HOME   »   アニメ  »  手塚治虫は本当に「ヤマト」に嫉妬して泣いたのか?
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現在朝日新聞で連載されている「ヤマトをたどって」という連載記事があります。
あるひとつのテーマを深く掘り下げていく「○○をたどって」という連載企画で、ヤマトに関わった人、影響を与えた受けた人たちについて書かれています。

(ヤマトをたどって:10)その成功がジブリ生む:朝日新聞デジタル

しかし、昨日の第10回目を読んで疑問に思うことがあったのですね。
これは本当なのでしょうか?

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手塚治虫が泣いた?


私が引っかかったのはこの部分でした。

「要するに『さらば宇宙戦艦ヤマト』は、浪花節でしょう。それが受けるということは、僕が戦後、日本という国を変えるために子どもらに提供してきた漫画は、意味がなかったということですか!」

 手塚治虫はそう叫ぶと、感極まって泣き始めた。

 「さらば」の公開から2カ月後の1978年10月。アニメ制作の重鎮6人が集まり、座談会をした。司会の手塚は当時49歳。「さらば」が大ヒットした要因について、他の出席者らに執拗(しつよう)に意見を求め、感情を爆発させたという。なぜ手塚は泣いたのか。

via:(ヤマトをたどって:10)その成功がジブリ生む:朝日新聞デジタル


ここで書かれている「座談会」というのは、アニメージュ79年1月号に掲載された「SPECIAL座談会 BIG turning pointをむかえたアニメ界 いまこの一年をふりかえって、ぼくたちは何をしなければいけないのか?」とのことでしょう。
この座談会が収録されたのは78年の10月2日でした。

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では、この座談会において手塚治虫氏は何と言っているのでしょう。
実はこの座談会の内容は以前にこのブログにて紹介しています。
(参照記事:「アニメージュ79年1月号アニメ界SPECIAL座談会)」
その中から該当するであろう部分を抜粋します。

手塚 今年のアニメ界を象徴するものとして例の「ヤマト」のヒットがあります。その要因あたりから話をはじめましょうか。

横山 ひとつは、テレビ放映後、全国各地にできたファンクラブを制作者が正確に把握していたことがありますね。それと宣伝力がしつこいというか、すばらしかった。

手塚 そのふたつの要因だけなんでしょうか?

藤岡 ……それと、あれは"国民映画"じゃないかという見方をしていた人も多かったですね。私をふくめまして。

手塚 なるほど、吉川英治ですね(笑)。

藤岡 あの作品のモチーフは、日本人好みのセンチメントを臆せずてらわずストレートにだしている。そのアクの強さが広く受け入れられたんじゃないでしょうか。

遠藤 ぼくも藤岡さんと同意見ですが、ただ、西崎氏がSFブームを先取りしていて、それが的中したということは見ていて拍手したいほどですね。

手塚 でも、それは偶然でしょう?

笹川 ……なぜ、大人に近い人たちがアニメに興味をもちだしたのかというと、彼らは子どものときからアニメを見ているわけですよね。で、この人たちが成長してきた。すると、まさか「おばQ」に拍手するわけにはいかないから(笑)「ヤマト」を見る。ちょうど彼らにピッタリくる作品だったわけだし…

手塚 けど「ヤマト」がズバぬけてあたったというのは、小さい連中が育ってきて発言力をもってきたということだけでは、語りきれないと思うんですけど……。

富野 ……「ヤマト」の場合、女の子の支持層が圧倒的に多いんですが、キザないい方をすれば"「ヤマト」のなかに男を見たい"という気分があったんじゃないでしょうか。

手塚 なるほど。逆にいうと"男"を描いているということですね。

富野 描いているかどうかは、また別問題ですけど。

藤岡 国民的英雄だから(笑)。

富野 そうですね、ナショナリズムとドッキングしている部分はまちがなくありますし……。

遠藤 けど、無邪気な人間の歌というのかな、そういうものはあの作品にでていますね。西崎氏がたしか昭和8年生まれで、ぼくと同じ世代なんだけど、その時代に人格形成した人間の歌というか、郷愁みたいなものが非常に純粋に表現されていたのは印象的でしたね。

手塚 ということは、古いものに指向していくんですかね?



手塚 ぼくは、あの受け方を見ていて、「明治天皇と日露大戦争」を思い出した(笑)。つまり、あれも戦争の中の男の浪花節でしょう。ま、「ヤマト」をあえて浪花節とはいわないけどね。やはり、日本人というのはどんなに民主政治になっても、あるいは世代が若くても年老いても、ひとつぬけきれない"日本人意識"みたいなものがあるんじゃないかな。

via:アニメージュ79年1月号アニメ界SPECIAL座談会


たしかに「ヤマト」がヒットした要因について出席者に意見を求めています。
しかし、それは「執拗」と表現されるまでのものではありません。
さらに、「感情を爆発」させて「感極まって泣き出す」ことなどしておらず、出席者の話を冷静にまとめています。
「浪花節」という単語は出ていますが、記事では「浪花節でしょう」となっていますが、実際の発言は「あえて浪花節とはいわない」となっており正反対になっています。

資料を曲解・捏造していないか?


