瀬尾:ウェブメディアにCTOが就任することはまだ珍しいことかもしれないけど、これからのメディアを考えたとき、外にいる人の視点が必要になると感じているんだよね。海外でもニューヨーク・タイムズやガーディアンが「読者開発」という、新しい読者がいる場所に向けてどのように情報を伝えるのかを考え始めている。
そこにはやっぱり、データやテクノロジーに通じている人が必須だと思う。これからのメディアにおいて、エンジニアリングの技術力とともにクリエイティブも理解した人材――クリエイティブ・ディレクターと言ってもいいと思うけど――がカギになるんじゃないかな。
Tehu:あらゆる分野のバックグラウンドや経験を兼ね備えている必要があるので、なかなかいないですよね。今回、ぼくはCTOということですが、実質CCO(チーフ・クリエイティブ・オフィサー)の仕事が多くなるのかもしれませんね。いずれにせよ、テクノロジーとメディアが密接にかかわる状況はワクワクするので、人工知能をはじめとするいま流行している技術を活用した実験をおこないたいです。
こないだPerfumeの演出などを手がけるライゾマティクスの真鍋大度さんとご飯に行ったとき、NHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」に出演した際のエピソードを話してくださったことが印象的でした。番組の最後に「プロフェッショナルとは」と聞かれるんですが、「一途な人」や「仕事熱心な人」とただ答えるのではなく、なにか普通とは違うことをしてみようとなったそうです。
そこで、過去の自身のブログ投稿やプロフェッショナル出演者の発言、TEDのプレゼンなどを解析して、コンピューターによって言葉を生み出してもらった、ということがとてもおもしろくて。実際の番組では、「炎上を呼ぶときに集まる人」「伝えるレベルを選ぶ人ですかね」「トップ、言葉、限界を捨てる人の巻」という言葉で応えています。
たとえば、こういったアプローチがウェブメディアでも活用できると思っています。現代ビジネスは今年で創刊5年を迎えるということで、膨大な記事があります。過去の投稿やそれに対する反応のデータを収集・分析することで、これからの報道のあり方や読者が求めているものを知ることができるかもしれません。テクノロジーを通じてこれまで蓄積されたデータを再解釈していき、クリエイティブの力をもって表現できたらおもしろいと思います。
ウェブメディアの世界は、テキスト記事と写真を雑誌と同じようにネットに掲載すること以上のチャレンジができていません。読者とのコミュニケーションをあらためて考え直す時期にも来ています。そこでHTML5を中心とした最新のウェブ標準を活用したまったく新しい、より「伝わる」記事を作成することには大きな意味があると考えています。
最近実感したのは、いかなるデータも分析すると意味が出てくるということです。出版社が運営するメディアがテクノロジーとクリエイティブの両輪で最先端のアプローチをおこなうことは新しいと思います。データを活用することで、編集者が感覚でやっていたことが数字として示されるので、改善点もわかりやすいですし、新しいメディア像を考えるヒントが浮かび上がるかもしれません。
瀬尾:講談社のようなレガシーメディアではほとんど勘でやってきた部分もあるから、データ分析によってどんなことがわかるのか楽しみだなあ。
- 「編集者の感覚を数字で示すことで、ウェブメディアは新たな局面を見せる」---Tehu×瀬尾傑 対談【後編】 (2015.03.14)
- 「プロとアマのクリエイターの違いは、『伝えること』を考え抜いているかどうか」---Tehu×瀬尾傑 対談【前編】 (2015.03.13)
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仕事のヒント3月18日(水)「伴走ボランティア」体験イベントを開催。参加者募集中!<PR> (2015.03.14)