完全に騙し取られた。表情のやつれ具合や事故による頭の傷口などもリアルだった。演技力が半端なかった。それもそのはず、同じ手口で10年以上に渡って日本人から総額2億円以上を騙し取る百戦錬磨の最強詐欺師だったから。
概要
筆者は2007年に詐欺被害にあった。ものの見事に30分ほどで20,000バーツ(7万円ほど)を騙し取られた。手口が卓越しており、筆者以外の日本人もたくさん被害に遭っている。被害はバンコク内が多いようだが筆者はタイ北部の街で被害に遭った。
このページでは筆者の詐欺被害体験談を述べてから、インターネット上で被害報告しているブログや注意喚起の報道、犯人の逮捕や釈放に関する報道をまとめている。
詐欺被害体験談
時間を聞かれて会話が始まった
晴れた日の午前11時30分にチェンライの街中を一人で歩いていたら、英語で声をかけられた。
- 今何時?
- え?
- 腕時計。今何時?
- 11時半だよ。
- ありがとう。・・・あなた日本人ですか。
時刻を明確に覚えているのは詐欺師に時間を聞かれたからだ。後から思えば、詐欺師は時間を知りたかったのではなく、詐欺のターゲットになり得るかを判定するために声をかけてきたのだ。
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会話内容の要約
端的に記載するが、実際には筆者がいろいろ質問してそれに対して毎回きちんと返答されたというやりとりがあった。後日、様々な部分が虚偽だったと気づいたが、詐欺師が英語で言っていた内容を要約すると次のとおり。
状況説明
- 話しかけてきた女性はシンガポール人の医者。20代。
- チェンマイでトレッキング中に転落し、ケガのために病院で2週間治療した。
- その際にお金・カード・パスポートなどを含むほぼすべての荷物を盗まれた。
- 最近ようやく動けるようになり、チェンマイからチェンライへ知人の日本人を頼ってきた。
- しかし、チェンライに着いた日の早朝にその日本人はホテルをチェックアウトしていた。
- その日本人の行き先がわからずに途方にくれているところで筆者を見つけた。
- その日本人が書いたと思われる日本語によるその人の名前と住所などが書かれたメモを見せられた。
次にとりたい行動
- 警察に行くと不法滞在を疑われて面倒。お金もパスポートもないので。
- タイの南部までバスで移動し、そこからシンガポールに帰る。
- パスポートがないのでマレーシアを通れない。
- 飛行機ではなく船ならパスポートがなくても何とかなる。
- バス代・ホテル代・当面の生活費として20,000バーツを借りたい。
騙しの手口
- タイ人には気をつけろと、本件とは関係のない「妹が日本留学詐欺」の手口を細かく解説してきた。
- シンガポールの母親が筆者のクレジットカード宛に送金する。
- 銀行口座ではないので無理だと言ってももっともらしいことを言われた。
- 着金を確認してからお金を渡すというと、信用できないのは分かるので手元に唯一残っているという手持ちのルイ・ヴィトンのバッグを差し出してきた。本物か不明。
- 翌月に研修で日本に行くからその時にカバンを返してほしい。
- シンガポールの住所や電話番号をメモして渡してきた。
- 詐欺師の写真を撮ってもいいと言われた。
騙された理由
本当に怪我人だった
チェンマイでトレッキングしていて転落した証拠として、帽子を脱いで頭の傷を見せられた。髪の毛がフケまみれでまだ完治していない傷が見えた。本当の傷口にしか見えなかった。
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表情に生気がなかった
頭の傷口という物的証拠に加えて、詐欺師の話し方、困り果てた様子、やつれた表情などで疑いの気持ちが小さくなっていった。
困っている人は助けてあげたいという甘さ
これがもし本当だったら可哀想だと思った。疑うよりも信じてあげるほうに片寄ってしまった。当時の筆者はまだお金にゆとりがあったためか、7万円程度なら戻らなくてもいいと思った。
