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被災者自立へ細やかな復興支援を

2015/3/11付
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 仙台空港に近い宮城県岩沼市の玉浦西地区。広がる約20ヘクタールの土地に真新しい住宅が並ぶ。津波で被災した沿岸部の6集落の住民が集団で移転する宅地だ。すでに入居が始まっており、最終的には1千人が暮らす街になる。

 東日本大震災から4年がたち、岩手、宮城、福島の被災3県の各地で街づくりが本格化している。ただ、岩沼のように完成のめどがたったところは多くない。

■公営住宅まだ3割強

 被災者が集団移転する宅地のうち、3月末までに工事を終えるのは計画の2割にとどまる。災害公営住宅も予定の3割強しか完成しない。仮設住宅などで暮らす人々は今も約23万人。建設資材や人手の確保はなお欠かせない。

 住宅の再建が本格化する時期は被災者のケアも大切になる。仮設住宅で生まれたコミュニティーが再び壊れるからだ。高齢者らが心身の健康を保てるよう、専門家らがしっかりと見守り続けなければならない。

 住宅をめぐっては、自治体の多くが被災者の意向確認に手間取ってもいる。岩手県大槌町では集団移転のために用意した区画の3割以上が空きかねない。自力で住宅を建てようという人が年々減っているためだ。

 被災者の悩みは住宅問題に限らない。健康の相談から仕事のあっせんまで、一人ひとりに寄り添う取り組みが今こそ求められる。

 産業の再生は道半ばといっていい。政府の補助金を受けて立地する企業はおよそ900社に達し、被災3県の生産水準は震災前に戻りつつある半面、業種ごとの違いが目立ってきた。

 水産業や食品加工業などでは生産や売り上げがなかなか回復しない。販売の支援や風評被害の払拭に、政府はさらに力を入れるべきだ。こうした産業では人手の確保も課題となっている。

 東京電力・福島第1原子力発電所の事故の影響は今も深刻だ。

 福島県では昨年4月に田村市、同10月に川内村の一部で避難指示が解かれ住民が戻れるようになった。県東部の大動脈である国道6号線や常磐自動車道の開通で南北の分断が解消された。だが、これらは「線」の復旧にすぎない。

 原発に近い11市町村では今も約8万人が避難生活を余儀なくされている。国による除染が始まったばかりの地域も多い。

 まず原発事故を完全に収束させねばならない。汚染水対策では決め手を欠いているうえに、情報公開に前向きでない東京電力の姿勢が改めて問題になっている。

 除染はメリハリをつけて加速するときだ。政府は住宅地の除染を優先する計画を立て、川俣町や葛尾村ではほぼ完了した。これを農地などにも広げ、住民が帰還したときの被曝(ひばく)をいかに抑えるかが今後の問題になる。国と自治体が協力して、除染計画をつくり直してもらいたい。

 住民が戻れるようになっても生活の再建には時間がかかる。帰還した住民が将来の夢を描けるよう街や地域産業の未来図が要る。

 事故直後の放射線量が高く「5年以上は帰還が困難」とされた地域を今後どうするか。大熊町、双葉町、浪江町の多くの地域が指定され、除染も手つかずになっている。避けて通れない問題であり、正面から向き合うときだろう。

■福島復旧を線から面へ

 事故から4年たち、帰還困難区域でも地域によって放射線量にはばらつきがある。一律に帰還困難とするのではなく、線量に応じて区域の見直しを検討すべきだ。福島の復旧を「面」へと広げたい。

 震災から5年間の「集中復興期間」は2015年度で終わる。復興増税などであらかじめ手当てした資金はもうなくなる。今後も計画的に復興を進めるには新たな財源の確保が求められる。

 まず、これまでの取り組みを検証し、これから必要な事業を精査する必要がある。復興に名を借りた無駄な事業が忍び込まないよう、今後の事業はすべて被災地向けに限定すべきだろう。

 従来は国が実質的に事業費の全額を負担してきた。住宅再建が終わって復興が新たな段階に入る地域では、地元の自治体に一部負担を求めることもあり得よう。被災自治体の財政事情も勘案し、慎重に判断してもらいたい。

 これから被災地ごとの復興の状況にはますます差が出てくるだろう。被災者が抱える事情や取り巻く環境は様々だ。被災者一人ひとりが苦難を乗り越え、自立した生活を取り戻せるように、これまで以上に国や自治体のきめ細かな支援策が要る。

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