鉄道再評価の機運が世界的に高まっている。東南アジアやインド、中東では渋滞緩和や成長加速の切り札として、通勤路線の新設や都市間を結ぶ高速鉄道プロジェクトが相次いで動き出した。
自動車社会の米国でも地球温暖化問題が契機になり、長距離高速鉄道の計画が各地で進んでいる。
安全技術や定時運行のノウハウを磨いて、長年にわたって実績を積み上げてきた日本の鉄道産業としても、グローバル展開に弾みをつける好機が到来した。
インフラの輸出拡大は日本の成長戦略を考えるうえでも重要な課題であり、大いに注目したい。
最近の動きで特筆されるのは、これまで国内ビジネスに専念してきた東日本旅客鉄道(JR東日本)や東海旅客鉄道(JR東海)などの鉄道会社が海外事業に積極的に取り組み始めたことだ。
JR東日本はタイ・バンコク北部を走る通勤新線事業に参画するほか、インドなどに日本の新幹線の採用を働きかけている。JR東海も経営首脳自ら陣頭指揮を執り、リニアモーターカーの米東海岸への売り込みに余念がない。
日立製作所や川崎重工業などのメーカーも単なる鉄道車両の供給にとどまらず、運行管理のための信号システムや車両の保守サービスにも事業の幅を広げつつある。鉄道会社とメーカーが協力すれば、時間に正確で信頼性の高い日本流の鉄道システムをそっくり海外に移植することも夢ではない。
とはいえ取り組みは緒に就いたばかりだ。各地で実績のある欧州勢のほか、アジアや南米市場の開拓に意欲を燃やす中国企業など新たなライバルも台頭している。
こうした国際競争に打ち勝つためには、日本政府が相手国に日本製の採用を働きかけるなど官民の息の合った努力が必要だろう。国際協力銀行や商社の持つ金融機能も重要だ。国民生活や経済活動を支える鉄道インフラの輸出は、個別企業の競争力に加えて、外交や金融を含めて日本の総合力が問われるテーマである。