沖縄県名護市の辺野古沿岸部に米軍基地を新設するための海底掘削調査が再開された。沖縄県民は県外・国外移設を求める意思表示をし続けている。安倍政権はなぜ民意と謙虚に向き合わないのか。
一カ月ほど前、安倍晋三首相は施政方針演説で「(米軍)普天間飛行場の返還を実現するために、引き続き沖縄の方々の理解を得る努力を続けながら、名護市辺野古沖への移設を進める」と述べた。
しかし、この間、政府は沖縄県側の理解を得るために、どんな努力をしたというのか。
県内移設反対を掲げて当選した翁長雄志県知事とは会おうともせず、仲井真弘多前知事による公約違反の「埋め立て承認」を盾に反対する人たちを強権的に排除し、本格着工に向けた作業を進める。
菅義偉官房長官は「法治国家だから、粛々と進めるのは当然」と作業を正当化し、中谷元・防衛相は「工事を阻止するとしか言っていない」と翁長氏を批判する。
沖縄県民は昨年十一月の県知事選で、翁長氏を当選させた。前回の当選時に掲げた県外移設という公約を破った仲井真氏の三選を認めず、県内移設容認の判断に対する拒否を突き付けた。
続く十二月の衆院選でも、自民党が全国的に勝利する中、沖縄県内では四小選挙区のすべてで、県内移設を掲げる同党候補の当選を認めなかった。
選挙で重ねて明らかになった民意を顧みずして、法治国家だと胸を張って言えるのだろうか。
翁長氏の下、有識者六人による第三者委員会が設けられ、仲井真氏の埋め立て承認に法的な瑕疵(かし)がなかったか否かを検証しており、七月にも報告書をまとめる。
翁長氏が求めるように、せめて検証が終わるまで作業を中止すべきではないか。作業を急げば急ぐほど、何か後ろめたいことがあるのではないかと疑いたくなる。
在日米軍基地の負担は日本国民が可能な限り等しく分かち合うのが筋だ。沖縄県に約74%が集中する現状は異常であり、普天間返還のためとはいえ、米軍基地を県内で“たらい回し”しては、県民の負担軽減にはなるまい。
民意と向き合わず、作業を強行すれば、辺野古への「移設」が完了しても、反基地感情に囲まれることになる。その是非は別にして基地提供という日米安全保障条約上の義務が果たせなくなるのではないのか。安倍内閣はいったん作業の手を止めて、今こそ沖縄県民と真摯(しんし)に向き合うべきである。
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