もちろん、紙面上は冷静なように編集したものの、実際は泣き叫んでいたということも考えられます。
しかし、この連載記事では昨日の第9回でも引っかかる部分があったのです。

 富野はヤマトのプロデューサー、西崎義展より7歳年下だった。「西崎ら上の世代が敗戦への悔しさを抱き、ヤマトでそれを表現したのは理解できなくもない。だが、現実にはどう戦おうと負け戦だったのは明らか。歴史を正確に見る次世代を育てるには、ヤマトのような太平洋戦争への懐古趣味に満ちた物語ではいけない」。そう考えていた。

 ガンダムでは、宇宙植民地の一つが「ジオン公国」を名乗り、「宇宙に住む人々を地球連邦の圧政から解放する」と称して戦争を起こす。「アジアを欧米の植民地支配から解放する」として戦った日本を意識したのは明らかだ。

via:(ヤマトをたどって:9)ガンダムが描いた冷たい現実:朝日新聞デジタル


富野が「ヤマト」を「太平洋戦争への懐古趣味に満ちた物語」と評したことがあったでしょうか?
富野はアニメビジネスとしての「ヤマト」について「倒すべき敵」「打倒」といった語り口で語ることはあっても、その内容について踏み込んだ発言をすることはあまりないように思われます。
実際にデジタルアーカイブ化しているデータで調べたところ、該当したのは以下の2つだけでした。

「戦艦をキャラクター化し、幅広いファンを獲得した。『ガンダム』で『ヤマト』を否定したかった部分もある。だが、メカのキャラクター化が人気を呼んだ点は同じ」

via:読売新聞【「ガンダム」以後】オタクアニメの市場成長

「『ヤマト』に対して『ミリタリー趣味へのあこがれ』という嫌悪感が僕にはあった。」

via:毎日新聞 時代を駆ける:富野由悠季/1 「ヤマト」意識、「ガンダム」を青春群像劇に


下の「ミリタリー趣味へのあこがれ」という表現がそれに近いように思われますが、ここで否定しているのは「ミリタリー趣味」全体であって「太平洋戦争への懐古趣味」ではありません。
私にはこの記事の筆者である太田啓之氏が似たような表現を自分の言いたいことに置き換えて語っているようにしか思えません。

「結論」ありき?


また、ジオン軍が「「アジアを欧米の植民地支配から解放する」として戦った日本を意識」しているというのも初耳です。
ジオンといえばむしろナチス・ドイツ的なイメージが強いのではないでしょうか。

これが「そうとも考えられる」「とも読み取れる」といった書き方であれば、「そういう見方もあるのか」と受け取ることができますが、「明らかだ」と断定されてしまうと「お前がそう思うんならそうなんだろう、お前ん中ではな」としか言えません。

語られている論調も特定のイデオロギーを帯びた、いかにも「朝日らしい」論調です。
「自分の言いたいこと」が先にあって、それに合わせて情報を切り貼りしているように私には見えます。
このような書き方だと、先の手塚治虫氏の部分も太田氏の「結論」に都合の良いように書かれているのではないか?
そう邪推したくなります。

他の著作の信ぴょう性も下げる


この記事を書いた太田啓之氏は以前に「新潮45」に「ガンダムか司馬遼太郎か」という記事が掲載され、当時「TOMINOSUKI / 富野愛好病」のkaito2198さんが「極めて刺激的な内容だったようなので、皆さんもぜひ読んでみましょう!」とお勧めされてました。
TOMINOSUKI / 富野愛好病 朝日新聞・太田啓之「ガンダムか司馬遼太郎か」は必見!
極めて刺激的な内容だったようなので、皆さんもぜひ読んでみましょう! ...

また、「シャア専用ニュース」さんでも熱く推されていました。

夕刊フジに載っていた広告の見出しに目を奪われ、さっそく購入。富野由悠季「機動戦士ガンダム」と司馬遼太郎「竜馬がゆく」を題材に、両者の作家性や作風を比較検証するという極めて挑戦的な作家・作品論を6ページにわたって展開。いやあ、これがとてもとても面白い! 著者のガンダム、いや富野由悠季への並々ならぬ敬意と愛情がひしひしと伝わってきて、富野ファンならニヤリとしてしまうこと受け合いだ。私も読みながら「ちょっと、ちょっと、褒めすぎじゃないの?(笑)」と思いながらも、ニヤニヤしっぱなしでした。富野ファンなら読んで損なし。お勧めです!


via:シャア専用ニュース 恒例スペシャル放談「富野由悠季 オトナの仕事論」収録! 「オトナファミ」2013年5月号 本日発売!


私はこの時は太田氏の文章は読んでいなかったのですが、このような文章を書かれる方ならばこれも実は資料を都合よくねじ曲げているのではないか?そういった目で見てしまいます。

もちろん、これは邪推でしかありません。
しかし、いったんそういう疑いの目で見ると、他の著作の信ぴょう性も下げてしまうと思うのです。
2013年の富野インタビュー「ガンダムの警鐘」など太田氏には素晴らしいお仕事もあります。

このような資料に当たればボロが出るような書き方は太田氏ご自身の今までのお仕事の評価も下げてしまうので、今後のためにもお気をつけになられたほうがいいのではないでしょうか。

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  • 北関東在住のおっさん。
    富野信者、富野研究家ではありません。ただの富野資料蒐集癖。
    アルバトロスのZ級映画が大好物。
    ご連絡はdameganoあっとgmail.com(あっとは記号に直してください)までお願いします。

    このブログでは「富野作品論」のような難しいものは扱っておりません。それらをお求めの方のご期待に沿えることは難しいのでリンク先の各サイトを参照なさることをお勧めいたします。

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