Chapter01:トリウッド(下北沢)
取材させていただいた方:オーナー 大槻貴宏さん
安齋:お忙しい中、ありがとうございます。よろしくお願いいたします。
大槻さん:お願いいたします。
安:少しこの取材の説明ですが、現在、単館がどんどんなくなっていっているという「事件」が続き、もうこれ以上単館をなくしたくないという一心で、宣伝活動を含め、取材を行うというものです。
大:ありがとうございます。
安:では、早速取材をスタートさせていただきます!
質問1:トリウッドさんのラインナップの決め方は?
大:まず一つの決め方として、どの劇場でも一緒なんですけど、配給会社やトリウッドだと個人もありますが、制作者側から「上映してほしい」という声を掛けて頂き、その上で作品を拝見します。そして、僕たちが「面白い」と感じたら、それをどの様に見せていくのか、どう伝えていくのかを制作者側と話し合い、合致したら上映しようと決めています。 また、トリウッドを目的に来るお客さんと、下北沢を訪れる人がジャンル的に違うので、意識はあまりしたことがないのですが、全体的にみて「下北沢らしさ」というのも、少し取り入れようと考えていますね。 例えば、前、上映した「イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ」(バンクシー監督作品)は、アップリンクの浅井さんに「絶対下北沢向きだよ」と薦められて、上映したらまさしくそんな感じでしたね。 この作品を上映していたときは、客層が様々で20代30代の「この人、どんな仕事しているんだろう」という方が沢山集まり、100種類くらいの缶バッチを置いたんですが、ものすごい勢いで売れたんですよね。「らしい」ってそういうことだよねと感じがしました。 あとは、らしさとは別に、トリウッドとしては初めての試みなんですけど、6月にホラー映画の上映に挑戦しました。 また、この9月から10月にかけて、世田谷に縁のあるドキュメンタリー作品を2本上映します。これも初の試みです。
安:9月10月にかけての企画もとても楽しみですね。 しかし、今年(2014年)の5月末から6月初旬に行われたゾンビ映画特集も楽しい企画でしたね。
大:そうですね。あれは、「ゾンビウォーク」という企画が面白いなと思って上映したんです。 とても面白かったですよ。スタッフがゾンビ姿で舞台挨拶していたり、受付をしているのに、お客さんは普通という(笑) あと、子供ゾンビがいて可愛いかったです。しかも、元気なんです。ゾンビなのに(笑)
一同:(笑)
大:でも、あぁいう挑戦的な企画はいいなと思いましたね。多分大きなところでは無理だったろうし、細い道を歩き回るというのは、下北沢だからこそ、できたんじゃんないかなと思います。本当に、あのような形でみなさんにお見せできて嬉しかったですね。
安:挑戦の話になったので、お尋ねしたいのですが、大槻さんご自身が「上映したい」という作品の場合は、どの様に動かれているのですか?
大:上映したい映画は、もちろん配給会社にお願いしたりもしますが、最近は”自分たちで探そう、作ろう”と考えるようにしています。 理由としては、配給会社は「同じ労力をかけるなら、席数は多ければ多いほどいい」という考えなので、トリウッドの様な客席数の少ない劇場での上映は若干敬遠されがちだからです。それは、そうですよね。ある種当然だと思います。 それなら自分たちで見つけて配給したり、作ったりする方が面白いと思っていて。 「他の劇場と」でも勿論良いのですが、出来れば「トリウッドだけで」ということを条件に、配給や上映を手掛けようと思っていますし、実際に年何本かはそのような形で、上映もしていますね。
安:最近だと「はちみつ色のユン」ですか?
大:そうですね。作品がとにかく面白かったので、買い付けました。 そして、トリウッドとポレポレ東中野で上映をしましたが、トリウッドにはアニメーション好きなお客さんに、ポレポレにはドキュメンタリー好きなお客さんに来てもらおうと考えました。その為、ゲストはあえて別にしましたし。 また、「はちみつ色のユン」は、素材を全てデータ上でやり取りをしたんです。本当に画期的な時代になったなぁと思いましたね。
安:この様な手段であれば若手の監督が海外に自分の映画を送るということも簡単になったのでは?
大:そうですね。実際にカンヌ国際映画祭に行ったときに、ViMOにデータを上げてくれという話も出ていましたし。今後の活用の仕方に着目していければと思いますね。
質問2:トリウッドの特徴について教えてください。
安:まず、「トリウッド」と名付けたのは関根勤さんという話が有名ですが, どの様な関係で?
