近年リーガの統計を見ていて目立つのが、アトレティコ・マドリーのセットプレーにおける驚異的な強さだ。
今季も24節終了時点で50得点の内21点をセットプレーから決めており、10点で続くレアル・マドリーやアスレティック・ビルバオを倍以上引き離している。セットプレーから派生した得点まで含めると数字はさらに伸び、その差は際立つ。
グリエスマンやアルダら小柄な選手もおり、平均身長では他チームと大差はない。では、なぜアトレティコはこれほどセットプレーに強いのか――。
その答えのひとつが、指揮官シメオネが愛する小さな書店に隠されている。
マドリードの中心ソル広場の近くに、1969年創業の書店『エステバン・サンス』はある。あらゆるスポーツ本を揃える国内初のスポーツ専門書店だ。この店でシメオネは戦術本やセットプレー専門書を購入し、地道な研究を行なっているのである。'06年に母国ラシンの監督に就任した際は、監督本、メソッド本、技術本などを70冊購入。スーツケースに入りきらない量だったという。アシスタントのブルゴスを送り、偵察させることもある。店主のサンス氏は言う。
「シメオネは研究熱心で、どんなものからも何かを吸収しようとしている。セットプレーもそうで、うちの本からも積極的に学ぼうとしているんだ」
著者に関係なく目を通し、何かを盗み、練習に落とし込む。
彼が購入したのは『フットボールのシステム』(アルフォンソ・サンチェス著)、『フットボールにおけるセットプレー』(マリオ・ボンファンティ著)など、いずれも有名監督やコーチのものではないが、彼は役立つと思えば手にとり、研究に活用するそうだ。
一般的にプロの監督やコーチは、書店に出回るサッカー戦術本の類には目を向けない。それらはジャーナリストが書いた一般ファン向けのものが多く、「机上の空論」と軽視されるからだ。しかしシメオネは著者に関係なくすべての本に目を通し、何かを盗み、練習に落とし込んでいる。シメオネがセットプレー練習をするのは試合前日のわずか1日だけだが、濃密な練習の裏には、指揮官が書店で過ごす時間も隠されているのである。
ちなみに同書店にはマラドーナも訪れたが「すべてこの中に入ってる」と頭を指差し、一冊も手に取らなかったそうだ。
► 今年からF1に復帰したホンダ、何勝する?
SCORE CARD バックナンバー
- 合同テストで王者の風格。メルセデスの“逆戦略”。 ~手の内を見せなかった理由とは?~ 2015年3月11日
- 石川遼よ、あまり根を詰めるな。 ~4週連続予選落ちに見える焦り~ 2015年3月10日
- つかみどころなき俊英、ハーデンの着実な進化。 ~ロケッツの“あご鬚男”に注目~ 2015年3月9日