こちらの提案は却下
お金を貸してあげると決めたが、その前に1,000バーツあげるのでとりあえず着金日まで待てないかと伝えた。詐欺師は、それならその1,000バーツはいらない、他の人に頼むと言ってきた。
詐欺師は筆者の甘さを見抜いていて1,000バーツではなく本命の金額を狙えると察したのだろう。筆者はその術中にはまり、20,000バーツを盗られてしまった。
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お金を渡すとあっという間に姿をくらました
お金を渡す時は、詐欺師は目に涙を浮かべて体全体と態度で感謝を伝えてきた。お金さえ手に入れば筆者にはもう用はないので、一瞬にして筆者の前から立ち去った。逃げ足の早さもさすがだった。
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ストレス性の頭痛発生
その後、そいつに対して信じるに値する者だったのかどうかを考えすぎて2日間も頭痛が続いた。ストレスが原因だとはっきり分かる頭痛はこの時が初めてだった。閃輝暗点も出てきた。
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日本に帰ってから詐欺だと確信した
気付くのが遅すぎた。日本に帰ってからインターネットで調べたら同じ手口の詐欺が書かれたページを見つけ、やっと詐欺だと確信した。
嘘だらけだった
詐欺師は何一つとして本当のことを言っていなかった。清々しいほどの詐欺師っぷりだった。詐欺師が述べた嘘と真実との対比は次のとおり。
嘘 | 真実 | |
---|---|---|
国籍 | シンガポール | タイ |
年齢 | 20代 | 30代 |
性別 | 女 | 男 |
職業 | 医者 | 詐欺師 |
理由 | 帰国のため | 詐欺のため |
状況 | 助けて | 金出せや |
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スリ師と詐欺師を単純には比較できないが、次の動画のスリ師のさらに上と言わざるを得ない。
最強のスリ師がTED動画で手口を披露!心理の裏を突かれ、テクニックでなすがままに翻弄された - はぴらき合理化幻想
被害者経験談および逮捕や釈放などの報道
筆者以外の被害者や詐欺師に関する報道を年別にまとめた。
2004年にはすでに詐欺をしていた模様
いやーバンコクで詐欺にやられました。この手口はまだ外務省や大使館のページとかに載ってない手口です。いや、本当の詐欺師はすごいよ。演技力や知識の豊富さで詐欺とは思えない。よく外務省のページとか地球の歩き方に書いてある手口見てたら、こんなのに騙されないだろうと思うけど、実際にはすごく巧妙です。
2005年、日本領事館は把握済み
上記リンク先と同じブログ。日本領事館からもらったという写真が載っている。
おばさん顔で、お世辞にも美人とは言えない顔だったので、自称「レントゲン医師の卵」というのが本当に思えたのでした。
2007年、筆者が被害にあった年
タイ北部のチェンライにて詐欺被害にあったのは上述のとおり。
2009年、この段階で被害総額3,600万円以上
すでに200人以上の日本人旅行者を騙して1,000万バーツ(3,600万円)以上の現金を詐取
とのこと。
こうして逮捕されても意外とすんなり 犯人は社会復帰してしまうんですね タイの場合は刑務所が過密状態だという理由もあるし 厚生施設なんかに国家予算を使う余裕はありません そんな国の懐具合も理由の一つかもしれません
プーヂャッカーン紙(オンライン)によると、観光警察は7日夕方、カーオサーン通り等で 200人以上の日本人旅行者を騙して1,000万バーツ以上の現金を詐取した容疑でウドンター ニー県出身の34歳のニューハーフの男を逮捕した事を明らかにした。
