社説:北陸新幹線開業 活性化の触媒にしたい
毎日新聞 2015年03月13日 02時40分
北陸新幹線があす開業し、北陸と首都圏がぐっと近づく。東京から金沢まで7都県の移動が、乗り換えありの3時間50分から、乗り換えなしの最短2時間半弱へと、大幅に短縮される。
石川、富山両県では、観光やビジネスで首都圏などから訪れる人が増え、地元経済の活性化につながるとの期待が膨らんでいるようだ。一時的なブームに終わらせないよう、各地域や産業が、自らの魅力を再発見し、国内外にアピールする工夫を続けることが重要だろう。
新幹線開業を活性化の契機としてもらいたいのは、運行するJR会社や新幹線の駅を抱える自治体に限らない。むしろ、東京、金沢への一段の集中を心配する他の地域こそ、今の危機感を自らの意識改革のチャンスととらえてほしい。
4年前、九州新幹線が全線開業した。福岡と鹿児島の間に位置し、単なる通過地点となってしまうのを恐れた熊本県は、生き残り策に知恵を絞った。ゆるキャラの「くまモン」が象徴する熊本ブランド作戦だ。行政や一部の企業にとどまらず、小さな工場や農家まで、「熊本」を売りこむ積極姿勢に転じ、県内ばかりか九州全体を盛りあげた。
新幹線開業を契機に競争が生まれ、利用者の恩恵となれば、それ自体は歓迎だ。ただ、隣駅同士や他県との顧客の奪い合いに終わるのではむなしい。情報を共有したり、共同で企画を練ったりと、北陸・信越全体の成長を狙う発想でいきたい。
途中駅の停車が少ない最速タイプの列車には「かがやき」の名称が付いたが、新幹線の開業は決して輝きばかりではない。
整備新幹線が開業すると、それまで地元交通の中心的役割を担ってきた在来線の経営が通常、JR会社から切り離される。サービスを引き継ぐのは、県など地元自治体が民間と作る第三セクター方式の新会社だが、新幹線に顧客が移るため特急が廃止され、厳しい経営を強いられる。
赤字が続けば地元自治体の財政を圧迫する。運賃の引き上げや利便性の低下は、人口流出を加速させることにもなりかねない。
北陸新幹線の金沢開業で、次なる福井、敦賀の開業前倒しや、最終的につながる大阪までのルートの選定を巡る議論が活発化してきた。
だが、高齢化、人口減少、財政難という現実に直面する日本列島である。新幹線にばかり目が行きがちだが、表裏の関係にある並行在来線の問題も含め、今後、公共交通網をどうしていくのか、総合的な議論が急務だ。鉄道以外の乗り物との役割分担や、都市づくり、町づくりまでセットで考える一歩としたい。