社会保障と税の共通番号(マイナンバー)の利用拡大を目指すマイナンバー法と個人情報保護法の改正案が国会に提出された。行政サービスの効率化を促す改正案の早期成立を期待したい。
マイナンバーは国内在住者すべてに12桁の番号を振る制度で10月から通知が始まる。国や自治体による税や社会保険料の徴収などに役立てる狙いだ。改正案では預金口座の名寄せを容易にすることで公平で適正な納税につなげる。
医療分野では乳児の予防接種や健康保険組合によるメタボ健診などの情報を番号で管理し、転職や引っ越しの際に情報を簡単に引き継げるようにする。政府がこうした番号制度の利用拡大に動き出したことは評価できる。
一方、個人情報保護法の改正案は2003年制定の現行法を12年ぶりに見直す。マイナンバー法で設置された監督機関を改組し「個人情報保護委員会」として内閣府に新設、立ち入り検査を含め保護対策にあたれるようにする。
また個人情報の定義を明確にし携帯端末などから得られる個人認証データも保護対象とする一方、匿名化を条件に様々な情報を商品開発などに使えるようにする。番号制度の普及を促すプライバシー保護対策として妥当だ。
だが、マイナンバーの本格的な活用には課題もある。改正案で用途拡大に道を開いたことは望ましいが、預金口座への番号記載は当面は任意で強制力がない。脱税や生活保護の不正受給を防ぐには義務付けが必要になろう。
医療分野でもカルテや診療報酬明細書(レセプト)には利用できない。番号でカルテや処方箋の内容を把握できれば医療機関による過剰な検査や投薬を防げる。政府は今後の検討課題としているが、早期に議論を深めるべきだ。
さらに様々な医療情報を匿名化し、いわゆるビッグデータとして分析処理すれば、医療サービスの向上や新薬開発にも活用できる。番号制度を医療や介護、年金など社会保障制度の抜本的な改革につなげることが重要だ。
政府による番号制度には02年に導入した住民基本台帳ネットワークシステムがある。行政事務の効率化には役立ったが、用途を限定し、国民の理解を得られなかったことで広まらなかった。今度は新制度の仕組みとメリットを政府が国民に周知し、企業も制度の普及に協力する必要がある。