東京電力福島第一原発の汚染水の大量垂れ流し事件を、安倍政権が矮小化しようとしている。
事故当初から大量の汚染水が原発の港湾外に垂れ流しだったこと、それを1年以上前から把握していたのに東電は対策を講じなかったこと、原子力規制委員会も報告を受けながら放置していたことなど驚くべき事実が明らかになった。さらに驚いたのは、安倍政権は、当初この問題発覚から1週間以上も謝らず、この期に及んでも「汚染水の影響は、第一原発の港湾内でブロックされている」と強弁していることだ。
しかし、実はこれは驚く話ではない。私は、3・11の福島の事故以後、半年間を経産省内で過ごしたが、そこで確信したのは、この汚染水問題については経産省も東電も二つの暗黙の方針を持っていたということである。
第一の方針は、東電を破綻させないことが至上命題であり、全ての事故処理対策はその命題に反しない範囲でのみ行うということだ。'11年3月にかわされた当時の松永和夫経産省事務次官と奥正之三井住友銀行頭取の密約により、東電に2兆円の無担保の融資を実行する代わりに東電を破綻させないことが決まった。その結果、経産省は東電に可能な限りの税金投入を行う一方で、税金投入の対象になりにくいものに東電は極力おカネをかけないという暗黙の方針ができたのである。
2号機の建屋屋上にたまった高濃度に汚染された水が排水路を通じて港湾外に流れ出していたのだが、その対策は、汚染水を原発の港湾外に流さないように排水路を港湾内に付け替える、建屋屋上を除染する、建屋屋上をカバーで覆うというようなことだ。これらは東電が比較的容易にできるから、国の支援対象にはしにくい。ということは、なるべくならやらないで東電の負担を減らしたいということになる。
第二の暗黙の方針とは、汚染水は薄めて海に流すしかないという考えだ。当初から経産省内では囁かれていた。今の排出基準は大規模放射能漏れではなく、極めて小規模な一時的な放射能漏れを前提としている。
今回のような大規模事故について本来は、フローの濃度だけではなく、総量の規制を導入するべきだが、それは封印されている。どんなに薄めても総量規制の上限を超えれば、海に流せなくなるからだ。現在の規制なら、雨水や地下水で薄めて海に流せば良い。海水で薄めれば、何の問題もないように見えるという発想である。
これらの暗黙の方針をさらに強化したのが、安倍総理が国際オリンピック委員会(IOC)で東京五輪招致のために行った「汚染水の影響は港湾内0・3平方キロメートルの範囲内で完全にブロックされている」という発言だ。
当初、「嘘かどうかなどを議論するよりも、汚染水の処理が国際公約になったのだから、これで本格的な対策につながると前向きにとらえれば良い」という政権に擦り寄るコメンテーターの発言が多かったが、私は、その時にこうツイートした。「嘘は嘘の連鎖を呼びます。今後、最初の嘘がばれないように、ますます情報を隠し、歪曲し続ける可能性の方が高いです」。
まさにそれが起きた。汚染水が港湾外にダダ漏れしていたという事実は、安倍総理のIOCでの発言が大嘘だったことを証明する。「そんなことを認めてはまずい」という雰囲気が現場を支配したのは確実だ。東電は、国民・被災者は二の次、経産省、安倍政権第一で仕事をしている。「自分達のためにではなく、安倍総理のために嘘をつく」ことが免罪符になるのだ。
安倍総理の「大嘘の罪」は重い。
『週刊現代』2015年3月21日号より
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