社説:「大阪都」住民投票 判断材料を十分に示せ
毎日新聞 2015年03月14日 02時30分
大阪市を五つの特別区に分割する「大阪都構想」の制度設計案(協定書)が大阪市議会で可決された。府議会の承認を経て、5月17日に予定される大阪市民の住民投票で都構想導入の可否が決まる。
大都市の再編は市民生活にさまざまな影響を与える。市民にとって極めて重い判断だ。構想の長所と短所を十分理解したうえで票を投じる必要がある。都構想の実現を最大の公約に掲げる橋下徹市長と、構想に反対する議会野党は市民に十分な判断材料を示さなければならない。
だが、議会で議論が尽くされたとは言い難い。承認された協定書は昨年10月、野党の自民、公明、民主、共産4党の反対で否決されたのとほぼ同じ内容だ。昨年末の衆院選後、公明党が「協定書に反対するが、住民投票は認める」と突然態度を変えたため再提出された。わかりにくい経緯をたどっての住民投票に市民の戸惑いは大きいだろう。
都構想は大阪府・市の二重行政解消を狙いとする。広域行政を府に集約して成長戦略を進め、特別区は医療・教育など身近なサービスを担うというものだ。
橋下氏は、17年間に4000億円近い再編効果があり、特別区はきめ細かな行政ができると主張する。一方の野党は、新庁舎建設やシステム整備などで経費がかさむだけで再編効果はほとんどなく、大阪市を残しても府と協議すれば無駄な重複は起きないと訴える。
議会は橋下氏と野党が持論を言い合う場となり、建設的な議論に発展しなかった。賛成、反対の双方が都合のいい数字を出し合うだけでは、いずれに理があるのかを見極めるのは容易ではない。
大阪は東京に比べて財政力が弱く、府や特別区の間で財源をどう配分するのかという難題が残る。「大阪都」になれば実現できるという成長戦略の具体像も一向に見えない。
都構想の本来の目的は、経済の停滞、急速な高齢化などに直面する大阪の再生のはずだ。政令市の大阪市が解体されれば権限や税財源は縮小し、生活に大きな影響をもたらす可能性がある。
それを上回る構想のメリットは何か。橋下氏は日々の暮らしや地域の姿がどう変わるのかをわかりやすく市民に説明し、野党は対案となる大阪の活性化策を示して、論点を明確にすべきだ。それぞれの主張に公正さと説得力が求められる。
今回の住民投票は投票率の高い低いにかかわらず、一票でも多い方に決まる。しかし、投票率が低くては真の意味で市民が決めたことにはならない。関心を高める環境整備を急がねばならない。