ラブホテルのことがすべてわかります

ラブホテルの清掃とルームサービスの現状

◆ラブホテルにおける清掃の考え方

ラブホテルの清掃は家庭における清掃とは考え方が根本的に違う。家庭における清掃というのは家全体の清潔さを追求して行われる。その延長線上には家族の健康面への配慮がある。それに対しラブホテルの清掃の主眼はあくまでも「清潔さの演出」である。清潔そのものではない。誰も利用する客の健康には関心がない。このことはさまざまな局面においてラブホテルの清掃に影響を及ぼすことになる。
例えば、客の目に付く汚れは徹底的に排除するのが原則である。しかしそうでないものはかなりおざなりでも構わない。客の目に付かないテレビや冷蔵庫の裏まで拭く必要はない。
客の目にとまらないものまで清掃して時間を費やすのはもったいない。そんなことならできるだけ早く仕上げて休憩に入りたい。これがメイク係の基本的な考え方である。
そんな有様であるから、皺が少ないと見るとシーツの交換を省略してしまうものすら出てくる。私のところのフロントタイプのラブホテルはツイン(ダブルとシングルの組み合わせ)が全体の8割を占めていたのだが、シングルはあまり使われないこともあり、多少使った痕跡が残っていてもそのままにしてしまうメイク係が後を絶たずに困った経験が何度かある。
客室という密室における作業は、メイク係の自己管理に委ねざるを得ない部分も少なくないのである。
・毎日毎日、掃除していても、見えないところは埃だらけ

◆入替清掃がメインの現場

ラブホテルの清掃は本清掃・入替清掃・特別清掃に分かれる。

本清掃は、その名のごとく本来の清掃業務ということになる。床に掃除機をかけたり、洗面所・トイレ・浴槽を洗剤を使って磨いたりする。
入替清掃は客がチェックアウトした後にすばやく後かたづけをするだけのものである。ベッドメイクをし、備品の補充をしたら、後は目についた汚れだけをさっと拭いて終了する。とにかく迅速に客室に客を入れる状態に戻すことがその役割である。
特別清掃は、年に数回、本清掃では日頃手が回らない部分を集中的に掃除するものである。一種の本清掃の延長上のものであり、特段、本清掃と区別していないラブホテルも多い。

本清掃は、主に宿泊客が出た後や平日の午前中からお昼にかけて行われ、土曜・日曜・祝日のような忙しい日は行われない。夏場のような繁盛期にも行うことは難しい。又、人気店になればばなるほど、いつまでも客室を準備中にしておく訳にもいかず、本清掃はおろそかになる。

ラブホテルで行われる清掃のほとんどは入替清掃が中心である。しかしこの入替清掃は作業時間は約5分〜10分といったことからもわかるように、ほとんど清掃と呼べる類いではない。あくまでも体裁を整えるだけのものである。
すなわち、あなたがチェックインする客室の大部分は、前の客が使用した後を簡単に取り繕っただけのものなのである。

◆短時間で驚くほど汚れる客室

ラブホテルにおける客室の使われ方は密度の濃いものである。誰にも遠慮することのない2人だけの密室で行われる行為は、短時間の割には非常に部屋を汚染する。

客がチェックアウトした後の客室の状態は、まるで台風が去った後の街並みを思い起こさせる。ベッドやその周囲にはティッシュの固まりがあちこちに散乱、白い体液を貯めたままのスキンが無造作に床に投げ捨ててある。

体液はベッド周りばかりか何故かソファにまで発見される。それ故、布製のソファはラブホテルでは使用できない。
血が布団やシーツにべっとりとついていることも珍しくない。「生理中」は現代のカップルにおいては、その行為を何ら妨げるものではないようである。
シーツがおしっこでびしょびしょに濡れていることもあるし、大便が浴室で発見されることもある。
一体、そこで何が行われていたのか、想像力の乏しい私にはとうてい理解することができない状態が散見される。

テーブル周りもお菓子や弁当の食べかすやジュース・お酒の飲みこぼしでバタバタのにちゃにちゃ、床には濡れた足でぺたぺたと歩いた足跡、そしてあちこちに脱ぎ捨てられたスリッパ。そして生臭ささとタバコの臭いが混然一体となって充満している室内の空気。
事を終えたばかりのカップルの行儀はどちらかというと怠惰的である。このような使い方が1日何度も繰り返されるラブホテルは、非常に汚れやすい体質を持っていると言える。
・客がチェックアウトした後の客室。特に宿泊後はひどい

