国民の理解と支持がなければ、安全保障政策は成り立たない。その意味で、政府・与党による安保法制の作業の進め方には、不安を禁じ得ない。
安倍政権は昨年7月の閣議決定で、集団的自衛権の行使に道を開いた。与党内で進められているのは、実際に行使できるようにするための法律を整える作業だ。
自民、公明両党は定期的に会合を開き、政府が示した案を踏まえて議論している。5月までに法案を決定し、国会に提出することをめざしている。
だが、肝心の世論の支持は、いっこうに広がっていない。日本経済新聞社とテレビ東京による2月下旬の世論調査では、行使を可能にするための関連法案について、成立に賛成する回答は31%にとどまり、反対が50%を占めた。
集団的自衛権とは、同盟国や友好国などが攻撃された場合、それを自国への武力行使とみなし、反撃する権利のことだ。日本が他国と助け合って自国を守っていくためには、行使できるようにしておく必要がある。
世論に反対論が根強いのは、何が何でも認めない人がいる一方で、自衛隊が「何を、どこまで」やるのか不明瞭なため、不安を抱いている人たちが多いからだろう。
こうしたなか、国民の理解を得ようという姿勢が、政府や与党には足りない。法律の議論は、ただでさえ分かりづらい。今からでもきちんと情報を開示し、協議の途中経過をていねいに説明すべきである。
特に国民が知りたいのは、行使の基準と歯止めだ。「わが国の存立が脅かされ、国民の生命、自由、幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」。昨年の閣議決定では、行使の要件をこう定めている。
だが、この表現では、いかにも抽象的だ。よく引き合いにだされるのが、原油の輸入ルートである中東・ホルムズ海峡が封鎖された場合、行使が認められるのかどうかだ。自民党と公明党の見解も、一枚岩とはいえない。どこまで細かく規定するかは別として、法案にはより明確な基準を盛り込む必要がある。
行使の歯止めとしては、国会の事前承認を原則として義務付けるという。ほかには、どんな歯止めが考えられるのか。拙速を避け、浮かび上がった論点をじっくり詰めてほしい。