大:実は、関係があったわけではないんです。映画館は建設中だけど、名前がまだ決まっていない状況の時に、深夜たまたまテレビを見ていたら、 関根さんが”ボリウッド映画”特集を紹介していたんですね。で、その中で「ボリウッドって何だろう?」という話があって、「ボンベイだからボリウッドなんだ!」という答えになり、「じゃぁ東京ならトリウッドだね」という話が出たんです。 それを見たときに「これだ!」と思い、次の日にはテレビ局と事務所に電話をして許可をとったんです。 スタッフ一同:へぇ~。
大:哲学的なことがないこの名前はとても気に入っています。
安:次に、トリウッドは黄色が特徴的ですが、椅子を黄色にした理由は?
大:黄色が好きというわけではなくて、映画館の配色として黄色がないことを不思議に思ったんですよ。 光の反射の関係で使われないのかな?と。でも、詳しい人に聞いたら、別に意味はなくて。 それで、「悲しい映画を見ても、周りが黄色い椅子だったら、そこまで暗くならずに済むかな。じゃぁ、黄色にしよう」と。あと、気軽な感じにしようと思ったのも一つの理由ですね。 それに、外観は黒と決めていたので、一番映える色は黄色かなとも思って。 そしたら、「阪神ファンですか?」って言われちゃいましたね(笑)
一同:(笑)
質問3:単館の閉館が続いている現状に対してトリウッドさんはどの様にお考えですか?
大:安齋さんは、なんで単館が減っていると思いますか?
安:私的には、経済難だと思います。 単館はシネコンとは少し違い、一見さんには少し入りにくい世界になっているのが大きいのかなと。それで、場所を知られなくなり、足を運ぶお客さんが限られているからだと思います。
大:そうなんですよ。で、その「限られた人しか足を運べない空間」を私たちが作っているのだと思います。 シネコンは、仰られるように、駅前とかターミナル駅にあり、ショーケース的な見方が出来ます。入口に並んでいるポスターを見て、買い物や食事とかを考え、「時間合うし、これにする!」という軽い感覚で足を運ぶ人が多いかな、と。実際、そのような若い人が多いですし、「映画」への入口として素晴らしい存在だと思っています。
そして、単館は、そういう人々を呼び込めていないような気がしています。ちょっと難しそうな、暗い映画、マニアックな映画を上映しているところ、みたいなイメージで、難しそうで敷居が高い。 こういったイメージをどうしていくか、もっともっと尖らせるのもあるのでしょうが、僕たちは、”自分たちの力でお客さんをどう開拓していくのか”を考えなきゃいけないんで。そのためには、”映画の見方”を話すべきだと。
小学校で、「図工」や「美術」は習うけど、「映像」を習うことはないですよね? 例えば、美術は、「どうしてこういう絵が書かれたのか」などを学習して、わからないところは聞くことが出来る。 でも、映画は、科目として存在しないし、教える人がいない。だから、どうしても趣味っぽくなってしまうような気がします。 それはそれでいいと思いますが、僕らは、映像を「教える」まではいかなくても、「読み取るヒントを提示する」とかのきっかけを造りたいと思っています。 それがある程度固まれば、「難しい映画」でも、取っ掛かりが見つけ易くなり、足を運ぶ可能性が増えるのではないかと思います。
更に、シネコンはある意味で「最大公約数」の映画をしていますが、これから世の中は、多様化がより一層進んでいくので、一つ一つの作品の観客は増々深く、強く、しかし細く、小さくなると思っていて、それに対応するのが単館だろうと。 だから、僕は単館の将来への「不安」というものは全くないですね。 ただ、多様化が進めば進むほど、都内は100席以下の小さい劇場だからこそ出来る事が増えて来ると思います。これは、10年くらい前から、言ってるんですけどね。 また、多様化がすごく進めば、それを受け入れる観客は国内だけではなく、海外に見つかるはずだと思っています。 ポレボレ中野とか、うち(トリウッド)で上映したものが、海外で流すとかそういう感じで。そうなると思う白いなと。
安:実際そうですよね。シネコンは長い時間営業していますが、夜中は全く人が入っていなという状態ですし…。
大:そうなんですけど、ではシネコンは長い時間を営業していると思いますか。
安:一度流した映画は、そのタイムスケジュールで流さなきゃいけないとかですか。