◆汚れが目立ちにくい客室空間

ラブホテルの客室を見て「きれいだな」と感心する方は多いはずである。確かにラブホテルの客室はきれいに見える。専門の清掃担当が毎日毎日、清掃しているのだから、当たり前といえば当たり前である。
しかしラブホテルの客室がきれいにみえるのは、その照明効果に負うところが多い。
ラブホテルの客室は電球と間接照明を多用した陰影のある空間作りが好まれる。照明の明るさもやや暗めで調整される。白色灯はまず使われない。蛍光灯を使う場合でも電球色を使うのが基本だ。
こうして演出された客室はしっとりと落ち着いた雰囲気を醸しだし、客も日常空間から解放されてゆったりとくつろぐことができる。
一方で、ラブホテルのこうした照明演出は汚れを目立たなくするのにも非常に好都合な結果となっている。電球が発光するオレンジ色、陰影で演出された薄暗い空間のもとでは、汚れは周囲の景色に同化し、その存在をアピールすることをやめてしまう。
私は客室にある備品を室外に持ち出した際に、その汚さに目を見張った経験が何度もある。照明の違いでここまで汚れが違って見えるものかと正直なところ、驚いたものである。
汚れが目立ちにくいということは、当然、清掃の質の低下を招く。汚れを目で確認することができてこそ、手の行き届いた清掃が可能になる。暗闇の中の手探りでは満足な掃除はできない。
ラブホテルのアンケートでは、「とてもきれいでよかったです」「おいしい食事でした」といった声が寄せられることが多い。
そうした客からの声を聞く度に、「これできれいなんだってさ〜」なんて顔を見合わせてほくそ笑むメイク係の姿が私には目に浮かぶようである。
・間接照明と電球による照明が中心のラブホテルの客室

◆「消毒済み」ラベルの嘘

ホテルに行けば必ずと言っていいほど目に止まるのは、「消毒済み」と書いたラベルである。最近では、作業の迅速化・経費低減の事情から以前ほど見かけなくはなったが、それでも今でもコップからトイレに至るまで、清潔感の象徴とも言える「消毒済み」ラベルを使用しているラブホテルはまだまだ多い。そして客も又この「消毒済み」という文字を見て、「清潔だな」と安心するのである。

では、ラブホテル側はどのように消毒しているのだろうか? 
消毒というのは病原微生物を殺傷、又はその発育能力を絶つことにより感染の危険を取り除くことを言う。その方法としては殺菌作用のある薬品の使用、若しくは加熱や紫外線照射などが挙げられる。しかしラブホテルにてそういう作業が行われているかといえば、まずは行われていない。

『ここがおかしい菌の常識―え!ホントはそうなの清潔・不潔』(著者 青木皐氏)には興味深い調査結果が報告されている。著者が全国のさまざまなホテルの計80室について調査を行ったところ、浴室のコップは全体の78.8%から一般生菌、48.7%からブドウ球菌、3.8%から大腸菌群を検出したという。便座の表側からは、何と一般生菌100%、ブドウ球菌70%、大腸菌群約10%検出したとのこと。こうした結果を受けて、青木氏はこれでは「消毒済み」ラベルは詐欺ではないかと憤懣を表明している。
またアメリカのトラベルジャーナリストであるピーター・グリーンバーグも、その著書「世界のホテルで王様気分を味わう方法―MISSION!」の中で、「清掃済みを信じるべからず」として、客室が清掃された後にも関わらずホテルのベッドカバーやカーペットには尿や精液、恥毛、唾液、そして血液が多量に残っているという化学分析による事実を指摘している。

一般のホテルですらこの有様であるから、ラブホテルのように更に使用頻度が激しいところでは、その実態はこれを上回るであろう。
先に、ラブホテルの清掃の考え方は”清潔さ”そのものではなく、あくまでも”清潔さの演出”であることを紹介した。このことはこの「消毒済み」ラベルにも端的に表れている。
・形だけの消毒済みラベル

◆汚染を広げるぞうきんの使い回し

再び、上述の本からの引用であるが、コップと便座以外に大腸菌の検出率が高かったワースト5は、@浴室のカーテンA書き物机B応接テーブルC浴室の床D便座の裏、であったとのことである。
机やテーブルが便座の裏よりも汚いというのは驚くべき結果であるが、その原因は客が使用したバスタオルでそれらを拭いた結果ではないかと著者は分析している。

ラブホテルの現場を知っている私からみると、その予測は的を得たものといえる。客足の回転が速いラブホテルでは、タオルやぞうきんの使用量は半端ではない。客が使うタオルやバスタオルに加えて、客室内の拭きあげに使うぞうきん等々、何も考えずに使っていたら、いくらあっても足りない。ラブホテルによって、客室に準備されているタオル・バスタオルの枚数は異なるが、少なくても計4枚、多いところではその倍の8枚である。
ということは、例えば、1日に100組の客が訪れた場合、400枚から800枚の使用済みタオル・バスタオルが発生することになる。これだけでも大変な量である。これらに加えて、客室の清掃にまで仮に4枚のタオルを別途、準備するとなると、合計で800枚から1200枚ものタオルのクリーニングが必要ということになってしまう。クリーニングコストの増加を招くばかりか、洗濯が追いつかないという事態をも招きかねない。このようなことを避けるためにラブホテルではタオルやぞうきんの効率的な使い方を常に心がけなければならない。
その一つがタオルとぞうきんの区別をしないことである。つまり客が使用した後のタオルやバスタオルが、客がチェックアウトした後の客室の掃除に使うぞうきんに早変わりという訳である。これによりぞうきんの使用量は半分に減らすことができる。青木氏が指摘しているのは、このことだ。

