前甲といった山間部から、秋に勝山の平地にどの程度戻ってくるか調査を続けます。また児童らが集めたヤゴの抜け殻とその水田面積から、勝山市全域から今夏に羽化した赤トンボの総数を推計する予定です。
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