調べによると、男は観光客が集まりやすいカーオサーン通りやマーブンクローン・セン ター、サイアム、スクムウィット通り等で日本人をターゲットに、自分はシンガポール人 の旅行者で財布やパスポートを無くし、更に大使館とも連絡が取れないため困っているの でお金を貸して欲しいと言って被害者に近づき、更にネットを利用して自分がシンガポール 人である事を証明すると共に日本人の友人が大勢いると言って相手を信用させた上で、実家 と連絡が取れ次第返済すると言って現金を受け取ったり、自分の口座宛に振り込ませたりし ていたとされ、被害者の中には日本に帰国した後に現金を振り込んだ者や、総額260万バーツ を騙し取られた者もいたという。
男は警察の取り調べに対して、6-7年前頃に犯行に手を染めて以来これまでに主に日本人旅 行者をターゲットに200人以上から1,000万バーツ以上を騙し取り、騙し取ったお金は生活費に 充てていたと供述しているという。
報道によると、予てから今回逮捕された男に騙されないように呼びかけるメッセージが写真 付きで日本人同士のコミュニティーサイト等に掲載されていたという
2011年、釈放→詐欺→逮捕→釈放のループ
上記逮捕後に釈放されていたが反省など一切していない。
釈放後に詐欺を繰り返す
突然路上にて、自称シンガポール人女性(他のアジアの国籍を称する可能性もあり)に英語で声を掛けられ、『パスポートを含めお金を全て盗られた。親から海外送金して貰う予定である。貴方が持っているクレジットカード口座に振り込むので、カード番号を教えて欲しい。』と頼まれる。
女性が、聞き出したカード番号をどこかに連絡をし、その後、ATMまで連れて行かれ、入金は既にされていると説明を受け、10万バーツ程の引き出しを頼まれる(実はカードを使ってキャッシングをしているだけ)。
2011-05-11 在タイ日本大使館からのお知らせ(自称シンガポール人女性による詐欺)2011年5月11日|タイランドハイパーリンクス
また逮捕される
【タイ】タイ警察は16日、日本人を狙い詐欺を働いた疑いで、タイ東北部ウドンタニ県出身のニューハーフ、ウタイ容疑者(34)をバンコク都内ディンデン地区のザ・リビングルーム・サービスパートメントで逮捕したと発表した。タイ警察は被害にあった日本人に警察に連絡するよう求めている。
ウタイ容疑者はバンコク都内のトンロー通り、スクムビット通りなどの路上で、シンガポール人の女性と称して日本人に声をかけ、「金やパスポートを盗まれた。親から海外送金してもらうので、あなたのクレジットカード口座に振り込ませてもらいたい」なとど頼み、被害者がこれに応じると、現金自動預払機(ATM)で被害者の口座から現金をキャッシングで引き出していた。被害額は100万バーツ以上に上るとみられている。
2011-06-19 シンガポール人女、実はタイ人ニューハーフ 日本人狙いの詐欺容疑者逮捕 | newsclip (ニュース、社会のニュース)
トンローを舞台に活躍してきた詐欺師が逮捕されました
なんとタイ人でありながらシンガポリアンを名乗り「姓」どころか「性」まで偽っていたつわものです
2ヶ月ほど前からトンロー地区を中心に、多数の日本人がこのオカマにお金を騙し取られ たとの事件が相次いだことから、在タイ日本大使館がタイ地元警察に協力を求め、今回解 決に至った。このオカマは、以前にも書類偽造の罪で、禁固2年の判決が下され、刑務所 に入所していた。
逮捕される前にオカマ詐欺師に遭遇し、1000バーツ騙し取られた人がいた。
とりあえず、この顔覚えておいてください。右ね。左ちゃうよ。
これは更に後日談。
シンガポール人女、実はタイ人ニューハーフ 日本人狙いの詐欺容疑者逮捕
【タイ】タイ警察は16日、日本人を狙い詐欺を働いた疑いで、タイ東北部ウドンタニ県出身のニューハーフ、ウタイ容疑者(34)をバンコク都内ディンデン地区のザ・リビングルーム・サービスパートメントで逮捕したと発表した。タイ警察は被害にあった日本人に警察に連絡するよう求めている。
シンガポール人女、実はタイ人ニューハーフ 日本人狙いの詐欺容疑者逮捕 | newsclip (ニュース、社会のニュース)
何がBITCH PLEASEじゃ!!!!