そして更にもう一つラブホテルのメイク係が心がけていることがある。それは一つのぞうきんで拭けるだけ拭くということだ。床であろうが、テーブルであろうが、いちいち区別はしない。濡れてびしょびしょになっても、絞って絞って更に使い続ける。このようなぞうきんのたらい回しは、どこのラブホテルでも当たり前のように行われている。
ぞうきんで拭きあげられた客室は、確かに一見きれいになったように見えるだろう。しかしラブホテルの客室を菌レベルで見た場合には、様相はまるで異なるに違いない。拭けば拭くほど、客室全体に確実に菌がばらまかれ不潔になってしまうという矛盾がそこにはある。

◆ルームサービスは誰が作る?

最近では、充実したルームサービスを売りにするラブホテルも少なくない。ちょっとした居酒屋並の品揃えを誇るところもある。
ラブホテルに行って一仕事済ませた後は、喉が渇くとともに、お腹も空くものである。そんな時に目の前にルームサービスのメニュー表が見えるとついつい何か食べたくなるものである。
「あら、おいしそうね」
客室に置いてあるメニュー表を手に取り、今まさに電話の受話器を取り上げようとしているあなた、ちょっと待って欲しい。
正直なところ、ラブホテルでルームサービスが出る数それほど多くない。売上もたいしたことなく、できればやりたくないが、それでも希に注文があるのでやらない訳にもいくまいと細々とやっているというのが現状である。そんな感じであるから、ラブホテルにはルームサービス専門の要員はいない。それでは、一体、誰がルームサービスを作るのか?

ラブホテルでルームサービスを作るのは、メイク係である。
(モーテルタイプではフロント係が作ることもあるが、モーテルタイプのフロント係はメイク係をも兼ねることが多いので同じことである。)
フロントよりルームサービスの注文の連絡を受けると、メイク係はぞうきんを包丁に持ち替えて料理を作り始める。もちろん服装はそのままの作業着である。最も清潔さが要求される料理を、清掃という最も不潔な作業をしていた人たちが作るのである。これは例えば、、あなたが飲食店に行って料理を注文したら、飲食店が入っているビルの掃除人が飛んでやってきて料理を作り始めるのと同じようなことである。
決して気分のよいものではあるまい。いや、これは実は気分だけの問題として片づけられない要素を含んでいる。
メイク係の手はルームサービスを作る前までは体液にまみれた汚物を捨て、トイレを触っていた手である。それも幾つも幾つもである。そうした作業に従事していたメイク係の手は隅々まで汚染されている。菌が手の表面ばかりではなく毛穴や汗腺の奥深くまで菌が入り込み、ちょっとした手荒いでは落とせない。

ただ、ラブホテルで出す料理のほとんどは冷凍食品かレトルトである。電子レンジでチンか、お湯で温めるだけのものである。

そういう料理を食べる分には害はないかもしれない。但し、ルームサービスを盛りつけた皿には手から菌が乗り移っている可能性はある。又、生サラダやおにぎりはさすがに気持ちが悪い。もちろん、ラブホテルに比べて一般の飲食店で出す食事が清潔かどうかというと、決してそんなこともないだろうから、判断は読者の方にお任せしよう。
・ルームサービスのほとんどは電子レンジでチン

◆意外と知られていない櫛の再利用

ある時、私のところにアルバイトにきた女性に、前からいるスタッフがフロント係の「櫛は何度も使うのよ」というと、「えっ!? うっそお〜!!」とびっくりしている場面に出くわしたことがある。
それを聞いて、そんなことも知らなかったのかと私もビックリした訳であるが、ラブホテルの客室においてある櫛は新品ではないことが通常である。櫛が痛んだり、汚れが目立つようにならない限り、何度でも使い続ける。

もちろん、客が一度使った櫛は一度リネンに下げて、洗浄する。洗浄の仕方はラブホテルによって異なるかもしれないが、私のところではしばらくボディーソープを薄く混ぜた水の中に付けておく。そして適当な間合いを見計らって、取り出しててさっと水洗いをし、タオルの上に並べて乾かす。それから櫛袋に詰め替えて客室に再び出す訳である。
ボディソープにつけておくだけであるから、殺菌作用もしていないし、丁寧に一本一本手荒いする訳でもない。
そのため、ごく希に「櫛に髪の毛がついている」と客からのお叱りを受けることになる。

男の私にはあまり気にならないことであるが、そういうことに敏感な女性の方のために、敢えてここで説明した次第である。
・ボディソープを薄めた液につけた櫛
【参考文献】
『ここがおかしい菌の常識―え!ホントはそうなの清潔・不潔』
世界のホテルで王様気分を味わう方法―MISSION!
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