東京新聞のニュースサイトです。ナビゲーションリンクをとばして、ページの本文へ移動します。

トップ > 社説・コラム > 社説一覧 > 記事

ここから本文

【社説】

財政健全化計画 ご都合主義は通用せず

 政府が夏にまとめる財政健全化計画で、原則を逸脱して目標を複数にする案が浮上している。超低金利に甘え、厳しい歳出削減から逃れようというものだ。危機感がなさすぎるのではないか。

 政府は二〇二〇年度に基礎的財政収支(プライマリーバランス=PB)を黒字化する目標を掲げてきた。だが、内閣府の試算では「消費税率を一七年度に10%に引き上げ、さらに今後の経済成長率を3%以上(名目)と高く見積もっても二〇年度に九・四兆円の赤字が残る」と見通している。このため厳しい歳出削減や一段の増税など「痛み」を伴う中身は避けられないはずである。

 それなのに自民党の国土強靱(きょうじん)化を主張する勢力から新たな目標として「国内総生産(GDP)に対する債務(借金)残高」とする案が出てきた。これは明らかにまやかしである。超低金利を前提とすれば借金残高は大きく増えない見込みで、何ら改革の努力をしなくても達成できるとみられている。

 要するに国土強靱化の財源となる公共事業費を削減させないための案といっていい。こんな方便がまかり通れば、誰も真面目に歳出削減に取り組もうとはせず、財政危機は高まるばかりだろう。

 そもそも先進国中最悪の一千兆円を超える債務残高の大半を積み上げたのは誰なのか。利益誘導ともいわれた公共事業のバラマキなど放漫財政を続け、財政再建を先送りしてきた自民党政権ではなかったか。安倍政権もひたすら財政を膨張させるばかりで、歳出削減の努力はほとんど見えない。

 緩みきった財政規律の原因は異次元緩和による人為的な超低金利だ。しかし、何かのはずみで金利が急騰すれば財政は破綻しかねない。米格付け機関は昨年十二月、日本政府の財政再建にかける姿勢が疑わしいとして日本国債の格付けを引き下げ、それ以降、長期金利は不穏な動きをみせている。

 経済財政諮問会議の席上で、この危うさについて日銀の黒田東彦総裁は首相に訴えたとされるが、議事録に残らず、事実上無視された形だ。異常な状況が常態化し、危機感がまるで感じられないのである。

 水膨れした歳出を絞り込むことが先決だ。公共事業や増え続ける防衛費は当然のこと、最大の増加要因である社会保障費も、負担能力のある人への給付削減など見直しが欠かせない。増税が必要となれば、格差是正につながる資産課税の強化から始めるべきである。

 

この記事を印刷する

PR情報





おすすめサイト

ads by adingo