このオッサンありえへん。俺の信じた気持ち返せ。
でも、捕まったんだね(´m`)クスクス
また釈放され犯行を繰り返す
【タイ】在タイ日本大使館は13日、日本人を狙い詐欺を働いた容疑で逮捕されたタイ人の男が保釈され、6月下旬以降、同様の事件が再発しているとして、注意を呼びかけた。
タイ警察は6月15日に容疑者を逮捕したが、裁判所が保釈を認めた。警察は「裁判所の管轄なので、保釈が認められた経緯や日時は知らない」としている。タイでは保釈中に逃走した容疑者が再逮捕後、すぐに保釈されるなど、裁判所が不可解な判断を下すケースがある。
2011-07-14 自称シンガポール人女性のタイ人男 日本人狙い詐欺で逮捕、すぐ保釈で事件再発 | newsclip (ニュース、社会のニュース)
注意喚起
newsclipさんは熱心にこの詐欺師を報道している。すばらしい。
バンコク都内のスクムビット地区、ラマ4世地区などの路上で、シンガポール人女性と自称するタイ人ニューハーフが日本人に、「盗難被害に遭った。親から海外送金してもらうので、あなたのクレジットカード口座に振り込ませてもらいたい」と頼み、被害者がこれに応じると、現金自動預払機(ATM)で被害者の口座から現金をキャッシングで引き出す。
2011-08-09 詐欺、睡眠薬、カードすり替え、失神強盗 在タイ大使館が注意呼びかけ | newsclip (ニュース、社会のニュース)
2012年
釈放後また犯行再開
2011年12月頃に釈放された模様。その1ヶ月後には注意喚起が出ていた。
手口は概ね次のとおりパターン化しており,特に一人歩きの日本人男性をターゲットにしている傾向があります。なお,直近の被害者の中には総額100万円もの被害に遭った深刻な事例もありますので,十分注意してください。
また逮捕
【タイ】タイ警察は18日、詐欺容疑のタイ人男をバンコク都スクムビット・ソイ93通りのアパートで逮捕した。男は日本人を狙った路上詐欺で昨年6月に逮捕され、半年間服役したが、出所後すぐに犯行を再開したもようだ。
2012-07-18 日本人狙い路上詐欺 タイ人ニューハーフをまた逮捕 | newsclip (ニュース、社会のニュース)
2014年
注意喚起
犯行は主に夕方から夜間にかけ、スクムビット地区、特にトンロー通り周辺で発生。1人で行動している男性が狙われるケースが多い。犯人は身長165センチ前後の長髪で、「リンジョー」や「ウェイリン」という名前を使い、「レントゲン技師」と自称する場合もある。
2014-06-05「台湾人です」「助けて」 バンコクで邦人狙った路上詐欺 大使館が注意呼びかけ | newsclip (ニュース、社会のニュース)
2015年
逮捕→釈放を繰り返す
newsclipさんのこの詐欺師に対する情熱がすごい。
ウタイ容疑者は2011年に日本人を狙った路上詐欺で逮捕され、半年間服役。出所後すぐに犯行を再開し、2012年に再度逮捕されたが、直後に保釈された。同容疑者はそれ以外にも数回、逮捕、保釈されたもよう。警察は何度も保釈された経緯について、担当者の判断次第と釈明。2005年の逮捕状で逮捕に至ったことについては、これまで逮捕した際に、この逮捕状が出ていることに気づかなかったと説明した。
2015-01-28 日本人狙いのタイ人ニューハーフ詐欺師、強盗容疑で逮捕 | newsclip (ニュース、社会のニュース)
少なくとも総額で3,600万円の被害
2009年の段階での被害総額と同じ金額だね。
【バンコク時事】タイ警察は28日、女装して日本人男性から現金を詐取した容疑でタイ人の無職の男を逮捕したと発表した。男は「日本人のみ」を対象に詐欺を重ねたと認めており、過去10年間で被害者は100人以上、被害総額は少なくとも1000万バーツ(約3600万円)に上る可能性があるという。
総額で2億円以上の被害
次の報道では被害総額2億円以上と報じている。上記報道は被害総額を少なく見積もっていたのかな。
警察によりますと、ウタイ容疑者はバンコクの日本人が多く滞在する地域で女装をして日本人の男性に近づき、「財布をなくしたのでお金を貸してほしい。借りたお金は必ず返す」などと話しかけ、ことば巧みに現金などをだまし取っていたということです。
警察は、容疑者の供述から被害にあった日本人は、この10年間で100人以上いて、被害の総額は2億円以上に上るとみています。
財布をなくしたのでお金を貸してほしい。借りたお金は必ず返す
というような手口じゃねーよ。迫真の演技だし、日本で振り込め詐欺に引っかかる人の心境がよくわかったよ。これは実際にこの手口を体験しないことにはその凄さが分からないだろうな。
まとめおよび所感
この記事で述べたり引用したりしたとおり、詐欺師のテクニックは神がかっている。後世、伝説の詐欺師と言われるんじゃないかと思うほどだ。その詐欺師に騙されたのがその内に自慢できる世の中になるかもしれないな。さすがにそれはないか・・。
残念な予感がする。詐欺師が出所したらまた犠牲者が量産されるんだろうな。この詐欺師を何とかしてほしいものだね。
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