大:違うと思います。配給会社が、シネコンのある程度の上映枠を抑えるんですよ。多分「(お客さんが)入らない」と分かっていても、です。それで、他に入らないようにしているんだと思うんです。モノポリしているって感じです。 で、僕たちはその陣地を”開拓”する必要もあるなって思ったんですよ。 例としては、ポレボレし東中野での上映だけではなく配給もした「ある精肉店のはなし」という作品がそうでした。 とあるシネコンに、最初は週末だけ上映して欲しいとお願いをしていったんです。そしたら、公開後しっかりお客さんが入ってきて、ちょっと経った頃、先方から「今度はロードショーをしませんか」とお願いされるわけです。これが、開拓ということだなと。 シネコンでも単館系の映画を流すといった現状が続けば、単館自体が「限られた人」が足を運ぶ場ではなく、様々な人が足を運ぶ場になると思います。
安:もう一つ、いい例が「SRサイタマノラッパー」だと思いますね。いろんな単館でやっていても、シネコンで上映することによって、より多くの人が知るきっかけになると思いました。
大:そうなんですよ。入江悠監督とはこういう話が合うんですよね。そういうことが出来る環境をつくっていったら面白いよねと。成立すれば楽しいですし。 でも、シネコンに電話すると「いや、あなた劇場持っているでしょ」と言われますけど(笑) ただ、自分のしたいことをしっかり話せば「なるほど」って理解してくれるんですよ。
スタッフ一同:なるほど。いい話ですね~。ありがとうございます。
最後の質問:「今後下北沢映画祭に求めるもの」とはなんですか。
大:ハハハ笑 そうですね。毎年コンペティションの審査員をやらせていただいていますが、下北沢映画祭は実写やアニメを一緒に審査しているところが好きなんですよ。 最低限のラインを決めて、なんでもアリという感じが。審査する側は大変だと思いますけど。 でも、実写映画しかみたことのない人が「アニメーションを見るきっかけ」に、アニメーション好きの人が「実写映画を楽しむきっかけ」の存在になってくれたらなと思います。 他にはないものなので。
スタッフ一同:ありがとうございます。期待に応えられるように、頑張ります!
番外編!取材で聞いてみた、映画館スタッフの好きな作品/監督!
安:好きな作品/監督についてお話を聞きたいのですが。大槻さんの一番好きな作品/監督を教えてください。
一番好きな作品は「クーリンチェ少年殺人事件 4時間版」です。 初めて見たときにすごいなと思いましたね。 これが正解かは判りませんが、 この作品は、戦後、様々な世界から、文化が流れてきた台湾で、東洋的思想が良い人と西洋的思想が良い人が対立した物語だと僕は思っています。 小さな舞台(台湾)の中、その場にいる人物だけで東洋思想・西洋思想が争っているということが印象的で。 よくあるじゃないですか、外国の人が出てきて「違う思想」と「元からあった思想」で対決するという物語は。でも、この作品は、外国人無しで描いているんですよ。 現地の人(東洋人)達だけで、文化の違いの唐突を描いたのは本当に凄いなと思いました。 クーリンチェ少年殺人事件とは、 1961年の夏、台湾で実際に起きた事件(クーリンチェ少年殺人事件)をヤン・エドワード監督が映像化したもの。 物語は、エルビス・プレスリーに憧れた少年の心情やその周りの環境を描き、そして、恋をした同年代の少女を殺害してしまう経緯を描き上げている青春叙事詩。 この作品では、移住者に対する圧や戦後から新たに変わろうとする国情なども描きあげている。 また、3時間版、4時間版があり、4時間版では少年が生きた家庭環境をも見ることができる。 しかし、現在、配給会社の倒産の為DVD・ブルーレイ化はしておらず、販売中止になった、LDとVHSでしか見ることができない。 好きな監督は? もちろん好きな監督は沢山いますが、この人だから必ず見るという監督さんはいないですね。この作品は良かったけど、こっちは好きじゃないなってのもあるし。だから、無条件で好きという監督はいないです。
取材・文/安齊那央 写真/縄倉拓峰
トリウッドの行き方 下北沢南口を出て、右側の道をずっとまっすぐ下っていくと、右手に王将が見える。 王将が見えたら、左に服屋がならんでいるのでそこの道を曲がると、「Chicago」という古着屋が見える。その2階にひっそりとトリウッドは存在する。 地図を辿って、是非下北沢唯一の映画館に足を運んでみてください。 きっと、大槻さんの「らしさ」を感じられるのではないでしょうか。
トリウッド: http://homepage1.nifty.com/tollywood/
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