日本を変えるハリルホジッチのこだわり
もたらす勝負強さとわずかな不安
可能な中でベストの選択
技術委員会は代表チームを率いた実績を重視して候補を絞り込んだというが、ハリルホジッチに関して特筆するべきは他国の代表を率いてワールドカップ(W杯)の舞台で結果を出していること。ブラジルW杯でアルジェリアを率いてベスト16に進出し、王者となるドイツを苦しめた実績はもちろんだが、霜田委員長は「2つの異なる国で」本大会に導いた実績もポイントに挙げている。
2008年から率いたコートジボワールでは、圧倒的な攻撃力と安定したディフェンスを実現し、アフリカ予選を圧倒的な戦いぶりで突破。南アフリカW杯を前にアフリカネーションズカップでまさかのベスト8に終わった責任をとる形で解任されたが、ディディエ・ドログバやヤヤ・トゥーレなど個性的な選手を組織としてまとめた手腕は間違いなく高い評価に値するものだった。
規律を守れない選手は切り捨てる
ハリルホジッチがアルジェリア代表の監督に就任したのは11年だが、もちろん最初からブラジルW杯で見せたような研ぎ澄まされた堅守速攻を実現できたわけではなかった。彼は中盤にバランス感覚の高い万能型のMFを配置しつつ、武器はあるが荒削りなタレントを排除せず、彼らにもハードワークの意識と体力、戦術を植え付けた。
ただ、そうしたチーム作りに適合できない選手や、生活面で規律を守れない選手は強化の過程で容赦なく切り捨てた。アフリカ予選を戦いながら“勝つために何をするか”を共有できる集団を作り上げていったのだ。その結果、当時インテルに所属していたイシャク・ベルフォディル(現パルマ)など、個のタレント力では主力を担いうる実力者がブラジルW杯の最終メンバーから外された。一方でソフィアン・フェグーリ(現バレンシア)などプレーの特徴があって、勝利のために献身できると認められた選手は主力として起用され続けた。
アルジェリアの例にも見られるように、ベースになるシステムは決めるが、対戦相手とのかみ合わせなどに応じて多彩なシステムを用いる。そして必要であれば試合中でも思い切って形を変える大胆さがハリルホジッチの特徴でもある。ブラジルW杯でも試合ごとにシステムを使い分けていた。また高い位置からのプレスを理想とするが、ドイツのように完全な格上に対しては全体的にリトリートして構え、ブロックの中に相手が入ってきたところで囲い込んでボールを奪う戦い方でドイツを苦しめた。
01年にフランスのリールを率いてイタリアのパルマとチャンピオンズリーグ(CL)の予備予選を戦った時は、相手の司令塔だった中田英寿にマンマークを付け、相棒のサブリ・ラムーシにもボールを持つ度に数的優位で厳しくチェックするなど、勝つために最も有効な手段を用いていく監督だ。甘酸っぱい理想を貫いて負けるぐらいなら、泥くさく這いつくばってでも勝利をものにするのがハリルホジッチなのだ。