車いすのセラピー犬 写真集に
緩和ケア病棟の交流収録
名古屋市内の緩和ケア病棟で末期がんの患者に寄り添い、1月に12歳で亡くなったセラピー犬のフォトエッセー「下半身動かぬセラピー犬 シャネル〜緩和ケア病棟の天使たち〜」(ブックマン社)が出版された。生前のシャネルが、けなげな笑顔で患者や医療者と触れ合う姿は、終末期の癒やしとは何かを問い掛けている。(山本真嗣)
シャネルは、高齢者施設や児童福祉施設などで犬や猫と触れ合う活動をする中部アニマルセラピー協会(名古屋市千種区)のセラピー犬。ゴールデンレトリバーの雌犬で、もとはドッグショー(品評会)のモデルだったが、子宮の病気を患い、6年前に同協会が飼い主から譲り受けた。
2011年から緩和ケア病棟にアニマルセラピーを取り入れた名古屋掖済会(えきさいかい)病院(同市中川区)に月1回訪れ、愛くるしい笑顔で人気者に。ところが翌秋、神経の働きが阻害される病気で後ろ脚が不自由に。協会代表理事の青木健さん(45)に看護師らがシャネルの床ずれの対処法を指導するなど回復を支え、半年後にセラピーに復帰した。
昨年1月、脚を引きずりながら患者らに笑顔を見せるシャネルを知った三重県鈴鹿市の主婦内藤秀子さん(64)が、亡くなった愛犬(ゴールデンレトリバー)の車いすを寄贈。下半身を固定し、自力歩行を助ける器具で、シャネルにぴったりだった。
看護師の江口しのぶさん(42)は昨秋、車いすのシャネルが訪ねた際、初老の男性患者が「この子も頑張っている。ものすごく勇気をもらいました」と、妻と涙を流した姿が忘れられない。男性はしばらくして亡くなった。死と接する機会の多い緩和ケア病棟は、家族や看護師らの精神的苦痛も少なくない。江口さんは「患者さんが動物に触れ、喜ぶ顔は家族や医療者にも何よりの力になる」。
フォトエッセーは、ブックマン社(東京都千代田区)で終末期医療の取材を続ける編集長の小宮亜里さん(42)らが昨春から数カ月病院に通い、シャネルや他の犬たちと患者、医療者らの交流を写真に収めた。
小犬を抱いて「温かい」とほっとした表情の女性。入院後ずっと話さなかった女性が膝にのせた犬に「ありがとう。またね」と語り掛ける姿も。「最後は皆一人。そんなとき、犬たちがぬくもりを感じさせてくれるのでは」と小宮さん。
セラピー犬の中には、ペットホテルに置き去りにされたり、保健所で殺処分される前に協会に引き取られたりした犬もいる。青木さんは「人間に捨てられた命が、人を救っている現実も知って」と話す。
本はA5変型判、152ページ。1404円。問い合わせはブックマン社=電03(3237)7777=へ。
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