東日本大震災による原発事故が起きてから、3年が過ぎた。被災地の外では事故の記憶が薄れつつあるなか、本書に出てくる原発作業員の肉声は鮮烈に響く――。
「初めて原発を見たときは、かっこいいと思ったんですよね。1トンくらいあるボルトとか初めて見て、かっけえなあって」
「“原発テーマパーク”でも造ったら繁盛するんじゃねえの。第一原発エクストリームツアーして、そのあと防護服のコスプレして記念写真撮ってやるんだ」
著者の岡 映里(おか・えり)氏は女性だ。震災当時は週刊誌記者で、年齢は33歳。夫とは別居中で、親とも絶縁状態だったと本著『境界の町で』で明かされている。
震災直後から被災地に入り、原発の事故現場に作業員を送り出す下請け会社社長の「彼」との出会いがきっかけで、福島の警戒区域に通い詰めるようになった。
以来、原発に勤める作業員と共に酒を飲んだり、その親方である「彼」に恋心を抱いたり……。前出の作業員らの肉声は、そうした濃密な関係のなかでつかみ取ることができた言葉だ。
―震災後、4月上旬には高線量の警戒区域に入っていますね。内部被曝(ひばく)の恐怖心はなかった?
岡 なかったといえば嘘になりますが……。今思えば週刊誌記者として、テレビや新聞に負けないネタを取りたかったんだと思います。「彼」と初めて出会ったときは、自分を原発作業員として1F(福島第一原発)に送り込んでもらいたいと思っていました。でも、女性は原発内では働けないと知らされて、悔しかったですね。