社説:群馬大連続死 病院全体の責任を問う

毎日新聞 2015年03月13日 02時30分

 地域で高度な医療を担うべき大学病院で、あまりにもずさんな手術が繰り返されていたことに驚く。

 群馬大病院第2外科で、腹腔(ふくくう)鏡による肝臓切除手術を受けた患者が5年間で計8人死亡していた。同病院は「すべての事例で過失があった」とする報告書をまとめた。

 同病院は、高度医療を提供することで診療報酬が優遇される特定機能病院の承認を国から受けている。執刀した医師はもちろん、連続死を防げなかった病院全体の管理責任が問われる。厚生労働省は特定機能病院の承認取り消しを検討中だ。厳正な対処を求めたい。

 腹腔鏡手術は、患者の腹部に開けた小さな穴からカメラ(腹腔鏡)や器具を入れ、医師がモニター画面を見ながら手術をする。開腹手術に比べ傷口が小さく、患者の体に対する負担は少ないが、肝臓は血管が多くて手術自体が難しいとされる。

 報告書によれば、術後死が相次いだ第2外科には肝臓の担当医が2人しかおらず、40代の男性医師が全例で執刀医を務めていた。腹腔鏡による肝臓手術は2010年に始まり、最初の1年間で4人が術後死した。

 本来なら、死亡例が1例でも、診療科全体で問題点を検証し、再発防止に取り組むべきであった。

 しかし、症例を検討する第2外科の会議で十分な審議はされず、診療科長の教授が適切な指導をすることもなかった。死亡例はいずれも難度が高い手術で、院内の臨床試験審査委員会にかける必要があったが、申請されていなかった。術前の検査や患者への説明も不十分だった。

 これで、正当な医療行為と言えるだろうか。男性医師が執刀した開腹手術でも患者10人が死亡していたことも新たに判明している。

 相次ぐ死亡例について第2外科から管理部門への報告はなく、同病院の医療安全管理部が予備調査を始めたのは昨年6月だった。院内で、死亡例などの報告義務が明確には定められていなかったという。病院の管理体制の甘さは明らかだ。

 報告書は、閉鎖的な診療体制も背景にあったと指摘している。同病院では第1外科と第2外科が共存し、診療分野が重複していた。手術の仕方は統一されておらず、少ない人材が分散されていたという。

 こうした問題は第1外科による生体肝移植で05年、臓器提供者が下半身まひとなる医療事故が起きた際にも指摘されていた。同病院は今回、外科を統合し、診療体制を見直すことにしたが、遅すぎる。教訓が生かされていなかったことは残念だ。

 遺族の弁護団は病院に調査継続を求め、業務上過失致死罪などで刑事告訴も検討している。当然だろう。

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