兵庫県・淡路島の洲本市で男女5人が殺害された事件で逮捕された平野達彦容疑者が、「反精神医療本」「精神科忌避本」と表現されることもある『精神科は今日も、やりたい放題』(内海聡、三五館)の影響下にあったのではないかと指摘する声が相次ぎ、波紋を呼んでいます。
平野容疑者は「妄想性障害」と診断され兵庫県明石市の病院に入退院を繰り返していたことが報じられていますが(※参考記事:淡路島5人殺害事件 容疑者は精神疾患で入院「妄想性障害」と診断も - ZAKZAK)、ある時期から通院や治療をやめ、洲本市の実家に引きこもっていたことも明らかになっています。そんな平野容疑者が治療を中断したきっかけとして、『精神科は今日も-』があったのではないかと指摘する声が上がっています。
▼『精神科は今日も-』と容疑者
『精神科は今日も-』は、内科医・漢方医の内海聡氏が「精神科・心療内科の実態について、医学界内部からの重要な告発。」といった謳い文句で2012年に出版した本。
「精神科・心療内科では、無根拠・無責任な診断が行なわれている。」
「すべての精神科医が薬に頼り、薬漬け医療が横行している。」
「治さない(治せない)精神科医療により、治らず通い続ける患者が急増している。」
「精神科・心療内科にかかっている人、その家族の方はもちろん、心の問題を抱えたすべての人に読んでほしい本。」
(※出版社公式サイトより引用)
Facebookの投稿によると平野容疑者は2014年5月に同書を入手し読み始めたようですが、同年7月に通院治療を打ち切っていたという報道もあり、そこに同書が影響していた可能性は否定できません。
また同容疑者は自らのSNSに同書を写真つきで掲載しただけではなく、Facebookの「読んだ本」には唯一同書を挙げるなど、本人もその影響を自覚していたことがうかがえます。
※参考情報
10年12月には母親から「息子の調子が悪い」との相談が寄せられ、緊急処置として明石市内の病院に措置入院。この病院では13年10月までの間、1~2カ月の入院を計3回繰り返し、14年7月ごろまで通院などで治療していた。
(※容疑者両親「怖い」保健所に4回相談 洲本5人刺殺事件 - 神戸新聞NEXTより)
治療をやめた同容疑者は約半年前に明石市から洲本市に帰郷。殺害された被害家族などについて
「人類の敵」 「ギャングストーキングと電磁波犯罪を徹底して行っている」といった記述を繰り返した様子は「治った」と言える状況ではなく、同容疑者の行動に迫った記事の
(※兵庫・洲本5人殺害、被害者家族は警察に9回相談より)
この男はフェイスブックやTwitterなどで "典型的な発言" を繰り返しており、自身が「集団ストーカーだ」と認定した人間の実名や住所などを書き込み、誹謗中傷を繰り返していた。という記述にもあるように、症状は良くなるどころか悪化していたようです。
そうした書き込みの中には「日本政府は米軍・ユダヤと共謀して電磁波犯罪を繰り返している」「3.11は地震兵器による人工地震」「ユダヤはナチスよりも酷い電磁波犯罪集団だ」といったお約束の文字列が踊っており、また前後の繋がりのない単語の羅列もある。こうした点から "言葉のサラダ" 化する手前まで病状が悪化した状態だったのだろうと推測が可能だ。
(※【洲本市5人殺害】自称「集団ストーカー被害者」の凶行が意味するものより)
『精神科は今日も-』は
「精神科は99%が誤診!」と謳っていますが、果たして平野容疑者が繰り返した入退院も"誤診"だったのでしょうか。(本人は"誤診"だと確信したかもしれませんが……)
もちろん、『精神科は今日も-』が平野容疑者を犯罪そのものに駆り立てたということは決してありません。また、現段階で同書が本当に容疑者の治療中断に影響を与えたと断定するものでもありません。
しかしテレビ、週刊誌からYomerumoも含めたネット媒体まで、「医療否定論」や迷信のような疑似科学・カルト・トンデモ論などの情報を不用意に垂れ流す風潮もある昨今。こういった事件が起きたことについて、メディアの責任も含め何らかの議論が必要なのかもしれません。
▼ネットの反応は
そんな平野容疑者の"愛読書"について、医療関係者も含めたネットユーザーの間では淡路島の5人殺害事件、犯人と見られる男が、内海聡著の精神科忌避本を読んでいたようだ。この本が彼の治療を阻害していたのだとすれば、内海の責任も問われてしかるべき。 https://t.co/DwRDSAwKjc
— Go Nakagawa Okumura (@Go_Go_Go_Go_Go) 2015, 3月 12
RT 洲本殺人事件の容疑者は
14年5月にFBで内海聡医師の本を読んでいると報告、その後も内海氏の記事をシェア
14年7月まで通院(その後は通院していない→断薬したおそれあり)
14年10月から両親が保健所に息子が怖いと4回相談
内海氏は関連なしと言い切れるか?
— ソフトタモリ@ねこあつめ (@softtamori) 2015, 3月 12
5人刺され死亡 40歳男を逮捕 NHKニュース http://t.co/qsVYbnlJ08
この逮捕されたとおぼしき人のツイッターアカウントやFacebook見ると内海聡医師の「精神科は99%誤診」的なタイトルの本買ったとかポストしててそろそろこういうの野放しどうなんですかね
— タビトラ (@tabitora1013) 2015, 3月 11
…といった声が相次ぎリツイートされる一方で
TLでは、淡路島の事件と内海聡師を結びつける意見が沢山見られるけど、今回のことで彼らが反省するとか責任を感じるとか期待するならそれは間違い。
あいつら、絶対に「精神科に通院していたから脳が破壊されて事件を起こした」て主張するよ。だって、そういう教義だから。
— ながし (@Pnagashi) 2015, 3月 12
…という指摘も。なお、内海氏は特にこの事件に関するコメントを発表していません。※追記:繰り返しになりますが、『精神科は今日も-』が平野容疑者を犯罪に駆り立てたということではありません。また、当然ですが「妄想性障害」「統合失調症」と診断された方や「集団ストーカー」の被害を訴える方が平野容疑者と同様の凶行に走るわけではなく、回復も可能です。
「通常、妄想性障害によって重度の障害が引き起こされることはありません。ただし、次第に妄想に深くのめり込むようになることがあります。たいていの場合、仕事を続けることができます。
医師と患者の良好な関係は治療のために有用です。危険な患者であると判断される場合には、入院が必要となります。
抗精神病薬の使用は一般的ではありませんが、場合によっては症状を抑える効果があります。妄想にとらわれた患者の関心を、もっと建設的で満足感の得られる領域へと向けることが長期治療の目標ですが、達成にはしばしば困難を伴います。」
(※妄想性障害 - メルクマニュアル医学百科[家庭版]より)
「『普通の話も通じなくなる』『不治の病』という誤ったイメージがありますが、こころの働きの多くの部分は保たれ、多くの患者さんが回復していきます。
高血圧や糖尿病などの生活習慣病と同じように、早期発見や早期治療、薬物療法と本人・家族の協力の組み合わせ、再発予防のための治療の継続が大切です。脳の構造や働きの微妙な異常が原因と考えられるようになってきています。」
(※統合失調症 - 厚生労働省より)
※各症状についての詳しい情報はこちら
- 妄想性パーソナリティ障害 - Wikipedia
- 妄想性障害 - メルクマニュアル医学百科[家庭版]
- 集団ストーカー - ニコニコ大百科
- 統合失調症 - Wikipedia
- 統合失調症 - 厚生労働省
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(画像は平野容疑者のFacebookより)